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「お客様のアイデアから生まれた」という表示があると、買いたくなる /USER INNOVATION LAB. レポートVol9

こんにちは!
博報堂ブランド・イノベーションデザインの比留川と申します。 

 2020年に博報堂に入社した2年目で、主に企業の商品開発の支援を担当しております。 

突然ですが、「東大生のアイデアから生まれたノート」と聞くと、普通のノートよりもほしくなった経験はありませんか?

今回は、このように「お客様のアイデアから生まれた」ということを明示することで、販売促進につながる効果(研究会では「発案者効果」と呼んでいます)についてお伝えします。

本記事は博報堂と法政大学西川英彦研究室の共同で立ち上げましたユーザー・イノベーションの研究会「USER INNOVATION LAB.」の活動をレポートする連載です。
(「ユーザー・イノベーション」「USER INNOVATION LAB.」の詳細は下記をご覧ください)

今回の内容は、「USER INNOVATION LAB 」の共同代表であり、大学院の博士課程で発案者効果について研究を行っている、博報堂ブランド・イノベーションデザイン局の岡田庄生(おかだ しょうお)による講義の抜粋です。

なぜ、「お客様のアイデアから生まれた」という表示が効くの?

このパートでは、なぜ「お客様のアイデアから生まれた」と表示されていると私たちは商品を買いたくなるか、そのメカニズムをご説明します。

今回は企業、製品、消費者の3つのレベルにわけ、1つずつポイントを抜粋します。

1.企業レベル:顧客志向な企業だと思われる

「お客様のアイデアから生まれた」と表示することで、「この企業は顧客のニーズを把握しようとしている」「顧客の最善の利益を考えている」など、顧客志向の企業だと思われるため、購買意欲が高まるそうです。

また、購買意欲が高まるだけでなく、支払ってもいい価格が高まることもわかっています。

とある会社の朝食シリアルを発売する際に、「お客様のアイデアから生まれた」という表示があるときとないときとで、その商品に出せる金額がどのくらい変わるのかを調べる実験が行われました。

すると、シリアルを1パッケージ購入するのに出された最大金額は、「企業が開発した」と表示した場合は約8ユーロ、「お客様と一緒に開発した」と表示した場合は約12ユーロ。

「お客様と一緒に開発した」という表示が、支払い意欲を約1.5倍高めたという結果になったそうです。

つまり、お客様と開発したことの表示により、生活者から選ばれやすくなる、かつ少し値段が高くても買われるようになるのです。

2.製品レベル:顧客の困りごとを解決してくれる製品だと思われる

岡田さんによると、消費者が製品を評価する際には、下記の有用性、新奇性という2つの視点があるそうです。

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(岡田さん講義スライドより)

有用性:消費者のニーズや困りごとを解決してくれる 
新奇性:既存の製品や他社よりも新しくて独自性がある

このうち、お客様と開発したことの表示は、消費者に「この製品は高い有用性をもつ製品だ」というイメージを与え、販売促進につながるとのこと。

さらに言えば、お客様のどんな困りごとや悩みに着目したのか、それらをどんな機能で解決したのかといった詳細情報があると、より販売促進につながりやすくなります。

3.消費者レベル:その商品で失敗しなさそう・理想の状態に近づくことができると思われる

消費者の購買行動を分析する理論として有名な、「制御焦点理論」というものがあります。

制御焦点理論によれば、消費者がものを買う動機は大きく次の2つに分けられます。

予防焦点:失敗を予防したいからその商品を買う
ex.「パンプスをよく履く就活生と一緒に作ったパンプスなら、足が痛くならなさそう」と考え、その商品を買う
・促進焦点:理想の状態に近づきたいからその商品を買う
ex.「東大生みたいに頭がよくなりたい」という気持ちから、東大生と一緒に作ったノートを買う

グラノーラを使った実験によると、お客様と開発したと表示することは、予防焦点にも促進焦点にも効果があるそうです。

つまり、「その商品で失敗しなさそう」「理想の状態に近づくことができる」と思われるため、購入意欲が高まるのです。

ただし、グラノーラにとてもこだわって色々調べている人など、グラノーラへの製品関与(製品への関心)が高い人は、促進焦点の効果が弱まるという結果も出ています。

逆に言えば、製品関与が低い層には、発案者効果は予防焦点にも促進焦点にも発揮されるということになります。

以上をまとめると、お客様と開発したと表示することで、
①顧客志向の企業だと思われる
②顧客の困りごとを解決してくれる製品だと思われる
③その商品で失敗しなさそう・理想の状態に近づけると思われる
ことにより、消費者の購買意欲が高まるという効果を得られるのです。

あの商品は、発案者効果が発揮されない!

