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ゲームモデルの作り方

近年、サッカーを体系化、構造化する意識が高まり『ゲームモデル』や『プレー原則』といった言葉が浸透し始めた。

しかし、ゲームモデルやプレー原則の実用化という点においては、なかなか手をつけられていない指導者やクラブが多いのではないかと思う。そこで今回はゲームモデルをどうやって実用化させるのかまとめていく。


ゲームモデルの意義

そもそもゲームモデルとは何だろうか。ゲームモデルとは「クラブやチームのサッカーの哲学をどうやってピッチで表現するか」というものだ。例えば、『魅力的なサッカー』といった抽象的なところから始まり、魅力的なサッカーとは何かをより詳細化していき、どのように魅力的なサッカーを体現できるのかというところまで構造化する。つまり、ゲームモデルはクラブやチームの哲学をどのように表現するかというマニュアルみたいなものだ。

従って、そもそもゲームモデルを作る上でサッカー哲学がなければ意味がない。哲学というと壮大なものを考えてしまうが、自分が好きなサッカースタイルや目指す方向性などから考えると良いだろう。そして、そこに肉付けする形でクラブやチームの文化や価値、ビジョンを付け加えることができるとより方向性が明確になり、ゲームモデルの意義が強くなる。

そして、ゲームモデルは試合の4局面(ボール保持、ボール非保持、ポジティブトランジション、ネガティブトランジション)で表されることが多い。このカテゴライズは色々な考え方があるので、セットプレーを含めた5局面やその他のカテゴライズの仕方もあるが、基本的には4局面が主流の考え方になる。そして、各局面を更に細分化したものが『プレー原則』になり、更にプレー原則を細分化したものが『サブプレー原則』になっていく。そのため、ゲームモデルはピラミッドのように哲学を頂点として、そこから下に4局面やプレー原則、サブプレー原則と広がっていく。

ゲームモデルの作り方

では、ゲームモデルはどうやって作成し、実用化していけば良いのか。

①サッカー哲学

まずはゲームモデルの根本になるサッカー哲学について考えていくことから始めると良いだろう。「なぜサッカーが好きなのか?」、「サッカーのどんな部分に魅力を感じるのか?」、「サッカーのどんな要素が自分やチームを楽しくさせるのか?」というような問いを自分にぶつける。

例えとして、ここでは『エキサイティングなサッカー』を哲学とする。『エキサイティングなサッカー』とは何か。「攻守に渡って攻撃的で、スピーディーな試合展開を繰り広げ、観ている人々を魅了するサッカー」と定義する。

本来はこの哲学の理由付けとしてクラブのビジョンやチームの価値などがあると良い。しかし、今回は端折らせていただく。

②4局面で考え、プレー原則を作る

次に『エキサイティングなサッカー』をどのように表現することができるかを4局面で考える。

各局面で必要な作戦を考え出していくとサクサクと進むかもしれない。また、基本的には攻撃(ボール保持)と守備(ボール非保持)は対照的になっている場合が多いので、例えば攻撃で『ライン越え』を入れた場合に、守備では『ライン越えを防ぐ』というふうにすると作りやすいだろう。トランジションも同様に考えることができる。

簡単に4局面を『エキサイティングなサッカー』を題材にして下記にてまとめてみた。

今回のゲームモデルを作成するにあたって4局面で私が意識したことは『エキサイティングなサッカー』が持つ要素とは何かである。ざっくりと考えた結果以下の4つの要素をもとに4局面を構成した。

