【連載】D2C Design Studio Talk vol.2 - 生活者視点で考えるD2Cブランドが愛される理由 -

みなさん、こんにちは。
博報堂ブランド・イノベーションデザインの山﨑健登です。

先日お届けした、vol.1 - 世界で愛されるD2Cブランドに共通する3つの特徴 - では、D2Cブランドの3つの特徴についてお伝えしました。今回は、生活者に愛されるブランドになるためには、なぜ、それらの特徴が重要なのか、時代背景や生活者のライフスタイル・価値観の変化を踏まえながら、考えていきたいと思います。

なぜ強いブランドストーリーが必要か?

ポイント①:機能以外の判断軸を求める生活者

先進国では、モノが溢れ、生活者は現状の製品やサービスの機能的価値に対して、概ね満足するようになりました。また、製品のコモディティ化が進んだことで、製品の検索や選択にかかるコストが高まりました。そのため、生活者は、数ある製品からモノを買う際に、機能以上に、買う意味や納得感をより一層求めるようになりました。
こうした背景から、生活者にとって、製品の世界観や人、体験といったストーリーが、製品選択の判断軸として重要になってきたと考えられます。

ポイント②:口コミを頼る生活者

一方で、インターネットの普及により、価値観や選択肢が多様化し、情報量が増大したことで、自身の考えや価値観に自信を持てない生活者が増加してきたように思います。インフルエンサーを活用した施策など、マーケティング手法の変化も、そうした生活者インサイトの表れのようにも感じます。このように近年、製品選びの際に、信頼できる意見を参考にしたいというニーズから、口コミを参照する人の割合が増加してきました。
こうした口コミの質や量を高めるためにも、人々が共感し共有したくなるようなストーリーの重要性が増してきたと考えられます。

ポイント③:価値観にあったものを選びたい生活者

D2Cブランドのメインターゲットである、ミレニアル世代以下の生活者の特徴として、SNSが生活の一部になっているということが挙げられます。彼らは、SNSを情報取得やコミュニケーションに加え、自己表現を行うツールとして日常的に使用しています。
そのため、他世代よりもビジュアルや世界観に非常に敏感で、自身がシェアするものに対しても、自分の価値観や世界観に沿うものであるのか厳しく判断しています。
このように、生活者は、機能だけでなく、サービスや世界観、ひいては製品の有するコミュニティさえも、自分に合うものを選択するようになってきたのです。

なぜ、ビルトインされたマーケティングモデルが必要か?

ポイント①: 強まる生活者の発言力

現代は、SNSの発達によって、歴史上最も生活者個人の発言力が高まった時代とも考えられます。このように、個人が媒体化してきたことで、世の中に溢れる情報の中で、ブランド発信よりも、個人発信の情報の方がはるかに多くなりました。そのため、「個人の発言やアクション自体がブランドの一部」を形成するようになったのです。
こうした背景から、ブランドとのフレンドリーな関係構築や、生活者の意見・行動を企業活動の一部に取り入れているかどうかが、生活者に支持される要件に入ってきたのです。

ポイント②:消費に疲れた生活者

モノや機能的価値の飽和によって、生活者の価値軸が、「モノからコトへ」、そして「コトからヒト(コミュニティ)へ」とシフトしてきていると考えられます。「モノからコトへ」というのは、みなさんもよく耳にされると思いますが、実際、SNSなどの投稿を見ても、旅行や食事、ジムなど、コト(=体験)をシェアしている生活者が多く見られます。
そして、なぜ、ヒト(コミュニティ)へとさらに価値軸がシフトしてきたかと言うと、それが、消費されず長く残るものであると言うことが一つポイントになると思います。特に、モノや情報の溢れる時代に育ったミレニアル世代の中には、多様化・高速化する情報化社会や、終わりのない消費社会に疲れを感じ、代わりに、仲のいい友人や家族とのつながり、信頼できるコミュニティに所属することを大切にするようになってきた人も少なくありません。
そのため、コミュニティ価値を内包したブランドやプロダクトが長く愛されるようになっていったのです。

ポイント③:参加したい生活者

機能的価値の飽和を、企業目線で考えると、競争戦略に基づく差別化や従来のマーケティングを元にした企業活動が限界を迎えつつあるということです。そのため、生活者との共創やデザインシンキング、アートシンキングなどの手法を、企業戦略やマーケティングに取り入れる重要性が議論されるようになりました。
また、生活者目線で考えると、クラウドファンディングの活況などにも見られるように、自身の個人的な経験やニーズから新たな価値が生み出されることを目の当たりにし、共創する素晴らしさや面白さを体感してきました。現代の生活者にとって、能動的に何かを生み出すこと、参加して共創していくことは普通になってきたのです。
このように、参加できるかどうかが、ブランド支持の重要なファクターのひとつになったと考えられます。

なぜ、デジタルとフィジカルの融合が必要か?

