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昔から人は噂が大好き。

「人の噂も七十五日」
「噂は遠くから」
「噂をすれば影」

そんなことわざが残っているくらい、噂は人々の間に浸透しています。

今回は、そんな噂のお話です。

あ。この物語はフィクションでからね。

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「エア噂・うわさのアプリ」  作・夢乃玉堂

近年『エアウワサ(仮)』というスマホ向けアプリを
あなたは聞いたことがある。

スマホにある写真にテキストをつけて、近くにある同じ『エアウワサ(仮)』を入れているスマホに、勝手に転送できる、というもの。

言わば写真とテキストの押しつけ、いや、スマホを渡り歩くチェーンメールのようなものだな、
と、あなたは感じている。

鋭いあなたは、アプリの本質を見抜いた。

「ある種のコンピュータウィルスだ。だけど、転送される情報は、インアウト共に全く同じで、スマホ内の他のデータは一切加工したり、抜き取ったりしない構造だ。数百キロ程度のメモリを使うだけの軽いアプリなので、一般にも受け入れられるだろう」

その予想は当たっている。


『エアウワサ(仮)』は瞬く間に普及し、何億というスマホユーザーがインストールしている。

そんな話を耳にしたあなたは、一つの悪戯を思いつく。

「一つ実験してやろう」

暑い夏の日。不快指数100%、コンクリの床が熱波を照り返している駅のホームで、あなたは、ひとつの静止画とテキストを『エアウワサ(仮)』で流す。

静止画は「拳銃の銃口を真正面から撮影した写真」

テキストは、「あなたの隣にいる人が、拳銃であなたを狙っている」と書く。

反応が物凄い。

ホームでスマホを持った人たちの間に連鎖的に恐怖の表情が広がって行く。

ほんの数秒の後、ホームはパニック状態になり、多くの人が恐怖の表情を浮かべて走り回った。自分を守ろうと焦った人の中には、隣にいる人間に殴りかかる者もいる。

あなたは、大混乱のホームをしり目に、笑いを堪えながら駅の改札を出て、駅前の商店街を歩いていく。先ほどの駅の様子を思い出すと、心の中に神にも似た万能感が湧き上がり、うすら寒い笑いを押さえることが出来ないのだ。

その時、あなたのスマホが『エアウワサ(仮)』の着信音を鳴らす。

見ると、ライフルの銃口を真正面から撮影した静止画だ。
表題のテキストには、
「人ごみの中から、あなたを狙っている。間も無く心臓を撃つ」
と書かれている。

「フン。俺と同じような事を考える不心得者が、もう一人いたようだな」

だが、先ほどのホームとは様子が違った。

商店街を歩く買い物客たちは誰一人パニックに陥らず、走って逃げだすような者もいない。

「この辺りには『エアウワサ(仮)』を入れている奴がいないのかな」

あなたは、少し不思議に思う。その時・・・

キィン!

何かが風を切るような音がした、と思う間もなくあなたは
心臓を撃ちぬかれている。
倒れたあなたは、自分の血液が商店街の石畳を染めていくのを見つめる。

噂を流した奴が、噂を信じない時、
噂によって得られた万能感は、あなたから失われる。

これは、人が会話で交わす噂話を誰も信じなくなった未来のお話。
その世界では、噂が人を傷つけすぎたため、AIが安全な噂だけを作るようになっていた。

そして、人が新たに噂を広めようとすると、その噂は削除される。発信した人と共に。

           おわり


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「めざせ100怪!ラジオde怪談」は、「清原愛のGoing愛Way!」(SKYWAVE FM89.2(https://www.892fm.com/)にて毎週木曜日16:00~放送中)の番組内で100の怪談を特集する「怪談朗読特別企画」です。

「100の怪談&不思議な話をお届けしたい!届けよう!!」という熱い情熱から生まれたこの特集、2024年7月と8月の9回ある放送回を全て怪談で埋め尽くそうという何とも暴走気味な企画。

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