見出し画像

「かさじぞう」でブランディングしてみた。

初めまして。博報堂ブランド・イノベーションデザイン局(以下BID)のブランディングディレクター高嶋紀男です。

私は、たまに学生さんとお話をする機会があるのですが、いつもブランディングについて伝えるのは難しいなあと感じます。

わかりやすく伝えるには例え話だろうと思い、昔話でブランディングを語るというアイデアを思いつきました。

昔話では、正直で働き者だが清貧な主人公が、超常現象によって報われるというストーリーがとても多いように思います。

しかし、現実はそうはいきません。正直で働き者であれば必ず超常現象が起こるわけではないのですから。

超常現象に頼らず、企業や事業主が世の中に認められるために行う活動が、いわゆるブランディングと呼ばれるものだと私は考えます。

この連載では、筆者が所属するブランディングの専門部署BIDの各分野のスペシャリストをゲストに迎え、ゲストと筆者が、「ブランディングを昔話に当てはめてみたらどうなるか」というテーマで話し合いながら、昔話をリライトします。

第一回のゲストはブランドコンサルタントでコピーライターの山田聰さん。

ブランドの価値のトランスフォームという視点で「かさじぞう」についてのブランディングのアイデアをいただきながら、「ブランディングかさじぞう」を創作してみました。

さて、どんな「かさじぞう」になったでしょう?

山田聰 博報堂ブランド・イノベーションデザイン コピーライター/制作ディレクター さまざまな企業・商品のブランド開発を担当。

ブランディングかさじそう

むかしむかし、ある雪国に貧しいながらも心が清く働き者のおじいさんとおばあさんが暮らしていました。

ある大晦日、おじいさんは笠を売りに村に出ましたが、売れ残ってしまいます。「これではお正月に餅も買えない」と、うな垂れながら家に帰る途中、雪晒しになっているお地蔵様をみつけます。

おじいさんは可愛そうに思い、お地蔵様に笠をかけました。売れ残りでは一枚足りなかったので、自分が身に付けていた笠までかけました。

家に帰り、お婆さんに話すと「それはいいことをしましたね」と喜んでくれました。


その日の晩、、、、

「ぶえっくしょ〜い」
おじいさんは雪晒しで帰ったためか、少し風邪をひいてしまいました。

当然、ふたりは餅も食べられず、正月をひもじく過ごし、

傘をかぶった地蔵たちは、地蔵のように微動だにしなかったとさ。

・・・もとい、ここでお話は終わりません。

実はそのあと、そのお地蔵様の前を通った村人たちは、「こんなにいいことをする人がつくる笠には御利益がありそうだ」と口々に噂をするようになっていたのです。

年が明け、おじいさんが村に笠を売りに行くと、なぜか村のみんながこぞって買っていきます。おじいさんが不思議に思っていると、村人が言いました。
「この笠には、お地蔵様が被っていた笠と同じ印がついてる。あんたがお地蔵様に笠をかけてたんだべ?」
そう、おじいさんは笠にブランドのロゴマークをつけていたのです。

「笠」の文字を、合掌する人が笠をかぶっているようなデザインに変化させることで、雪も厭わず働く人々の無事を祈る気持ちを表現したロゴ


雪の日も変わらず祈り続けているお地蔵さんがこの笠をかぶっていたことで、「一所懸命働く人を守る笠ブランド」というイメージがつき、そのブランドに共感することが、他でもないこのブランドを選ぶ理由になっていたのです。

また、隣村では「あの村のお地蔵さんが笠をかぶっていると、うちの村のお地蔵さんがかぶっていないのがバチ当たりな感じがするべ」という話になったことで、となり村の長からも「うちの村のお地蔵様にもつくってやくれないか」と頼まれます。

それは、さらにとなりの村、またさらにとなりの村へと伝播していきます。

こうして、各村のお地蔵様にtoG商品(to government=公用)として笠をつくるという新しいビジネスがつくられました。

お地蔵様専用のサイズで長時間の使用に耐えられる商品を開発したので、
おいそれとは競合他社(者?)は真似できません。

また、真面目に頑丈に作ってはいても、自然素材ゆえに取り替えは必要です。おじいさんは地蔵の件で信用されているので、一度買った村人から毎回つくってほしいと頼まれます。

真面目なおじいさんは村人にフィット感などをリサーチし、その人に合わせて作ってくれるので、ますます他の笠には替えられません。

笠ブランドのビジネス


このように、引く手数多になったので、おばあさんと二人で作るだけでは追いつかなくなりました。

すると「おらにも手伝わせてくれ。」と一人、また一人とおじいさんに共感した人々が、おじいさんと同じように真心を込めて笠をつくってくれるようになりました。

つまり、おじいさんは従業員を抱える事業主となったのです。
新進気鋭のスタートアップ起業家の爆誕です。

こうして、おじいさんとおばあさんは、お正月は毎年お餅を食べることができ、いつまでも幸せにくらしましたとさ。

おしまい

振り返り

今回は原作と違う「ロゴマークをつける」行動が起点でしたが、

まず、その前段階として、笠ブランドの価値が「雪の日も一所懸命働く人を守る」ものと認識されました。

そのブランド価値が「お地蔵さんに笠をつける」というアイデアで表現され、ロゴを目印として村人たちの口コミを起点に広がり、事業を軌道に乗せることができました。

おそらくこの時代、それほど笠ごとに性能差はなかったと思われます。
しかし、おじいさんの人柄や思いが商品に結びつくことで、人々がその笠を選ぶ理由が生まれました。

筆者は、ここをブランディングの肝だと考えます。

博報堂は、生活者や社会とともに進めていく事業変革・事業成長のことを「ブランド・トランスフォーメーション(以下BX)」と定義しています。

ブランディングやBXに関して、もし少しでもご興味を持たれた方は下記リンクをのぞいていただければ幸いです。

BIDホームページ https://h-bid.jp/#top

BID Twitter https://twitter.com/hakuhodoBD

2022年11月28日追記:第二弾も公開中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?