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連載小説:旅の芸人達(5)異国の船乗りの集う港

「龍(りゅう)兄さん!ほら、港が見えてきたよ!」

保名が小走りに駆けだした。わしは慌てて後を追った。吉丸(きちまる)に徳二(とくじ)、幸(さち)も後に続く。

「龍兄よ、付いて来られるかい?保名は駆け足が速い、俺達も頑張らなきゃ」

わしを軽々と追い越しながら幸が言う。歩きならわしも自信があるが、駆け足では保名には到底かなわない。

六日かけてわしらはようやく目的地の堺の港までたどり着いた。遠くから何か重い香りの湿気を含んだ空気が漂ってくる。塩気のある海ならではの香りだ。

堺には古くから港があり、はるか遠くの明の国などから船がやってくるという。わしらは街を通り過ぎ、港に向かってみた。

港は京の大通りを上回る様な大賑わいだった。

ここ堺ではおやじさんの弟子の一人が一座を立ち上げており、そこを訪ねることになっていた。お弟子さんは鉄次郎さんといい、小さいながらもこの大きな港町で辻芸に励んでいらっしゃるという。わしと吉丸は十年程前に一度お会いしているものの、顔がきちんと思い出せるか少々不安でもあった。

鉄次郎兄さん達は町中に住んでいるそうだが、家を訪ねる前に、わしらは港を見物することにした。

海には見たことも無い大きな朱印船が所狭しと並んでいる。見上げるほどに大きな何隻もの朱印船には、大きな印を付けた白い帆がいくつもはためいていた。

船からは大勢の男達が大小さまざまな荷物を時には抱え、時には転がしながら運び出し、次から次へと牛車に乗せていく。

辺りは船の帆のはためく音と人の叫ぶ声、牛車のきしむ音や牛飼いの声、荷物がどさりと落ちる音などで溢れ、港を足早に歩いていく人足達が場を仕切っていた。

あちこちに見たことも無いような文字が書かれたいくつもの大きな木箱が山の様に積まれ、辺りには鼻をツンと刺す異国の不思議な香料の香りが漂っている。

周囲からは異国の言葉も聞こえてくる。

明からの商人達だろうか。しばらく前に堺へやってきた時にも見た、かの国の茶色や濃い緑の服装をした男達がそちこちに大勢いた。大きな荷の山を囲み、何かを大きな声で話している。

さらに歩いていくと南蛮人達とも大勢すれ違った。

枯草色の髪をして黒い丈の長い服に身を包み、襟元に白い飾りを付けた男達がいる。首からは長い白の数珠を下げていた。

他にも粘土色をした髪に空色で襟元に沢山飾りのついた上着と空色の馬袴の様な着物に身を包んだ男達や、藁色の髪をして若草色の上着とやはり若草色の馬袴の様な着物に身を包んだ商人と思しき男。

黒い淵飾りが沢山ついた大きな被り物をし、やはり黒の服に身を包んだ男もいる。こちらはわしにもわかる言葉で牛飼い達に何かを言いつけていた。
港からの海の眺めは圧巻だ。わしらの住む京丹波は山の中で、大きな水を拝むことは滅多にできない。

わしらは潮の香を胸に一杯吸い込み、青い空と見渡す限りの海を隅から隅まで見渡した。こんなに開けた場所に来るのは久しぶりだ。

何気なく見ると、港の一角に人が大勢集まっていくのが見えた。何があったのかと、わしらは人垣を追っていった。皆、上を見上げて大騒ぎをしている。わしらも空を見上げてみた。

港から陸地へとつながる細い運河の上には細い荒縄が二本、ぴんと張られており、その上を人間が腹ばいになって前へとするすると進んでいた。

赤に金糸の模様が入った派手な頭巾をかぶったその男は、袖の短い派手な緑の直垂と馬袴に身を包み、これもまた金色に輝く扇子を両の手に持ち、ひらひらと扇子を翻しながら荒縄の上をすべるようにして動いていく。

