21世紀、新時代の産声に寄せて - anewhite 「2000's」

この記事は おすすめCDアドベントカレンダー2021 25日目の記事です。
大遅刻だ〜〜〜〜〜〜〜;;ごめんなさい。


24日目の記事はパスタさんの amazarashiと令和二年  とのことで、amazarashiさんのミニアルバム「令和二年、雨天決行」についてたくさん書いていただきました!

amazarashiさん、名前は度々耳にしながらも実際曲を聴いたことはなかったのですが、想像していたよりずっとストレートな詞を書かれるアーティストなのだな……という発見がありました。

言葉選びがストレートながらもその中に余白がたっぷり含まれているような印象を受けて、きっとその余白が聞き手が自分を置くスペースになっているからこれだけ人の弱さに寄り添うアーティストとしてファンからの信頼を集めているのかな、と思ったり。

素敵な記事をありがとうございました!






この記事を読んでくださっている方の中に、anewhiteというバンドをご存知の方は少ないかもしれません。

2000年生まれの4人によるインディーズロックバンド。
2020年7月に1st EP「NACHTMUSIC」を、2021年4月に2nd EP「劇場を抜けて」をリリース。2021年8月には渋谷WWWにてキャリア初となるワンマンライブ「一生涯」を開催。

そして2021年12月22日、満を持して発売したのがこの記事で紹介させていただく1stフルアルバム「2000's」です。


ロックバンドと言うには柔らかすぎるメロディー、ロックバンドと言うには難解すぎる歌詞、それでもロックバンドと言う以外に形容する言葉がないような力強い音と言葉。

そんな「揺るぎない曖昧さ」が持ち味のanewhiteの「産声」を、この記事を読んでくださっている人々にも聴いていただきたいのです。


ぜひアルバムを曲順に通して聴いていただきたいのですが、この記事ではこの「2000's」というアルバムの聴きどころを3点のポイントに分けて紹介しようと思います。



1. アルバム構成 - 「2000's」という産声

先述の通りこのアルバムはanewhiteの初めてのフルアルバムであり、わたしはこれを M10「2000's」歌詞中のフレーズを借りてanewhiteの「産声」と表現します。


「2000's」は10曲の新曲に

  • 1st EP「NACHTMUSIK」のリード曲「カヤ」

  • 2nd EP「劇場を抜けて」のリード曲「切言」

  • 2nd Digital Single「バケトナ」

の3曲の既存曲を合わせた全13曲、43分の音楽アルバムです。

既存曲はいずれもanewhiteの得意路線ド真ん中、「これがanewhiteの真骨頂」とも言えるような彼らの持ち味を体現するかのような曲揃いですが、それらを迎える新曲の数々が今作を「産声」たらしめています。


アルバムの幕を開ける「ソフト」はこれもまた彼らの得意な加速度を持った爽やか、柔らさ、切なさの同居するナンバー。

さらにライブで先行して披露されてきた「out of the blue」、タイトルに”らしさ”の香るリード曲「チョコレート・ハートレイト」に既存曲の「カヤ」、「バケトナ」といずれも「anewhiteの音楽性」を示すに相応しい華やかな楽曲が続きます。


展開が変わるのはこの先。

「for tune」は人の弱さを歌うような、それでいて前向きな歌詞とあたたかな曲調が印象的なバラードですが、インスト曲「(874)」で一転。
今までのanewhiteにはない不穏さ、緊張感を孕んだインストが独特の毒々しさを持ったラップ調のメロが特徴的な「オールドスクール」へと続きます。


既存曲の「切言」、さらにアルバム名にもなっている「2000's」に続く「怪獣と光線銃」も今までのanewhiteとは一線を画した心苦しさや悲しさの目立つバラードです。

インスト曲「#928171」でその悲しみに終止符を打ち、最後の1曲「つんとくる」で爽やかにアルバムを締め括る、というのがこのアルバムのざっくりとした構成。


あくまで軸として「anewhiteの音楽性」を提示しつつ今まで見せてこなかった新しい可能性を魅せていく。
「今までなかった曲調」に収まらない、「anewhiteってこんなのもできるんだ」という新しさがありながらも一貫して軸は曲がらないところに「1stフルアルバム」を通して聴かせたい音楽像が感じられるアルバムです。



2. 音楽性 - 感情とメロディの共感覚

前項ではさらっと流してしまった「anewhiteの音楽性」について、アルバムより3曲を抜粋してその特異性を紐解いていきます。


M2: out of the blue

これこれ!これです!と叫びたくなるぐらい見事に「anewhite」ド真ん中なナンバー。
流れるようなメロディ、流れるような言葉、歌メロからギターソロへの流れも心地良い1曲です。


anewhiteの音楽の特徴のひとつがこの「流れるようなメロディ」と「流れるような言葉」、そしてその割に複雑な譜割りと言葉遊び、音遊び。

ぜひ以下のフレーズの太字部分を意識しながら聴いてみていただきたいです。

分かってるだけでは変わらなくて
大切な日さえ粗末にしてる

君を忘れてしまった時は
との思い出と燃やしてよ

笑顔で迎える
最後の
視界にとっても綺麗な陽


M6: for tune

生きる上での葛藤や息苦しさ、不安、その中でも進み続ける人生の歌。「for tune」というタイトルの通り、歌い続ける自分自身の歌なのかもしれません。

anewhiteの音楽の特異性は「想いを歌う」だとか「心に寄り添う」という世界を超えて「感情をそのまま音にする」ことで曲を聴いたときに「感情を音楽から復元できる」ところにあると思っています。
この曲はそれがすごくわかりやすく出ているような気がする。


