見出し画像

「麻田君、反省す」・・・高校時代、意外な事に、目覚めた瞬間。

麻田君の高校時代のこと。
麻田君は、50ccのバイク(スクーターではなく原付のスポーツタイプのバイク)で
スピードオーバーして、免停になった。
50キロ制限の田舎道だったが、原付バイクは時速30キロ制限なので、
周りの自動車に合わせて56キロで走っていたところを
白バイに検挙されたのだ。

バイクは友人からその時だけ借りていただったので、麻田君は貸してくれた彼に詳細を話した。
後で警察から連絡が行ってから、知るのでは印象が悪い。
(当時盗難バイクで暴走する輩も多かったから、持ち主に確認の連絡が行く事があった)

翌日。麻田君が登校すると、すでに違反の噂は、学校中に広がっていた。
情報源は明らかだったが、拡散のスピードが速かったのは、
「普段おとなしめの麻田が、スピード違反で赤切符まで切られた」
という意外性が影響したのだろう。
中でもヤンキー系の同級生の態度が変わったのが一番の驚きだった。(どう変わったかは、本人の名誉の為にここには記さない)

数週間で警察から自宅に連絡が来て、免許センターに呼び出された。
当日、お偉いさんの演説を聞き、その後「別室で講習を受ければ
30日の免停が1日になる」と言われたが、
麻田君は「面倒なので30日で良いです」と答え、警官に驚かれた。
特にバイクに乗る用事も無いし、走り屋でも無かったから、ひと月くらい乗らなくても欲求不満にも無らないだろうと思ったからだが、
それ加えて、「大人しく言う事を聞けば、少しおまけしてやる」と言われているようで麻田君は嫌だったのだ。

さらに数日が経つと、麻田君は風紀委員でもある副教頭に呼び出された。
「免停にまでなったら、一応処分をしなければいけない」
ということらしい。

なるほど、青切符は警告で終わりだが、免許停止処分以上の赤切符は記録に残るからな。
麻田君は変に納得した。

処分は登校は出来るが、学校内で謹慎する「学校謹慎」だった。
麻田君は一瞬、「やった。堂々と授業をサボれる」と思った、まったく不謹慎である。
だが、実際には、
「授業は普通に受けて良いが、今日から三日間、謹慎処分として、
放課後1時間、風紀委員室で反省文を書くこと」
という内容で、がっかりした。

ところが、放課後の風紀委員室は、麻田君にとって実に心地よかった。
3坪ほどの縦長の倉庫のような殺風景な部屋。
放課後の喧騒が耳をすませば聞こえる程度の適度な静寂。
勿論、部屋には麻田君一人で、ただ反省文を書けば良いだけ。
帰宅部だった麻田君にとっては、クラブ活動を制限されることなく、
自宅で勉強するより集中できる時間となった。

「学校謹慎」では、反省文としてA4の紙に、事件の詳細を書いていく。
麻田君の場合はバイクで違反した時の状況を書く。
それまで謹慎処分を受けた生徒は数人いたらしいが、皆3~4行書いて、後の時間を持て余していたらしい。
つまりは「退屈の刑」なのだ。
人間は苦痛にも貧困に耐えることが出来るが、「退屈」にだけは耐えることが出来ない、という事を聞いたことがある。
もしそうだとしたら、かなりつらい刑罰だ。

ところが、麻田君にとっては違った。

真っ白い紙に、あの日、バイクを借りる事を思いつくところから書き始めると、筆が止まらなくなった。

「秋風が揺らす紅葉」
「爽やかな風がヘルメットの隙間から割り込んできて、季節の涼しさを感じさせた」
などとおよそ反省文とは思えないような詩的表現を連発し、
いつの間にかA4の紙は一杯になり、裏にも続きを書いていった。

あっという間に1時間が過ぎ、風紀委員の先生が、様子を見に来た。
書き上げた「反省文」を受け取ると、「明日も同じ時間にな」と言って
出て行った。
麻田君もその後を追って下校した。

翌日、麻田君は同じ時間に風紀委員室に行き、同じように反省文を書いた。前日に書ききれなかった。警察でのいきさつや、一応懲罰という事に配慮して、「反省をしている」という意味の文章も入れてみたが、心は全く違っていた。
「いつも放課後この部屋で反省したいな・・・」
と言う感じ。全く困ったものである。

前日同様、1時間で風紀委員の先生が様子を見に来たが、
反省文を一瞥すると、
「よし。今日で学校謹慎は終わりだ。明日からは普通に帰っていいぞ」
と言われた。
『え?もう一日あるんじゃないですか』
と思ったが、わざわざ「懲罰を加えてください」というほどのマゾ的精神は持ち合わせていなかったのだ、素直に帰る事にした。
三日、と聞いたのに二日で終わりになるのも納得いかなかった。
おそらく、筆の乗った反省文を読んで、これは効果が無いな、と副教頭が思ったのかもしれない。
そんなことを考えながら、麻田君は廊下を歩ていった。

学園ものの小説なら、校門辺りで麻田君が出てくるのを待っていた悪友たちが、肩を抱き、「お勤めご苦労さんです」とか言う所だが、
麻田君にそんな悪友が出来るのは、もっと先のことだったので、
一人、部活終わりの生徒に混じって普通に帰った。
おそらく誰も学校謹慎の帰りだとは思わないだろう。

帰宅後、麻田君は一つだけ後悔した。

「あの『反省文』、コピーして手元に置いておくべきだった。
あんなに筆が乗って書けたのに・・・」

それだけは未だに後悔しているという。


そんな調子だから、麻田君はそれからしばらく文章を書く事に飢えていた。
小説のプロットをノートにいくつも作り、
国語の授業で「教科書に書かれた例文の批評をする」という評論文の宿題が出ると、評論そっちのけで、自作の小説を書いて出した。

それが又、大きな渦を生むのだが、それは又別の機会に。

「(ちっとも反省してないけど)麻田君、反省す」の巻でした。

           おわり


#麻田君 #バイク #違反 #青切符 #赤切符 #速度違反 #スピードオーバー #学校謹慎 #副教頭 #風紀委員 #高校 #生徒 #先生 #不思議 #謎 #白バイ #追跡 #原付バイク



ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。