・数的優位
・縦に速い攻撃
・1対1
・スペースの活用

別に4つに絞る必要はないがあまりに多くの要素を入れるとまとまりのないゲームモデルになってしまうので、そこは注意したい。

ボール保持
・ゴールに1番近い選択肢(背後)を選ぶ
・スペースを作る、使う
・局面で数的優位
・1対1の支配

ネガティブトランジション
・即時奪還
・連動したプレス
・数的不利の対応
・エネルギッシュなプレスバック

ボール非保持
・ハイプレス&ハイライン
・チャレンジ&カバー
・コンパクト
・1対1の支配

ポジティブトランジション
・素速いリアクションによる数的優位
・ボールを素早く前に配球
・リスク上等の攻撃参加でボールホルダーをサポート

4局面におけるプレー原則

③サブプレー原則

今回、私が考えたプレー原則には大きく4つの要素があった。

・数的優位
・縦に速い攻撃
・1対1
・スペースの活用

そしてこれらの要素からサブプレー原則を作っていく。今回はボール保持の局面における4つのプレー原則を基にサブプレー原則を作成。

・数的優位
- オーバーラップ&アンダーラップ
- フリーな選手を見つける

・縦に速い攻撃
- 背後を狙う
- 前の選択肢

・1対1
- アイソレーション

・スペースの活用
- フリーランニング
- 幅と深さ

今回は例なのでボール保持の体系化だけ行ったが同様にボール非保持、ポジティブトランジション、ネガティブトランジションもサブプレー原則を考えていく。

④必要な技術

そしてこれらのサブプレー原則を基にそれを表現するための必要な技術を考える。ここでもボール保持の局面から細分化していく。

・数的優位
- オーバーラップ&アンダーラップ
- フリーな選手を見つける
必要な技術:スキャン、ファーストタッチ

・縦に速い攻撃
- 背後を狙う
- 前の選択肢
必要な技術:長中短距離のパス、コントロール

・1対1
- アイソレーション
必要な技術:仕掛けるドリブル

・スペースの活用
- フリーランニング
- 幅と深さ
必要な技術:運ぶドリブル

ボール保持におけるプレー原則、サブプレー原則、技術

このように哲学を基に細分化していき、最後は「どのように哲学(サッカースタイル)を表現できるか」というところまで体系化することができる。そして、このゲームモデルを基に練習メニューを作成したり、試合に必要となるプレー原則を落とし込むことができる。

ゲームモデルは鮮度が大事

サッカーは日々進化を続けている。CLを制覇したマンチェスターシティの『偽CB』やブライトンの『デゼルビサッカー』といったこれまで見られなかった人の動きやボールの動き、戦い方などがどんどん開発されている。そのため、ゲームモデルも日々最新のものにしておく必要がある。

いつまでも同じゲームモデルを使うということはサッカーのアップデートが無いといことになるので、どんどん劣化が進み、通用しなくなる。そのため定期的にゲームモデルをアップデートして鮮度を保っておくことが重要になる。例えば、シーズン後に1回だけゲームモデルを使った取り組みと成果を振り返り、良かった部分は継続して使い、上手くいかなかった部分は修正してゲームモデル自体をアップデートすることが必要になってくるだろう。とは言え、ころころゲームモデルを変えるとチームに一貫性がなくなってしまうので、ある程度のゲームモデルの使用期間を持たせることも必要だ。ゲームモデルはそもそもチームやクラブの取り組みに一貫性をもたらすためのものなので、アップデートするタイミングは慎重に定めておきたいところだ。

また、ゲームモデルはチームの取り組みや練習の方向性、試合での戦略において同じ方向性を持たせることができる。そのため、上手くいかなかった時にはチームが立ち返るものとして使うことができる。ゲームモデルを見てチームの取り組みやパフォーマンスで「どこが上手くいったか、どこが上手くいかなかったのか」を解析して、向上することができる。従って、日頃からゲームモデルに沿った練習メニュー、チームの取り組みを行っていないと軸がブレてしまい、立ち返ることもできなくなるので、ゲームモデルを作った際にはぜひチームの方向性を持たせる軸として活用してもらいたい。

冒頭で話したようにゲームモデルは指導者やクラブの哲学からくるものであって、「マンチェスターシティのようなポゼッションサッカーをしたい」というような戦術から来るものではない。哲学や文化、ビジョンがあった上でそれらを表現するツールとして戦術か存在していることを忘れてはいけない。まずは大元になる軸から考え始めて、それを体系化していくことから始めると良いだろう。

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