聴いてほしいのは2Aのこのフレーズから落ちサビ前に掛けてのドラムです。

みんなに生まれた意味はあるとして
笑ってみて

1番では苦しみや遣る瀬なさを歌っていたこの曲ですが、このフレーズを皮切りに前向きな印象に変わっていきます。
その一番の要因はドラムの音だと思っていて、1サビでは鳴っていないハイハットの音が歌詞の持つ希望や可能性を表現しているように聴こえます。


M11: 怪獣と光線銃

anewhiteのバラードの中でも異色の新曲。

今までのanewhiteの曲は切なさの中に一片の光が射し込むようなものばかりでしたが、これは終始外的な「光」を感じさせない曲です。
それでも語り手が無理やりに光を生み出そうとしているような、そういう手の届かなさに胸が痛くなります。

この曲は聴いていて情景が浮かぶ、それでいて全てを語らない、余白だらけの物語性が特徴的であり新しい中にanewhiteらしさを残しています。


わたしの聴いてほしいポイントは2点、ひとつはこのフレーズ。

食らった人を返せよ
口を手で覆っても
災いの元が患いの下にある

コーラスの使い方には様々ありますが、この「食らった人を返せよ」のコーラスほど悲痛さを際立てるコーラスをわたしは知りません。


もうひとつは最後のフレーズ。

その光線銃で撃って
笑ってくれよ

一度曲自体が落ち着いたところでパンチを食らわせてくる終わり方に耳を奪われる一節ですが、「光線銃で」のところのドラムの音は銃撃音のようにも聴こえます。

「物語音楽」という言葉は現代では歌詞に物語性のある曲に対して使われがちですが、もっと古典的なところに立ち返るようなアプローチを最後の最後に持ってくるところにポテンシャルの高さを感じます。



3. 歌詞 - 共感を求めない等身大の言語化

最後に、歌詞の話を。

彼らの曲は決して「誰でもすぐに共感できる感情」を歌いません。
でもそこにあるのは「理解できない感情」ではなくて、誰もが心の奥に持っているはずなのに見過ごしてしまっているような小さな感情。その種に水を遣るような繊細な表現が彼らの魅力です。


M1「ソフト」からワンフレーズ。

目に映る綺麗な月が
写真には上手く写らないのが
なんだか嬉しかっただなんて

「綺麗な月を上手く写真に写せなかったとき」、きっと誰もが最初に感じるのは嬉しさではないと思います。

でも「記録に残せない」ことは間違いなく「そこにしかない特別」と等価であって、「そこにしかない特別」な綺麗なものを見ることができることは誰にとっても嬉しいことであるはず。


あなたを想う気持ちは
一生モノだと知る

たった1パーセントの
想いだとしても
あなたが占めているよ
そんなオレンジジュースみたいな

こちらはM13「つんとくる」より。

好きなものを語るとき、「そのことしか考えられない」なんて言いがちな人はきっと多いのではないかと思います。わたしも人のこと言えないぐらい、「それしか考えてない」って言ってしまうし。

それって当然誇張表現で、実際好きなもののことを考えている瞬間というのは生活のこと、学校のこと、仕事のこと、たくさんの「いつも考えていること」を差し引いた余白のさらに一部分でしかないわけです。

だけどそれは悪いことじゃなくて、果汁のほとんど入っていないオレンジジュースだってちゃんとオレンジの味がするわけで。
その「たった1パーセント」だとしても「あなたが占めている」から、ちゃんと私の人生はあなたの味がするんだよ、っていう表現のようにわたしはこのフレーズを受け取っています。

そんなあまりにも等身大な気持ちを「オレンジジュース」に喩えるところに引き出しの色の濃さが出ていて、それもまた素敵な表現。


ぜひ他の曲も聴きながら「心の奥の小さな感情」を探してみてください。




ということで、anewhiteの1stアルバム「2000's」について紹介させていただきました。

一人でもたくさんの人に彼らの音楽が届きますように。
ちなみにanewhiteはライブも素敵なので興味を持ってくれた方はぜひ足を運んでみてください。



そしてこれにて おすすめCDアドベントカレンダー2021 完走となります!
空いた期間もありますが、たくさんの方にご参加いただき多種多様な音楽をレコメンドする文章が揃っています。

この企画が皆様と新しい音楽との出会い、知っている音楽との出会い直しのきっかけ、また参加いただいた方々においては「好きなものを文章で表現する」こととの出会いや立ち返りのきっかけになっていれば嬉しく思います。

書いていただいた記事はこちらのカレンダーから一覧できます。ぜひ気になる記事を見つけて読んでみてくださいね!


それではまた別の記事でお会いしましょう。
遅くなりましたが、メリークリスマス!そしてよい2021年末をお過ごしください!

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