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記憶の欠片 ~失くしていった記憶たち~

過去の記憶。
失った記憶や単に忘れていただけの記憶、忌々しさから奥底に封印した記憶、さまざまな記憶たち。

そんな記憶の欠片たちを拾い集めて、ひとつの物語を紡いでいきたい。

◆2人で遊んだ秘密の場所

小学3年生の頃に、猛烈ないじめにあった。
クラスの問題児2人からだった。
それまではクラスでも明るく、友達も多かった僕。
皆から好かれていたのが気に入らなかったのか、その問題児2人に目を付けられ、いじめの標的にされた。

毎日のように殴られ、それは酷い日々だった。
友達だと思っていたヤツらはみんな見て見ぬふりをし、こんなことには関わり合いたくないと僕を無視するようになった。
みんなから無視される孤独に小学3年生が耐えられるわけもなく、僕は同じくいじめられっ子だったK君と話すようになった。

よくK君と2人で、町外れの河原に遊びに行った
家から自転車で30分以上かかる隣町との町境にある土手。
その土手を降りて塗装されてない砂利道を進み、うっそうと茂った木々を抜けていくとようやく河原にたどり着く。
ここならアイツらいじめっ子も来ることはないし、アイツらにもバレない。
僕とK君の2人だけの秘密の場所となった。

「ここなら誰にも聞かれないから」と、アイツらの悪口も思いっきり言い合った。
川に入って、水かけっこして遊んだりもした。
「反対岸まで泳いでみよう」と言って水に入ったにはいいが、ちょっと深くなるとすぐに怖くなり、2人してすぐに引き返した。
「溺れるかと思った。じつは僕は泳げないんだ」と顔を真っ青にしているK君を見て、僕は思わず吹き出してしまった。

あるとき僕はK君に一番伝えたかったことを言った。
ずっと考えていたことだった。
「僕はもともとはいじめられっ子じゃなかったんだ。多くの友達がいて、楽しく生きてたんだ。それが突然いじめられて…。
でも突然いじめられたのなら、突然いじめが終わることもあると思うんだ」「また、友達に囲まれた楽しい学校に戻れると思うんだ」
それを聞いていたK君は言った。
「いいなあ、そんな楽しい時があって。僕は幼稚園からずっといじめられてた。僕にはいじめられてたときしかないよ」
その眼はその歳で何かを諦めたようなとても悲しい眼をしていた。

僕は決心して言った。
「ずっと考えていたことがあるんだ。アイツらいじめっ子も2人、こっちも2人、僕ら2人でアイツらに立ち向かってみようよ。殴りかかるんだ。アイツらを倒すんだ」
だがK君は、「僕にはそんな勇気はない」
「そんなこと考えるなんてすごいな。やっぱり、君はぼくとは違うよ」
そう言ったきり、K君は下を向いて口を閉ざしてしまった。



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