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【読書感想文】『ののはな通信』─女子ふたり、30年に渡る往復書簡 

三浦しをん先生の『ののはな通信』を読みました。読書から離れていた私に、本が好き!という気持ちを呼び覚ましてくれた一冊です。

ふらっと入った書店で、表紙のデザインに惹かれて手に取りました。淡いオリーブグリーンの下地に、草花や動物の切手が並んだ可憐なデザイン。ポストカードのようでなんとも可愛らしいのです。
店員さん手作りのポップに踊る「往復書簡」の文字が目に入り、一気に興味が湧きました。仕事でメンタルポイントがゼロになっていた私は、女子同士のほのぼのした物語を欲していたのでした(結果的にほのぼのではなかった)。

ミッション系のお嬢様学校に通うののはなは親友同士。庶民的な家庭に育ち、頭脳明晰・クールで辛辣なののと、外交官の家に生まれ、天真爛漫で甘え上手なはな。自分の気持ちを恋愛感情だと自覚したののは告白する。だが、不器用に始まった2人の恋は、ある裏切りによって崩れ始めて…。一生に一度の運命の恋が、その後の人生を導いてくれる。(文庫裏表紙より抜粋)


物語はふたりの女子高生、"のの"こと野々村茜と、"はな"こと牧田はなの往復書簡で綴られます。

「はなへ」で始まる最初のページに目を通したとき、切なくも懐かしい気持ちでいっぱいになりました。私も高校時代、仲の良い友達と手紙のやりとりをしていました。学校ではルーズリーフを使い、家ではお気に入りの便箋を使い、その日の出来事から人には言えない悩みまで、とりとめもなく綴ったものです。「あの子が私のいちばんの理解者である」と確信しつつ、あの子もそうだったらいいのにと、ちょっぴり独占欲も感じていました。当時のくすぐったさと、嬉しさと、ほろ苦い気持ちが蘇ってきました。

ののとはなの間にある感情はただの友情ではありません。ののははなに恋をしていました。彼女の想いは実り、ふたりの関係は親友から恋人へ変わります。その後の展開の早さにはびっくりしたものです。ちょっと事を進めるのが早くない…?え、もうそんなことまで?まだ高校生でしょ!?さすが三浦先生…!!

ふたりの蜜月はある大人の介入により終焉を迎え、別々の人生を生きることになるのですが、やりとりはその後も続きます。大学生になり、就職、結婚を経て40代に至るまで、手紙からメールへ媒体を変えて。

十数年会えなくても、文字のみのやりとりでも、ののとはなは誰より互いを想い続けます。10代の焼けつくような恋慕は、年月を経て静かな情熱へと姿を変えていきますが、心の中にはいつも相手がいます。国境をも越える彼女たちの想いに、胸がきゅっと苦しくなりました。
──社会の柵をとっぱらって、ふたりが一緒にいられたらいいのに。でもそれは叶わないし、彼女たちも望んでいる訳じゃないんだろうな。
 生身で会えなくても、常に胸の中で呼びかける相手がいる。傍目から見ればつらいようにも思えるけれど、それってとても、幸せなことだな。

この先、人生の節目節目に読み返したら、また違った感想を抱けそう。
大事に手元に置いて、折に触れて開きたい一冊です。

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