世界のお酒 : アメリカ: ハワイのビール
今年(2022年)の春、コロナも少し落ち着きを見せ、ゴールデンウイークには海外旅行を楽しまれた方々もいると思う。ニュース番組などでは、各地の空港の国際線発着ロビーにてインタビューを行う様子が見られた。そのインタビュー回答の中でも圧倒的に多いと感じた旅行先がハワイだった。画面でみるその旅行者の方々の顔は、「やっと行けた」という嬉しさであふれていた。
ハワイはやはり人気の観光地の一つだ。世界がコロナ渦に突き落とされた期間、きっとかの地への訪問を我慢して、渡航が再開されるのを待ちわびていた方々が大勢いらっしゃると思う。ハワイの産業の中でも大きな割合を占める観光業の人たちも、ハワイへの渡航が再開されて、ほんの少し胸をなでおろしていらっしゃることかと思う。
そのゴールデンウイークの華やぎに誘われて、ハワイのビールを試してみた。近場で手に入るもので唯一とも呼べるそのビールは、「コナ・ブリューイング社」が製造・販売している物で、目にも鮮やかなラベルや缶のデザインが印象的だった。
まず試してみたのが「HANALEI」。恐らくハワイの地名から取られたと思われる名前のこのビールはマンゴーやパッションフルーツのIPA。甘い果物のIPAとは一体どんなものかと期待が高まった。
色は濃いめの金色で、見るにもすずしげな色だった。口を近づけると、ふわっと果物の香りが立ち昇った。確かにパッションフルーツやマンゴーの香りがする。一口含んでみると、その苦さに驚いた。さすがにIPA(インディアン・ペール・エール)なだけあって、さぞかしホップの量が多いのだろう。
ビールの味としてはエール独特のコクがしっかりあり、美味しい。飲む瞬間まで甘い果物の騙された頭が、口にビールを含んだときの苦さでガツンとやられるような、そんな飲みごたえのある面白いビールでもあった。家族と分けて飲んだのだが、皆苦みに驚くとともに、「これは良いビールだ」と称賛を惜しまなかった。
その次に試したのが「FIRE ROCK」。ハワイの活火山を連想させてくれる名前のビール。こちらもエールのうち、ペールエールと言われる薄い色のエールとのことだった。
ラベルには、溶岩の様なオレンジ色の筋と、水辺で涼む人たちの絵が描かれている。力強い印象のあるラベルだった。
グラスに注ぐと泡立ちがとてもよかった。色はペールエールなので薄い金色なのかな、と思い込んでいたが、以外にも濃い目の飴色だった。ペールエールといっても、色の濃さは恐らく色々な種類があるのかもしれない。
口に含むと、ビールのしっかりした香と共に、苦みが舌を刺す。日本で言えばホップを効かせた苦みの強いビールをご想像していただければ近いと思う。そして、やはりエールならではのコクがしっかりあって、とても美味しいビールだった。
もしかしたら暑い中ごくごく飲んでしまうと言うよりも、味をゆっくり楽しむものなのかもしれない。
そして三本目には「BIG WAVE」を試してみた。こちらは缶で手に入った。
薄い水色の、目にも涼やかな愛らしいデザインの缶だった。大きな波を背景に、カヌーの様な長いボートを漕ぐ人たちが描かれている。
こちらは少し濃い目の金色のエールだった。口を近づけると、おそらくホップの香りだと思うのだが、花の様な少し甘い香りが広がった。味はすっきりとして、エール独特のコクがあり、とても飲みやすい。苦みは感じられるが、抑えられているせいか、こちらは暑い日にごくごくと飲めてしまうような味だった。このBIG WAVEも家族には評判が良く、香りが良いのと、とても質のいいビールだと喜んでくれた。
三本のビールを試してみて、ハワイの人たちはこんなに良いビールを飲んでいるのか、と家族全員で羨ましがったものだ。
こんな美味しいビールを製造している製造元のKona Brewing社とはどんな会社なのだろう、さぞかし老舗なのかもしれないと思ってHPを覗いてみた所、1994年創業の醸造会社で、想像していたよりももっと若い会社だった。家族経営の醸造所で、ハワイ島のコナにあるカイルア・コナで現在も操業中だ。
この醸造所では持続可能な操業をモットーとしており、ソーラーパネルでの発電や、CO2のリサイクルなどを行っていて、環境にも配慮した運営を心掛けているそうだ。
醸造所ではガイドツアーも行っており、ツアーの後はビールの試飲も行っている。
ハワイでのビールの醸造の歴史は、1812年まで遡れると言う。
それ以前は、オコレハオ(Okolehao)というハワイ独自のお酒が造られていた。このオコレハオは、tiという植物の根から作られ、製造の歴史には諸説あるようだ。一説では、どうやらジェームス・クック船長の太平洋航海の時の一団であった船の船長、ナサニエル・ポートロック船長の船がハワイに入港した1780年まで遡れるようだ。このお酒は壊血病を防ぐために作られたのが始まりの様で、当初はビールの様に飲まれていたと言われる。1792年には蒸留技術が確立され、オコレハオの製造方法が確立したようだ。
このオコレハオはほんの短い期間飲まれていたものの、1818年には時の国王カメハメハ一世がオコレハオを含む「強い」酒類を禁止したため、製造が一度途絶えた。復活したのはカメハメハ三世が禁酒法を撤廃した1833年の事だと言われる。
ビールの製造は1812年頃に始まったと言われるものの、醸造所が作られるのにはその後数年かかったようで、記録に残っている物としては1854年にホノルルの製造会社が行った新聞広告だと言われる。
現在飲まれているようなビールを作ったのは1901年頃、ホノルル・醸造会社 (the Honolulu Brewing & Malting Company)が醸造したプリモ・アイランド・ラガー(Primo Island Lager)だと言われている。
その後、第二次大戦などをはさみ、ハワイではいくつもの醸造所が設立され、消えていった。醸造所の買収などもあり、製造はアメリカ本土に移っていったようだが、1980年代から1990年代にハワイに小規模なビールの醸造所が次々と設立された。
そして2005年に法律の改正があり、醸造所の経営するパブがビールを流通することが許可されるようになると、ハワイでのビールの生産は一気に増加したそうだ。
個人的にはまだハワイに行ったことが無いので、ハワイの小規模なビールの醸造所については想像をするだけにとどまるのだが、それにしても今回出会ったコナ・ブリュワリーのビールはどれも飲みごたえがあって、良いビールに出会えたものだと思う。
様々な歴史を乗り越え、こんな素敵なビールが普通に売られているハワイ。死ぬまでに一度は訪れてみたいと思う場所がまた増えた。
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(参考文献)
What Are The Biggest Industries In Hawaii? - WorldAtlas
https://www.worldatlas.com/articles/what-are-the-biggest-industries-in-hawaii.html
HISTORY (hawaiibeer.org)
http://www.hawaiibeer.org/history-of-beer-in-hawaii
Alcohol in Hawaii: Interesting Facts & Finds | Maui Craft Tours
https://mauicrafttours.com/alcohol-hawaii-interesting-facts-finds/
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