ポイント①:リアルとバーチャルを行き来する生活者

D2Cブランドが生まれる最大の要因となったのが、デジタル技術の発達と普及です。特に、スマートフォンの普及により、あらゆる情報が、いつ、どこからでも接続可能になったことで、生活者は、バーチャルとリアルの間を分け隔てなく行き来するようになりました。この流れは、XR(VR, MR, AR)技術の発達やデジタル世界の拡張によって、さらに加速していくと考えられます。
生活者にとって、ブランドとデジタル上で円滑にコミュニケーション、関係構築できるか、また、デジタルとフィジカルを融合した魅力的な体験価値があるのかどうかが、これからさらに重要になっていくのです。

ポイント②:生活者の余暇時間の奪い合い

情報化社会の進展により、生活者は自身の興味やニーズにあった情報をより簡単に得ることができるようになりました。一方で、個人が認知できるキャパシティーをはるかに超える情報が世の中にあふれる中で、生活者に意識的に情報を選び取ってもらうことは、企業にとって大変難しいこととなりました。つまり、生活者の余暇時間の奪い合いが企業・サービス間で激化しているのです。
すべての情報がコンテンツとして比較されるため、生活者にとって、デジタル上のタッチポイントでの魅力的な体験が重要となり、さらに、SNSなどによって、旬や話題となる情報のライフサイクルも早まったことで、継続的に関わりたいと思えるかどうかが、重要な要素になってきたのです。

ポイント③:コロナでデジタル慣れする生活者

Covid-19によって、行動が制限される中、テレワークやオンライン飲み会など、多くの生活者が、仕事や私生活を通じてデジタル慣れしていきました。また、エンタメや教育など様々な業界で、デジタル上での新たな体験価値を享受することも可能になってきました。
こうした急速なライフスタイルの変化は、アフターコロナでも継続される部分も多いと考えられます。そのため、ブランドにとっては、デジタルにおける体験価値向上に取り組む必要性がさらに高まっています。
また、デジタル慣れの一方で、生活者のフィジカルな体験への欲求も高まりました。旅行や屋外アクティビティなど、身体性を伴う能動的な体験の大切さに気づかされる生活者も多かったのではないでしょうか。
こうした背景から、デジタルシフトに加え、フィジカル価値の再構築、OMO(Online Merges With Offline)における新たな体験価値の有無が、生活者の心をつかむ上でより重要になってきたのです。


最後に

今回整理してきたように、愛されるD2Cの特徴の背景には、時代の不可逆的変化と生活者のライフスタイル・価値観の変化が存在しています。そのため、D2Cとは単なる一過性のブームではなく、ブランドがこれからの時代を生き抜くための、一つの姿勢であると考えられるのではないでしょうか。

次回予告

D2Cという概念が生まれたアメリカでは、多くの新興D2Cブランドが生まれ、大手小売企業による買収も激化しており、様々な企業がD2C化を模索しています。日本でも、今回ご説明してきたような世の中や生活者の変化の中で、新しいビジネスモデルや組織への変革に奮闘している企業も多いと思います。次回は、「企業が新たにD2Cブランドを立ち上げる際に留意すべきポイント」について考えていきたいと思います。


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ライター紹介
山﨑健登  |  京都大学工学部地球工学科卒業。京都大学経営管理大学院にてサービスデザインを専攻。2018年博報堂に入社し、博報堂ブランド・イノベーションデザインに所属。イノベーションプラナーとして、未来洞察、デザインシンキングを生かした課題解決やサービスデザイン、様々な企業/商品/サービスのブランディングや新規事業開発に従事。
その他、Ars Electronicaと協業したアートシンキングプログラムの提供や、企業ユニフォームのディレクション等も行う。

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