なぜ現代の組織で働く人々は、ときとして愚かとしかいいようのない集団行動をとるのか。
なぜ我々は時として自分に何も見えていないことに気づかないのか。
世界の金融システムがメルトダウンし、デジタル版ウォークマンの覇権争いでSonyがAppleに完敗し、ニューヨーク市役所が効率的に市民サービスを提供できない背景には、共通の原因がある。
イギリスの経済ジャーナリスト、ジリアン・テットが導き出した答えが、サイロである。
複雑化する社会に効率的に対応するため、組織の細分化と専門特化が進み、誰も自分のサイロ以外で何が起きているか知らず、知ろうともしない。そんな仕事のやり方を当たり前のものと捉え、思考停止し、別のやり方があるのではないかと考えることもしない。そうした現象を著者は「サイロ・エフェクト」と呼ぶ。
本書では、サイロのために組織に属する人々がどれほど愚かな行動をとるか、また企業や組織がどうすればサイロから生じる問題を避けられるかを考察している。
組織のサイロ化を全否定しているわけではない。複雑化する社会で効率的に仕事を遂行するためには、組織の専門化は不可欠であるとも述べられている。その上でサイロの弊害をどのように克服していくか。
サイロを破壊するのは守りの手段とは限らない。 攻めでもある。社会が使っている分類システムを意識すると、ライバルに対して優位に立てることもある。サイロにとらわれている企業があれば、それは別の誰かのチャンスになるかもしれない。
組織が大きくなると官僚主義や分断化が進む。これは避けられない。そうなると愚かな行動に走りがちになる。サイロは歪んだインセンティブを生み、個別の部署の利益では理にかなっているように見えて、マクロレベルではとんでもなく愚かなことをしでかす。
どう対処するのが良いのだろうか。多くの事例を見てきた筆者の意見をまとめると下記である。
大規模な組織では部門の境界を柔軟で流動的にしておくことが好ましい。
組織は報酬制度やインセンティブについて、集団としてのモノの考え方を促したければ、協調重視の報酬制度をある程度取り入れなければならない。
全員がより多くのデータを共有するできるようにし、自分なりに情報を解釈し、そうして生まれる多様な解釈に組織が耳を傾けるようにすること。
組織が使う分類法を定期的に見直すこと。継承した分類システムを無批判に受け入れがちだが、それが理想的なものであることはまずない。時代遅れになっていたり、特定の利益集団の役にしか立たないこともある。
社会の分断、サイロ化は一段と進んでいる。自らの価値観を絶対視し、そこに当てはまらないものを異端と見なし、無視あるいは攻撃するというのは、サイロ・エフェクトの最たる例だ。世界の二極化やSNSの炎上案件も、自らと異なる価値観への鈍感さ、すなわちサイロ化によるものではないか。
サイロにコントロールされず、自らサイロをコントロールするための筆者の助言が最後に述べられている。