【連載】D2C Design Studio Talk vol.3 – 企業がD2Cブランドを立ち上げる際に留意すべきポイント-

みなさん、こんにちは。
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の児玉 誠周です。 

連載vol.2では、時代の不可逆的変化と生活者のライフスタイル・価値観の変化がD2Cブランドの支持されている背景にあるとお伝えしました。
今、将来が予測不能なVUCA時代に突入していると言われており、ビジネスに新しさが求められています。 企業でもD2Cブランドのような革新や創造が必要になってきております。

しかし、社内枠組みを超えて事業やサービスを創造するには、”事業担当者”が熱意を持って、社内外に提案を通す/協力を募るなど、長期的な戦いが必要になります。

 Vol.3では少し視点を変えて、企業がD2Cブランドなど新たな事業・サービスを立ち上げる際に留意すべきポイントをお話させていただきます。

新たな事業を立ち上げる際の基本的な流れ


事業創造を行うには、提案したサービス・モデルが承認される「サービス構成確立」と、試行的に事業を開始する「サービス試行立ち上げ」のプロセスをクリアしなければなりません。

「サービス構成確立」は、課題/機会発見からアイデア発想を行う”着想”と、試行の許可をもらう”承認”のフェーズになります。

「サービス試行立ち上げ」は、承認されたサービスアイデアをもとに、検証を繰り返しながら、実現可能性と受容性を確認する “検証”と“実装”のフェーズになります。

プロセス毎に障壁があり、特に留意すべきポイントは「プロジェクトマネジメント」と「上申」です。障壁をクリアし、事業創造を行っていくには、どのような行動や意識が重要になるかお話させていただきます。

「プロジェクトマネジメント」で意識すべきポイント

ポイント① 社内協力者/社外パートナーとの結託

生活者の共感を誘う強い問題意識やストーリーを持っていても、1人の力で事業創造を進めていくには限界があります。まずは、問題意識やストーリーに共感してくれる社内協力者を見つける必要があります。

事業創造を独創で進めるのは、理想的ではありません。独創だと、自分のアイデアに確信が持てなくなり停滞が起きやすくなります。そうならないためにも、社内協力者との対話を通じ、アイデアに確信を持てるような共創環境を構築することが重要になります。

企業が新規事業を行うメリットとして、既存の自社アセットを最大限活かせることが挙げられます。行いたい事業創造に合う自社アセット・アライアンスを洗い出し、事前に担当者と話をした上で結託することも、後々のステップを優位に進められるポイントになります。
あくまで一例ですが、既存事業でプロダクトを販売しているのであれば、SaaS Plus a BOXといった形で既存プロダクトにサービスをかけ合わせて展開していくパターンもあります。 SaaS Plus a BOXは、連載vol.1で紹介をさせていただいたPelotonのように、SaaS(Software as a Service)をプロダクトに付随する形で展開していくモデルになります。既存事業に相乗りする形でサービス展開を狙っていけるのも、企業ならではの特徴になります。

また、社内だけでなく、プロジェクト遂行のサポートを行う社外パートナーとの共創も有効な手段です。社外パートナーは、ワークプロセスの構想やアイデアの具体化が出来るフレームワークの提供など、事業創造の有識者としても作用します。

ポイント② 各メンバーが存在目的を持てるvisionやmission

目指すvisionや、やるべきmissionがメンバーの共通認識になっていることが理想的な状況です。プロセスを進めていくにつれ、社内チーム編成が必要な場面が出てきます。visionやmissionが共有されていないメンバーは、存在目的を見失い、否定意見が多くなるなど、停滞の原因になりえます。

関わるメンバー全てがvisionやmissionを追求する姿勢になるように、意見や意思が尊重される環境を作り出すことが重要です。

そのためにはメンバー全員がアクセスしやすい足場が必要です。意思決定者への事前ヒアリングで否定されそうなポイントの洗い出し、協力が必要な社内メンバーの予測と理由をもとに、足場作りを行います。足場は、意見や意思を言いやすい環境を作り、存在目的を持ちやすくなります。