その様子はまるで蜘蛛が糸を吐き出しながら滑るように空を切って飛んでいるかの様だった。保名は「いつか落ちるんじゃないか」と言いながら、はらはらしながら見ていた。近くに停まっている何隻もの船からも、大勢の乗組員が見物している。

男は何事も無かったかの様にするすると運河の対岸に着くと、荒縄からするりと降りてこちらに深くお辞儀をした。船からはいくつものおひねりが飛んでいた。

「お前さん達、あれを見るのは初めてかい?」

隣に立っていた男が声をかけてきた。

「初めて見たよ。よく縄から落ちないものだね」保名が答えた。

「あの人は千歳太夫と言って、あの蜘蛛舞では一級の人だよ。あちこちの運河や川べりで芸を披露しているけど、今まで縄から水に落ちたことは一度もないそうだ」

わしは思わず言った。
「てっきり人形かと思っていたよ。対岸について縄から自分で降りてこちらにお辞儀した時は肝を冷やしたよ。あんな芸があるとはな」

「お前さん達、どこの出だい?」男が訪ねてきた。

「京丹波です」吉丸が返事をする。

「京丹波かい。旅芸人かな?ここなら辻芸を見る人はたんまりいるよ。ここから少し歩くと出店や人足が休む場所があるから、そこで一つ芸を見せていったらどうだい」

「それはありがたい。早速行ってみます」

「港に着くとお前さん達の様な芸人達が場を盛り上げてくれるからね。港に着いたときの楽しみでもあるよ。気張ってやっておくれよ」

そう言うと、男は荷運び人足達の方へと戻っていった。

「いい事を教えてもらったね」保名が言った。

「鉄次郎さんの所に行く前に、一つ試しに演ってみるかい」

わしがそう言うと、皆でさっきの男が言っていた出店を探してみた。

港から離れてしばらく行くと、筵を敷いた店が数件並び、店の近くでは大勢の男達が地面に腰かけて大きな団子や握(にぎ)り飯(いい)を持ち、食事をしながら目の前の芸に見入っていた。

堺や全国各地からやって来た船乗りもいれば、明の船乗り、南蛮人の船乗りなど、数えきれない人達が路肩に陣取り、目の前で行われている芸を眺めていた。

これまで京でも見た事のない、大掛かりな芸をやっている一座が次から次へと技を披露している。

男が一人、九尺(約三メートル)はありそうな大きな樽を横にしてその上に立ち、足先だけで器用に樽を回していく。回しながら前にも後ろにも小刻みに何度も移動を繰り返した。そのうち樽の上で跳ねては着地し、また跳ねては着地し、を繰り返した後、樽でぐるりと大きな輪を描きながら一周すると、ぽんと地面に降り立った。

見物人からは大きな喝采が飛んだ。

吉丸と徳二と保名はすぐに真似がしたくなったようだ。

「あれだけの大きさの樽は、手に入るかね?」

「どうなんだろう。帰ったら桶職人の武彦さんに尋ねてみようか」

「いや、その前におやじさんに報告しようよ。絶対に面白がってくれるよ」

その続きがこきりこを打ち鳴らしながら現れた放下(※)だった。

長い笹竹の枝に恋歌をしたためた紙をいくつも吊るして背中に差した姿は、人目を吸い寄せる。

放下は独楽を空中で回した後、小さな極彩色の派手な毬をいくつも取り出し、品玉を始めた。空中に放り投げて、落ちてくる色鮮やかな毬を順番に掴んでは放り投げる、を目にも止まらない速さでどんどん決めていく。

わしはつい、鼓で拍子を取りたくてたまらなくなった。こきりこは見事な拍子を崩さず、毬をどんどんつかんでは放り投げ、その勢いは増していくばかりだった。

観客からはまた喝采が飛んだ。

放下の演目が終わった。次に出ていく者が無かったので、吉丸と徳二、保名がトンボを切りながら道の真ん中に出て行った。

幸の笛とわしの鼓で奏でる早い調子の楽に合わせ、大掛かりな軽業を何本も決めていく。相手の手の上に飛び乗ってから後ろ周りに回るトンボや、連続回転を入れていく。その後、吉丸が保名を手で高く持ち上げ、吉丸の手の上で逆立ちしている保名が空中で回転をしながら着地した。

