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#ポエム

ナウシカ

緊急事態宣言が発令された大型連休に乗換の地下道にいて、ただどこにいくあてもなくぼんやりと発車を知らせるアナウンスや、移動はおやめくださいという聴き慣れてしまった声を聞き流していた。どこにいけるあてもないのにポスターは渋谷にある老舗のカフェや新緑の鮮やかな京都を勧めてくる。どこにもいくことができないのに無人の駅に無人の電車が来て無人まま去っていく。
宛名を書き忘れた手紙みたいな人々が街にはたくさんい

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新たなる人

誰かのことを責めたかったわけじゃない
けれど責め立てなければ泣くことが出来なかった、怒らないでください、奪わないでください、できないんです、声が追いつかないんです、ごめんなさい、ごめんなさい、こんな人でごめんなさい、なにもできなくてごめんなさい、大人になったわたし、なにもできないままで、誰にも愛されない、何にだってなれるよ、だから自分を信じて。と投げられた言葉を何一つ理解できなかった、18歳の頃、

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白昼夢

きみが愛を語る日はいつもかなしい
ひたむきに生きてきた両腕を
真っ直ぐに伸ばす仕草が
太陽まで届かないことを知っている
横殴りの白線のような傷跡
向き合わなければならないのは
生と死 どちらなのか
小さな窓のある部屋で外の雨を眺めよう
守られていることに鈍感になり
鳥が撃ち落とされる
きみは甘いキャンディになるんだよ
なにもかも全て忘れてしまって
適切な体温の中、溶けていくのをゆっくりと感じとれば

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生きていくこと

あたたかい言葉を書きたいと思った
現実のほうが幾分もつらいから

あたたかい人でありたいと思った
本物に傷つけられた人を知ったから

優しくありたいと思った
逃げないでいたいと思った
事実はいつだって残酷だけれど

かなしみはいつも冷たく果てしなく
奈落の底は前も後ろも上も下もなく
誰もいない誰も助けにこない
もがけばもがくほど
深くきつく 息ができない

あたたかい言葉を書きたいと思った
優しい

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輪郭

部屋を出て行ったのはわたしのほうだった
日曜日の朝早く 泣きながら
それはもう別れましょうだよ と言い放った
言葉だけが部屋を浮遊して
音だけが部屋に残った

あなたがシャワーを浴びている音を聞きながら
部屋に置いてあったテディベアを抱えて
電車へ乗り込んだ
俯いたままベアを抱えた女は まだ19歳だった

遅い夜泣きながら電話をして
初めてあなたが聞きたがっていた過去の生い立ちを話した
それは俺じ

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