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小説 | 島の記憶  第24話 -交霊-

前回のお話


廊下を出て少し歩くと、インデプはその部屋の入り口を開け、私を招き入れてくれた。中にはアリアナ叔母さんと同じ年頃の女性がいた。やはり長い黒髪の女性だった。そして同じ年恰好の男性もいた


インデプは、その人達に古語で語りかけた。

「他の土地から来た巫女を連れてきましたよ。」

その人たちは古語で話しかけられたのに少し怪訝な顔をしたが、インデプはその人に私が古語なら少し理解ができると伝えてくれたようだ。


「ライナです。ようこそ神殿へ」

「マナハウです。審神者です。ようこそ」

私も自己紹介をした。

「ティアです。海を越えて他の土地から来ました。始めまして」


ライナとマナハウは、古語とここの土地の言葉を混ぜて話してくれた。ここの土地の言葉も時々理解できる言葉があるが、やはり古語でないとお互い話が通じないことが多い。

インデプが彼らに、今日私が神殿で働くことになったこと、そして巫女の仕事を見せてあげてほしいと伝えてくれた。


ライナは笑顔で説明してくれた。

「他の人の仕事を見て覚えるのはいい事ね。今日は街から若い女性が来るから、そちらの隅の方にかけて待っててください。来た人が落ち着くように、あまり大勢の人がいないほうがいいから。」


そう言って、ライナとマナハウはこれからやってくる人を招き入れる準備を始めた。

窓の下に敷物を三人分準備して、座れるようにする。


私たちは部屋の隅の、目立たない場所に座った。

インデプが私に向かってこう言った。「ライナの周りにオーラは見えるかい?」

私は落ち着いてライナの頭の周りを見てみた。

「濃い青と紫の色が見えます。」

「そう。それがあの子のオーラの色だね。あなたのオーラと同じだよ」


そう指摘されるまで、私は自分の色など気が付くことはなかった。泉や海に自分の姿が映ることはあるが、自分の周りのオーラの色などこれまで見たことがない。

「巫女は皆この色なんですか?」私はインデプに尋ねた。

「紺色という濃い青が多いね。でも他の色も混じっている。紫や緑、青などもあるよ。その人の本質の色が、その人のオーラなんだよ。優しくて癒しの仕事ができる人は緑が入っているかな。でもほとんどの場合は濃い青が多いね」

私はもう一度ライナの身体の周りを見てみる。身体をまるで包み込むように濃い青があり、頭頂には紫色があった。


そうこうするうちに、入り口に若い女性が立っていた。レフラと同じ20歳くらいだろうか。


ライナはその女性を部屋に招き入れて、敷物の事へ連れて行った。

3人が座ると、若い女性がライナに話し始める。何か子供の事を話しているようだ。インデプが小声で説明してくれる。

「あの人は、自分の子供を亡くしたばかり。3歳だったそうだ。今どうしているか、どうしても会って話がしたいと言っている。」

私は黙ってうなずいた。


遠くにいる二人を見ていると、そのうちライナの喉からグルグルといういびきの様な音が聞こえてきた。霊が懸かってくる合図だ。

すると、白くぼんやりしたものがライナの右側に現れた。白い小さな雲のような、柔らかそうな塊が、次第にライナの身体に入っていく。


すると、次第にライナの顔が変わっていった。


ライナは30代と思しき女性なのだが、その顔がだんだん小さくなり、髪も肩の上ぐらいまで短くなり、顔もどんどん変わっていった。気が付くと、ライナの顔は幼い子供の顔になっていた。目の前に座っていた女性が、思わずライナの顔に手をあてる。ライナが口を開くと、その声は高い子供の声に変っていた。


3人はその後、しばらく話していた、若い女性は涙ながらに子供になったライナに話しかける。顔が子供になったライナも、話つづける。時々マナハウが二人の言葉をさえぎり、ライナと若い女性に質問をしているようだ。


「あんたもわかると思うけど、審神者は霊が正しい事を言っているか確認しないといけない。他の霊がいたずらでだましている可能性もあるから、霊が話すことを一つづつ確認しているんだね、母親の子供が話しているかどうか。」


会話は長く続いた。終わるころ、若い女性は涙もおさまり、笑顔になっていた。

始まった時と同じように、ライナの顔は次第に変わり始めて、頭も大きくなり、髪も元の様に長くなり、顔も子供の顔からもとの大人の顔に変わっていった。


若い女性はライナとマナハウにお礼を言って、戸口から出ていった。


インデプが話してくれたのは、かかってきた霊は、女性の子供だった。亡くなった後、しばらくは家の周りや自分の家族の所にいたが、そのうち自分の祖先がやってきて、明るい所に連れていってくれたという。今はその祖先たちと一緒に暮らしていること。でも、生きている家族が会いたいと言えば会いに来ることができること。幸せに暮らしているから安心してほしいとのことだった。


私は一連の出来事を見ていて、茫然としていた。

亡くなった人は、残された家族の元にこのような形で現れることができるんだ。

私に今まで懸ってきていた霊は、その昔に私の村に住んでいた親戚や、素性が聞けなかった女性の霊だった。しかし、ほんの少し前に亡くなった人の霊が現れるとは夢にも思っていなかった。審神者がしっかりと霊の話を問いただして、本物の霊だと確認を行っていたので、これはいたずらにかかってきた霊ではないだろう。


巫女でも人の役に立つんだ。

私はその時初めて巫女の役割の重さを実感した。


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