大掛かりな仕掛けを見たばかりの見物人には物足りなかったようで、反応は薄かった。ここは笑いで勝負だ。

徳二が背籠から女ものの着物を取り出すと、わしらはいつもの出店の夫婦の真似の舞を始めた。やりつけているせいか、徳二は出店のおかみの物まねがうまい。わしは幸と陽気な楽を始めた。

出店の旦那役の吉丸にしなだれかかり、両の腕で旦那にしがみついては離れ、客の所に行ったかと思えば客の見ていない所でまた旦那に縋りつく。旦那役の吉丸も、おかみを離さないように抱き寄せたかと思えば、離れていくおかみを残念そうに追いかけ、戻ってくればまた抱き寄せる。

徳二のちょこちょことした足取りが、おかみの愛らしさを充分に出していて、着物を頭から被っているだけでも一目で女の振りで舞っていると分かるようだ。観客からは吹き出すような笑いが出始めた。

そのままお互い向かい合って回りながら抱き寄せては離れ、離れていて戻ってくればまた大きく受け止めては抱きしめるを繰り返し、最後には二人でしなだれかかりながら、座って互いに身を寄せ合って、吉丸が徳二を後ろから抱きしめた。

舞が終わると、見物人からはかなりのおひねりが飛んできた。

見物人の一人からは、「早く家に帰ってお母ちゃんに合いたいね」とのお言葉ももらった。

「長く船旅をして港に戻ってくると、一刻も早く家に帰りたくなるものさね。家族がわしの事を覚えてくれているかが心配になることもあるがな」

使った小道具を背籠にしまい始めたとき、ふいと見上げると、わしらは男達に囲まれていた。

「どこの演者や?」

「京丹波の出だよ」吉丸が返す。

「ここはわしらの縄張りや。ここでやりたいなら、わしらと芸比べをして勝ってからにせえ」

こんな風にすごまれる時は、旅に出ると何度かある。

「こっちが勝ったら、どこででも演じていいのかい?」徳二が切り返す。

「どこでも、っちゅう訳やないがな。まずはわしらのを見いや」

そう言うと、二人の男が竹で作った梯子を二つ並べ、梯子の段と段の間を、目にも止まらない速さで飛び跳ねながら進んでいった。

全部の段の間を飛びきった所で梯子を立て、男達はその上にするすると登っていく。てっぺんにたどり着いたところで二人は目いっぱい逆立ちすると、そのまま、大きく開いた足の先だけで竹をつかみ、身体を前に折り曲げて手で竹をつかむと、開いた足を再度ぐるりと回して竹をつかみながら梯子を下りてくる。まるで仕掛け人形が脚を大きく開いたまま、竹の上から転がり落ちるように降りてきているかの様だ。

「派手な見世物だな。あの梯子の連中の身体の柔らかさときたらどうだい」
徳二が興奮したかの様に声をかけてきた。

「あれならおれにも出来るかもしれない。丹波に帰ったら早速練習してみたいな」

身体の柔らかさではうちの一座では一番の徳二からすると、こういう体の柔らかさが求められる芸は大歓迎なのだろう。これは丈夫な竹を用意するしかあるまい。

「ほな、今度はそっちの番や。見せられるものがあれば、だがな」

相手はにやにやしながらこちらを見ている。

わしらは相談をして、保名の男舞から続けて紅葉の舞をやることにした。緩急がでて、良い組み合わせになるのではないだろうか。吉丸と徳二はからげていた着物の裾を下げて落とし、保名は馬袴を身に着けた。

幸の笛とわしの鼓に合わせて、保名が戦いの踊りを舞う。赤い扇子を広げて力強く切れのある動きで型をどんどん決めていき、流麗な足さばきで道を所狭しと進んでいく。楽の音に合わせながらすり足で大きく輪を描いて回ると、保名の特大の跳躍を見せ、男舞は終わった。

