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【読書メモ】人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する

人類とイノベーション:世界は「自由」と「失敗」で進化する、著:マット・リドレー

著者は進化生物学を専門にしており、人類の進化に関する著書が多い。本書では、人類の歴史におけるイノベーションの数々を振り返り、イノベーションを生み出す要因や阻害要因を明らかにしている。

イノベーションはどのようにして生まれてきたのか?

先史時代の農業革命から、食料、白熱電球、コンテナなどの歴史上の複数の事例を掘り下げ、イノベーションを起こすためのヒントを探る。いくつもの例があり、少し冗長にも感じたが、いくつか印象に残った事例をメモしておく。

・イノベーターと発明者は違う。白熱電球を「発明」したのはジョゼフ・スワン。そこから性能を改善し、世の中に普及させたのがトーマス・エジソン。
・ずっと前からそこにあったごく単純な材料が巧妙に組み合わされば、思いもよらない結果を生み出せる。
・突然閃くのではない。既に実用化されているものを手直しし、どうやって利益を上げるかを手探りし、折角のイノベーションがなかなか普及せずジリジリする。事実はもっと地味なのだ。
・世の中の準備が整わないとイノベーションは実現できないことが多い。

過去のイノベーションの分析を通じて、これらの事例に共通するのは、一握りの天才の閃きによる画期的な発明ではなく、偶然の発見や既存のアイデアを組み合わせ、試行錯誤を繰り返すことで実用化され、普及していく。

すなわち「発明」から「改善」され「普及」するまでのプロセスがイノベーションである。突然生まれるのではなく、ゆっくりと、多くの人が協力して普及していったのである。

イノベーションは、段階的で、漸進的で、集積的だ。これは避けられないプロセスである。

人類とイノベーション、マット・リドレー

イノベーションの阻害要因

イノベーションを育むためには、リスクテイクや失敗に寛容で、実験と学習を繰り返すことができる環境が不可欠であると主張する。現代の知的財産制度と著作権制度が自由を制限し、イノベーションを阻害しているのではないか。イノベーションはこれまでも常に既得権益との戦いの歴史であり、著者はとりわけ欧州の規制に対して大きな懸念を示している。
今日の遺伝子組み換え作物や原子力発電に対する否定的な見方、欧州一般データ保護規則(GDPR)のような予防原則に基づく規制、さらには知的財産保護までもがイノベーションを減速させているのだ、と。

所感

発明とイノベーションの混同してはいけないという指摘や、一人の天才の閃きからイノベーションが生まれるのではないということを史実から紐解く点が面白い。凡人が集まって知恵を絞り集め、時間を掛けて改善を重ねたものが、イノベーションと見做されてきたのだ。
また改革には自由な発想が必要であり、真っ向から否定してはいけない。異業種と積極的に交流し、多くの失敗が許容される環境の中で何度も失敗しながらとにかく仮説検証を繰り返すこと。「自由」と「失敗」が欠かせないのだ。
このような環境をどのようにすれば準備できるのだろうか。特に減点方式の、失敗の代償が大きい日本の大企業では、なかなか難しいかもしれない。
個人として、小さなサイクルや実験を回していこう。


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