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【読書メモ】戦争の犬たち

1974年に出版された、イギリスの作家フレデリック・フォーサイスによる軍事・経済小説。

鉱山の利権を狙ってアフリカの小国にクーデターをしかける資産家と傭兵たちの陰謀を描いており、題材となったクーデターは、著者であるフォーサイスがジャーナリスト時代に参画した赤道ギニア共和国に対する実際のクーデターに基づいていると言われている。

なお著者は、当時のイギリス政府の方針に反する報道を行い左遷された後、退職して作家活動を始めた。スパイ小説や軍を舞台にした、ジャーナリスト時代の経験による深い蘊蓄と緻密な描写の作品が多く、世界各国で読まれている。


・あらすじ

独裁者キンバ大統領が恐怖政治を敷く西アフリカの新興国ザンガロに有望なプラチナ鉱脈があることを、イギリス大資本のマンソン合同鉱業は探りあてた。その報に接した瞬間、マンソン社の会長ジェームズ卿の頭の中に、プラチナの採掘権を狙う恐るべき陰謀が組み立てられた。プラチナは自動車用触媒としての将来需要を見込めるため、マンソン卿はその利権を密かに自分のものとすべく、現地調査報告書の内容を改竄して低品位の錫が発見されたことにして、プラチナの存在を伏せた。それから程なく、パリに住む白人傭兵のリーダー、キャット・シャノンの元へ、卿の使者が送られた。巨額の報酬と引き換えに掲示された依頼は、ザンガロに軍事クーデターを起こし、大統領を抹殺することだった。マンソン卿はザンガロにクーデターを起こして独裁者キンバ大統領を殺害し、傀儡政権を作り上げた上で、自らが操るペーパーカンパニーに採掘権を与えさせてプラチナ利権を手中に収め、さらにペーパーカンパニーの株売買でも利益を得る計画を企てたのだ。しかし、富者の思惑による戦乱に翻弄されるアフリカ現地の悲惨さを知っているシャノンには別の考えがあった。

・所感

タイトルの「戦争の犬たち」は原題(THE DOGS OF WAR)の直訳であるが、日本語の語感からくる、「金のために資産家の犬として働く戦争屋」のようなニュアンスはなく、むしろ作品中において傭兵は「依頼を受けるかどうかを自ら判断し、雇い主に対して最善を尽くすプロの戦士」として好意的に描かれている(優れた猟犬というようなイメージであろう)。上巻と下巻それぞれの最終盤の、シャノンの各セリフは痛快である。

内容はタイトルから想像される派手な戦争ものではなく、大部分は事前の綿密な情報収集・現地調査、武器弾薬や装備の入手、ペーパーカンパニーや輸送船の買収などの準備に費やされており、ヨーロッパにおける闇兵器売買の実態、不正な経済活動の実例といったフォーサイスらしい薀蓄が多く示されている。

喧嘩(ビジネス)の仕方、生き馬の目を抜くような金融の世界での戦い方、ヨーロッパ内でのビジネス文化の違いなど、学び得るものの多い戦争文学で、フォーサイスの書いた他の本も読んでみたいと感じさせる内容だった。学生や若い社会人には、是非一読をお勧めしたい。


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