一瞬の静けさの後、楽の音の調子を変える。吉丸と徳二と着替え終わったばかりの保名が、横一列に並び、手に持った赤い扇を紅葉に見立て、紅葉の舞を舞い始めた。本来は女舞なのだが、わしらに出来る派手な舞と言えばこの舞だ。

吉丸は唄を唄いながら、舞を舞った。扇を肩にかけて膝を折り、右にくるりと一回転。紅葉の葉をちぎって投げる動きをしたら左に一回転。扇を前にかざしながら右斜めにすり足で動き、そこで扇をゆっくり広げる。

一旦扇を閉じると、左にもすり足で動き、そこでも赤い扇を広げる。半回転して後ろを向き、開いた扇を高く差し上げながら勢いよく右に一回転し、ゆっくりと扇を斜めに振り下ろす。三人は気を張っているようだ。一つの音も取りこぼさないよう、楽の音に合わせながら紅葉の世界を舞った。
見物人からはため息の様な音が漏れ聞こえた。

舞が終わると、異国の船乗り達から拍手が沸き起こった。口笛の様な音も飛んでくる。堺の芸人達への拍手よりももっと大きかった。

軍配はどうやらわしらが優勢だった。異国の船乗りにはわしらの楽と舞が珍しかったようだ。

それに、長い船旅で船の帆によじ登る機会が多かった船乗り達にとって、竹の上での軽業は日常に慣れた動きだったのかもしれない。

芸比べを仕掛けてきた連中が不機嫌そうな顔をしていた所に、男が一人駆けてやってきた。

「どないした、お前達。何をしょぼくれとるんだい」

「今、丹波からきた連中と芸比べをしたんですわ。わしらの竹梯子の芸は、船乗りさん達には不評やったようで・・・」

その時、男は吉丸の顔を見ると、大きな声で言った。

「吉丸!吉丸やないのかい?」

「鉄次郎兄さんですか!?」

「そうだとも!遠路はるばる良く来よったな!あっちでは皆息災かい?」

「はい、おかげさまで全員息災にしております」

「そら良かった。この連中はな、わしの所の座員達やねん。おい、お前達、京丹波から兄弟弟子がくると言うておいたやろう?」

「え!こいつらが?!」

「まさか!こいつらだとは思うてもみまへんでしたよ!」

「それも女踊りを踊りこなすなんて!」

「さっきの女の着物を着たひょうきんな舞は良かったな。あれならずっと見ていられる」

「そっちの竹の軽業も見事だった。俺もいつかやってみたいものだよ」

徳二が破顔一笑で答えた。

鉄次郎さんが頭を掻きながら言った。

「おい、わしの師匠の所の芸人さん達やで。兄弟分が来てんと思うて、今日は盛大にもてなしてやってくれよ」

その後は無礼講になった。

わしらは鉄次郎さんの家に呼んでいただき、他の座員達と土間で車座を作りながら、これまでに旅で通って来た村の話や、これまでにやって来たお互いの芸について、時も忘れて大いに語り合った。