また、visionは、「将来、こうありたい」といった目標を指すものですが、共感を誘いやすいPurpose(パーパス)と呼ばれるものもあります。Purposeは、事業の存在意義や目的を表すものです。Purposeは生活者の共感を誘うだけでなく、関連する社内メンバーの共感も誘いやすく、新規で参入したメンバーも働きがいを見つけやすくなる良い手段になります。連載Vol.1で紹介させていただいた「Warby Parker」も、「誰もが見る権利がある」というmission、「社会性を重視したやり方で、高品質のアイウェアを革新的な価格で提供する」というpurposeを掲げています。

「上申」時のポイント

ポイント① サービスの具体を組み込む

意思決定者の承認を得る際に、データによる裏付けが求められることがあります。しかし事業内容が、新たな市場を創造するものである場合、データによる裏付けは難しいです。もちろん、定量的なアプローチで意思決定者の承認を得るように動くパターンもありますが、意思決定者の共感を誘うアプローチもあります。そこで重要になるのが、サービスアイデアで共感を得るようにできる具体的なサービスアイデアの提示物です。

意思決定者は、基準がない状態で承認を求められています。そのため、サービスアイデアの内容を判断軸にする可能性があります。

抽象的な概念ではなく、生活者の体験が分かるサービスイメージやムービーを提示し、イメージを膨らませる提示が有効な手段です。また、生活者の反応を映像で伝える/アライアンス候補の反応など、外部の反応を創意工夫して提示することも有効な手段になります。

ポイント② POC(=Proof Of Concept)構想を組み込む

具体がイメージでき、共感を誘う内容でも、サービスアイデアの良し悪しが判断できる基準を求められる可能性はあります。そのため、短期で確認できる成果を洗い出し、検証プランを組み込むことも大事なポイントになります。

実装と検証を繰り返す具体的なプランを提示することで、スモールスタートで試行を行う承認が得られる可能性があります。POCの構想と次に繋げるアクションプランを明確に示すことが「サービス試行立ち上げ」フェーズに移行できるポイントになります。

ポイント③ 視座を上げる

事業担当者/社内協力者の「視座を上げる」ことが重要になります。例えば、社内事業との競合が生まれてしまう、社内の事業領域にそぐわないと判断されないように、少し抽象度を上げて説明することも有効な手段になります。
事前に社内事業を棚卸し、競合を防ぐように整理する方法もありますが、”自社の存在意義・目的に沿った事業内容である”というように、既存事業目線ではなく、社内意義・目的に焦点をあて、少し抽象度を上げて提案を行うことがポイントです。

また、企業によっては承認・実現性の確認に時間がかかることが予想されます。今の生活者ニーズを取り組むのではなく、将来への視座も上げることも重要です。
「サービス試行立ち上げ」フェーズが終わり、正式に事業としてローンチする時期を見据える/中長期的な成長を見込むためにも生活者の意識変化・市場や技術の変動を予測し、提案に取り組むことが有効に働く場合もあります。

最後に

D2Cブランドのような事業・サービスの創造には、長期的な目線で社内組織の構築、意思決定者の承認を乗り越える熱量が必要になることをお話させていただきました。しかし、個人的な問題意識から生まれるストーリーが新たな事業・サービスになり、生活者に愛されるブランドになっていきます。今後も、社内枠組みを超える熱量ある姿勢がますます重要になっていくと思います。

次回予告

事業創造にチャレンジしたいと思っていても、進め方が分からない、そもそも何から始めるべきかなど、分からないことだらけだと思います。事実、既存の製品開発アプローチだけでは対応できない部分が数多くあります。調査一つに対しても、製品に対するニーズを探すマーケティングリサーチと、新たな市場創造を行うためのデザインリサーチでは注力するポイントや、リサーチの仕方も異なります。また、アイデアもそう簡単には思いつきません。
次回の記事では新たな市場を開拓する際にどういう枠組みが必要かをお話する「博報堂が提唱するD2Cブランド開発プロセス」をお話させていただきます。



この記事を読んでD2Cに興味を持って頂けたらお気軽にご相談ください。
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ライター紹介
児玉誠周 | 慶應義塾大学大学院卒業。2017年に博報堂に入社し、ブランド・イノベーションデザインに所属。デザイン思考をベースとした事業・商品・サービス開発や、解釈人類学(エスノグラフィー)等のデザインリサーチ、商品サービスのコミュニケーション設計、マーケティングを行う。

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