これまで、発案者効果がなぜ有効なのかをご説明してきました。

さっそく自分のプロジェクトで発案者効果を活用しよう!と思ってくださった方、ちょっと待ってください。

実は、発案者効果はどんな商品でも発揮されるわけではないのです。

このパートでは、どんなときに発案者効果の有効性が失われるかということを、同様に企業・商品・消費者の3つのレベルに分けてお伝えします。

1.企業レベル:ハイブランドな製品

高ステータスブランドと大衆ブランドの製品の画像を見せて、企業が開発した場合とお客様のアイデアをもとに開発した場合、どちらを買いたいと思うかという調査が行われました。

その結果、お客様のアイデアをもとに開発した場合のほうが買いたいと答えた人が、大衆ブランドの製品では50%程度だったのに対し、高ステータスブランドの製品ではわずか10%程度

つまり、高ステータスブランドの場合、発案者効果は弱まるもしくは逆効果となったのです。 

2.製品レベル:ハイテクな製品

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(岡田さん講義スライドより)

2012年に行われた調査によると、Tシャツやトイレタリー用品など技術的複雑さが低い製品では「(企業よりも)お客様のアイデアをもとに開発した」といわれるほうが好まれる一方、家電やロボット玩具など技術的複雑さが高い製品では「企業もお客様も変わらない」もしくは「企業が開発した」といわれるほうが好まれるという結果になったそうです。

つまり、お客様が作れなさそうな技術的複雑性が高いハイテク製品では発案者効果が失われるということを示唆します。

3.消費者レベル:低価格でマイナスを解消する製品

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(岡田さん講義スライドより)

上図のように、商品を製品関与(価格)の高い/低い、買う動機がネガティブな問題を解決したいから/ポジティブに理想に近づきたいからの軸で4つに分類し、それぞれ、発案者効果が有効か否かを調べた調査があります。

ちなみに、この調査では特定のブランド名は表示せず、「ネックレス」など商品のカテゴリー名のみで聴取しています。

その結果、左上の低関与(低価格)でネガティブな問題を解決する商品のみ、発案者効果が効かないという結果になったそう。

個人的には、ネックレスなど右下のカテゴリーが効かなさそうだと思っていたので、意外でした。

左上のカテゴリーはお客様よりも専門家のアイデアが好ましいと思われる商品群だったため、このような結果となった、と岡田さんは分析しています。

たしかに、歯磨き粉はお客様が考えたものよりも、歯医者さんが作ったもののほうが使いたくなりますよね。

ただ、上でご説明したようにハイブランドな製品は発案者効果が有効ではありません。

それなのになぜ、右下のネックレスやサングラスなどは発案者効果が有効なのでしょうか?

その一因は、企業名を出していないことにあります。

消費者は、具体的なブランドやそのデザイナーに魅力を感じるのであって、ただの高価格なネックレスに魅力を感じるわけではありません。

そのため、具体的なブランド名がわかっている場合は、お客様と開発したと表示することがマイナスに働き、逆に企業名を出さない場合や、企業名の認知がまだないスタートアップブランドの場合は、発案者効果が有効となるわけです。

また、左下や右下は価格が高く、「買い物に失敗したくない」という心理が働くからこそ、「お客様が開発プロセスに参加している」ということが安心材料になる、というのも要因の一つだと岡田さんは話します。

以上をまとめると、
①ハイブランドな製品
②ハイテクな製品
③低価格でマイナスを解消する製品
については、発案者効果が失われる、もしくはむしろ逆効果になるとのことです。

以上が、発案者効果についての講義の抜粋になります。

私は、自分が買い物をしたときの経験から、「お客様と一緒に作った」と表示すると購買意欲が高まりそうだなと、なんとなく感じていました。

そのため、岡田さんの講義の始めのほうは、「だよね~知ってる知ってる」という気持ちで聞いていました。笑

その分、後半で実は発案者効果がきかない商品がある、ということを知ったとき、軽く衝撃を受けたことを覚えています。

また、企画を考える打ち合わせの中で、経験が浅く、これまでの実務経験をもとにこの戦略が良さそうだ等と語ることが難しい若手の私にとっては、学術的な知識をインプットすることは武器になると感じました。

ユーザー・イノベーションは比較的新しい学問分野でもあるので、若手にとっては特にチャンスですね。

またユーザー・イノベーション・ラボの内容をレポートしますので、お読みいただけますと幸いです!
(ついでにフォローもいただけると嬉しいです!!)

★社内だけでの製品開発に限界を感じている方、ユーザー・イノベーションを自社で取り入れてみたい、と興味がわいた方は、ユーザー・イノベーション・ラボ事務局(uilab@hakuhodo.co.jp)までお気軽にお問い合わせください。

【参考文献】
Fuchs, C., Prandelli, E., Schreier, M., & Dahl, D. W. (2013). All that is users might not be gold: How labeling products as user designed backfires in the context of luxury fashion brands. Journal of Marketing, 77(5), 75-91.

Fuchs, C., & Schreier, M. (2011). Customer empowerment in new product development. Journal of Product Innovation Management, 28(1), 17–32.

Schreier, M., Fuchs, C., & Dahl, D. W. (2012). The innovation effect of user design: Exploring consumers’ innovation perceptions of firms selling products designed by users. Journal of Marketing, 76(5), 18–32.

岡田庄生(2019). 「ユーザー創造製品の発案者効果」『マーケティングジャーナル』39(2), 61-67.

岡田庄生(2019). 「ユーザー創造製品の情報表示と制御焦点理論 ― オンライン実験による媒介分析 ―」『マーケティングレビュー』1(1), 40-47.


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