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【読書感想文】『すきまのおともだちたち』─どこか懐かしい、大人の絵本

江國香織さんの『すきまのおともだちたち』を読みました。

江國さんは初めましての作家さんでした。
著名な本をたくさん書かれているのは知っていましたが、機会がなくて。ナツイチの小冊子に掲載されていた粗筋に惹かれ、目をつけていたところ、地元の書店で巡り合いました。

あらすじ

主人公は新聞記者の女性です。
取材先を訪れた際、意図せず別世界──「すきま」に入り込みます。そこで出会ったのは、勇ましい9歳の女の子と喋るお皿。女性は女の子とともに「すきま」の世界を観光したり、旅行に出かけたりします。
「すきま」ではすべてがあるがままです。女の子は最初から女の子で、歳をとりません。
女性は人生の各所で「すきま」に入り込み、女の子と不思議な友情を育みます。

繊細でかわいらしい挿絵

装丁は通常の文庫本ですが、23ページもの挿絵がカラーで綴じられています。
絵の作者はこみねゆらさん。
まるでポストカードのように素敵な絵なんです。淡い色調で繊細に描き込まれていて、見ているだけで癒されます。

⇧女の子が用意したスープとサンドイッチの朝ごはん。


⇧ネズミの靴屋さん。女の子が深緑の靴をプレゼントしてくれます。

物語は敬体で綴られており、挿絵も相まってさながら絵本を読んでいるようでした。


感想

読みながら、なんだか懐かしくて物哀しい心地になりました。夕暮れ時のような、夏休みの残り日数をかぞえている時のような感覚です。

女性は意図しないタイミングで「すきま」を訪れますが、自分の世界に戻る時もそれは同じです。女性と女の子は時間の流れが異なる世界に生きています。女性はあくまでも訪問者なのです。

読者として、絵本のように優しい「すきま」の世界にもっと浸っていたいのに、女性がいつ現実世界に引き戻されるかわかりません。仕事も家庭も忘れてもう少し「すきま」にいてほしい、まだ戻らないで──と何度も思いました。
その、いつ終わるともわからない不確実な交流が、微笑ましくもあり切なくもあるんですよね。

読み終えても手元に置いておきたい一冊です。
休日の昼下がり、コーヒーを用意して、大切に読み返そうと思います。

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