「わしらは普段は大掛かりな道具を使った出し物をようけやっとってな。今日見せた竹の大技の他、軽業もやっとるんや。

舞は楽のなり手がおらへんばっかりに、ちっとの間はやっておらへんが、またやりたいもんだ。一人でも楽の座員が入ってくれれば、すぐにでもまた舞を作りたいもんだね」

「こちらは幸い、楽の出来る衆がいてくれるんで、舞と軽業はできています。春と秋には河原で軽業と舞の他、芝居も出来ているんで」吉丸が答えた。

「芝居か!猿楽の様なものなのかい?」

「似ていますが、猿楽の様には行きませんね。やっぱり真似では上手くいかない。

楽の座員ならうちには何人かいる。手伝えることがあればいつでも仰ってください」

「ありがたいことやな。わしらの大道具も貸し出すで、必要な時はいつでも言っておくれ。徳二さんは身体が柔らかいと聞く。わしらの芸もきっとこなされるやろ」

鉄次郎さんはこの日のために作っておいてくれた新鮮な魚と野菜の鍋を出して下さった。

「さあ、遠慮せんで食べておくんなはれ。あんさん達が来るから、美味いのを準備してたんや」

「少ないけど、麦飯も用意したんや。味噌汁もちっとばかし具沢山にして」

そうすると、座員達は一斉に箸を伸ばし始めた。若い座員が多いこの座では、食事は早い者勝ちらしい。わしらも負けじと手を出した。

「新鮮な魚の鍋がこんなにうまいものだとはなあ」

徳二が顔をほころばせながら言った。

「家では時々干し魚を食べることがあっても、京丹波じゃ新鮮な魚などめったに口に入るものではないんですよ。味噌を利かせた出汁の上手いこと。それにこの魚のぷりっとした噛み応えのあること。この白身魚はいくらでも食べられそうだ」

鍋に入った青菜やネギ、水菜などの野菜も新鮮で、これもまた長旅をしてきたわしらにとっては素晴らしいごちそうだった。

「こちら、お礼と言っては何ですが、今日の箸休めにどうぞ。先日通った村でいただいたものなんです」吉丸がそう言うと、樽を持ってきた。

わしらはその茄子の塩漬けの樽を開けた。皆樽をを覗き込む。鉄次郎さんがまず手を付けてくれた。

「これは漬かり具合もちょうどええ。紫の色もしっかり残っていて綺麗なもんや。麦飯や鍋の箸休めにはぴったりだ」

最後には米を使ったどぶろくが出た。

「お前はん達、酒はいける方かい?ぜひ飲んでもらいたいと思って、仕込んでおいたんだ」

そういうと鉄次郎さんは大きな瓶から沢山の小皿に白いどぶろくを注いでいった。

旅に出ると時々飲ませてもらう機会のあるどぶろく。家で飲んでいる甘酒とは比べ物にならないほど強い。白く濁った酒の入った瓶からは次々と椀に酒が注がれ、わしらの方にも回してくれる。

徳二が保名に盃を見せていた。

「旅先でどぶろくなら見たことがあるだろう?舐めるだけて良いから試してみるかい?。自分が酒に強いか弱いかがすぐ分かる」

まだ子供の保名にどぶろくを勧めるのはどうかと思うが、わしは保名の様子に気を配った。

保名は思い切って椀をぐいと空けた。子供のその飲みっぷりに先方の芸人達は呆れ返ったが、自分の所の若い衆も加えて大いに飲み始めた。

酔いが回ったわしらは、楽の音に合わせながら歌合戦に、芝居の台詞回しにと、夜がとっぷり暮れても大騒ぎを続けた。鉄次郎さんの一座の一人が立ち上がると、唄いと即興の舞を始める。
 
「なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ」
 
それに合わせてわしが鼓で拍子を取る。幸も即興で笛を奏で始めた。
楽を聞いた舞手の方も、同じ歌詞を何度も繰り返しながら舞を続ける。
 
なにせうぞ くすんで 一期は夢よ ただ狂へ
 
確かに人生は夢なのかもしれない。ただしその夢を存分に楽しまないで何であろう。

こうして偶然にも町中で出会ったのが兄弟弟子とは、誰が思っただろうか。そんな出会いをした兄弟弟子だからこそ楽しみも倍になる。

その場にいた連中も同じ唄を唄い始めた。酔いもあるが、大笑いをしながらもこんなに大勢で楽を聞き、同じ唄を唄うような楽しい時間を過ごしていると、つい家に帰ったかの様な気分になってくる。

気が付いてみると、保名が真っ赤な顔をして大の字になりいびきをかいていた。まだ子供なのに一杯空けるとは大したものだ。明日の朝がまた心配になる。きっと徳二が許さないだろう。

鉄次郎さんの所の若い座員達も同じように真っ赤な顔で寝入っている。

周りでどんなに大騒ぎをしても、寝ている若い連中の耳には届かないようだ。その日は、明けの空が白くなってくるまで、わしらは楽を奏で、唄って騒いで夜を越した。
 
 
 
※放下(ほうか)
室町時代から近世にかけてみられた大道芸のひとつ。「こきりこ」という拍子をとる竹の棒を打ち鳴らし、空中で独楽を回したり、お手玉をしたりと人気のあった大道芸。 


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