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「孤高の魂を舞台に映す事」・・・十字架に身を置いて生き抜いた男たちの熱さが今も残っている。


熱い芝居だ。とにかく熱い!

「彼の男十字架に身を置かんとす」(LiveUpCapsules)
新宿シアターサンモール 16日まで 神戸ポートオアシス 4月20日~23日


明治から大正にかけて世界を股にかけて活躍し、日本のGNPの一割に匹敵する売り上げを誇った(現在の価値で50兆円を売り上げた)
総合商社「鈴木商店」の物語だ。

世界地図を背景に、明治後期のオフィスに
まるで流れ落ちる山中の七つ滝のように、男たちの叫びが交差する。

台詞の応酬が観客の心を掻き立て、言葉の一つ一つの圧と、役者たちのエネルギーに圧倒される。

これ以上はネタバレになるので、実際に舞台を体験して確認していただきたいのだが、日和見になりがちな現代の若者に、いや縮こまって後ろ向きになっている臆病な中高老年に対し、「恐れるな!」「前を向け!」を訴え続けている。
何かを生み出そうとしている者、現実に成し遂げたつもりで安心している者、暗中模索で俯いている者は、是非見るべきだ。



内容を語らずに、舞台の情熱を証明する指標が一つある。
この舞台への協賛協力会社の多さである。

「ああ。実際にあった会社の物語なので協賛を得やすいのね」などと、冷めた見方をしてはいけない。このご時世に、演劇に金を出そうという企業が少ない事は誰もが知っている事だ。だからこそ、ここは世界を股にかけて熱い商売をしてきた男たちの情熱が、現代にも受け継がれていると見るべきであろう。

チラシに記された協賛企業の数々


さて、以前、作・演出の村田裕子さんにインタビューしたことがあった。
華奢な印象で、どこにこんな情熱を秘めているのかと、不思議に思える方であった。

それは、舞台の作り方にも表れている。

台本を渡したら、役者に自身の役を考えて貰い、人物像を構築してもらう。
まさに放任主義。いや、放置プレイと呼んでもいい位である。

稽古風景を見学に来た人がいたら、まず演出家がどこにいるのか戸惑うだろう。まるで稽古場のスタッフか管理人のように役者たちが勧める稽古に口を出さずただ見守っている。

迂闊にこんな演出をすると、キャラの個性だけが目立ち、支離滅裂でバラバラな印象になりがちだが、村田さんの舞台ではそうならない。

放任主義の演出法を取っているのは、おそらく役者たちの能力を信じているからだ。
男たちの情熱や生き方描くうえで、役者たち各々が考え、探し出し、表現する登場人物の、一人一人の個性のぶつかり合いを期待しているのであろう。

ちょっと恥ずかしい表現をすれば、「男の魂は皆、孤高である」ことを知っている。いや、人の魂とはそもそも孤高なものなのかもしれない。


そうやって、大勢が出てくる面白みや醍醐味というものが、ステージ上に生み出せるのだと思う。

以前に、演出家が細かく指示している演劇を観たことがあった。役者たちもまとまりがあり完成度の高い舞台だったが、ステージ上に存在したのは、ただ演出家の影だけであった。


話が逸れたが、村田さんの舞台に戻ろう。

*以下、少しネタバレがあるので、これからご覧になる方は読まないでください。


今回の舞台は、同じようなきっちりとしたスーツ姿の男たちが大勢が登場する。一部を除いて、役者の体躯も似ている。

それが当初、「鈴木商店」が成功に向かって行く間は、舞台でも群像として描かれ混然としている。しかし中盤になり、次々と問題が湧き上がって雲行きが怪しくなると、一つの塊から棘が飛び出すように、役者たちがより際立ってくる。

その変化が、実に面白い。
舞台がまるでもだえ苦しむ一つの生き物のようにも見える。

やがて、人間の弱さと強さが混然となったクライマックスに突入し、最後まで熱くくじけない男たちの姿が描かれていく。

そのラストは、是非ご自身の目で確かめていただきたい。


「彼の男十字架に身を置かんとす」
新宿シアターサンモールにて 16日まで
神戸ポートオアシスにて 4月20日~23日

出演:是近敦之 高山和之 山田隼平 横関健梧 児玉大介 秋葉陽司 岡遼平 ほか





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