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【読書感想文】米澤穂信『さよなら妖精』

米澤穂信さんの本に再燃しています。
かつて、中高生の頃は夢中で古典部シリーズを読んだものです。大学、就職としばらく読書から離れていましたが、最近ふと書店で『本と鍵の季節』を手に取り、その面白さに再び引き込まれました。以来、書店や図書館で目に入った米澤作品を手当たりしだい読んでいます。
せっかく読んだのだから、興奮冷めやらぬうちに記録をつけようと思い立ちました。読書記録なんて、現代文の課題だった「読書ノート」以来ですが、気ままに書き散らしていこうと思います。

『さよなら妖精』 東京創元社 2004年

舞台は岐阜県高山市がモデルの地方都市。高校3年生の守屋路行はユーゴスラヴィアから来た少女、マーヤに出会い、同級生とともに親交を深めていく。2ヶ月間の彼らの交流と、マーヤ帰国後の謎解きを描いたミステリー。


『王とサーカス』『真実の10メートル手前』の後に読みました。高校生の太刀洗万智が新鮮(本来の順番とは逆だけれど)。頭のキレと睨むような表情はこの頃から変わらないのだなぁ。

以下、ネタバレ含む感想です。




物語の前半、マーヤと一緒に藤柴市をめぐり、日本文化を豆知識的に再発見している気分になりました。
弓道ってただ矢が中ればいいって訳じゃないんだ。ホットドック美味しそうだなあ。紅白まんじゅうって食べたことないや(たぶん)。お墓参りの人怖すぎ。酒のチョイスも飲みっぷりも未成年とは思えない、常習犯なのかしら…。


後半、ユーゴスラヴィア国内の緊張が高まり、マーヤの帰国が近付くにつれて、不穏な予感でページを繰る手に汗が滲んできます。
この物語の主軸は、旧ユーゴスラヴィア6カ国のうちマーヤの故郷がどこかを推理する謎解きです。守屋や白河が、マーヤは無事であると思いたいがために。終盤、守屋が白河と別れてからあの一文に至るまで、心臓が嫌にどきどきして堪りませんでした。

ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、首都サラエヴォ。


大学受験対策の講習で、確か英文読解だったと思いますが、「ethnic cleasing」という単語が出てきました。先生はこれを「民族浄化」と訳し、ユーゴスラヴィア紛争で起こった虐殺や強姦、迫害について「こんな酷いことはない」と繰り返しながら説明してくれました。当時の、恐ろしいような背筋が寒くなるような感覚が蘇りました。


マーヤのその後に衝撃を受け、そして更に胸を突かれたのは、万智の叫びでした。

あなたがわたしのことをどう思うかは知っているわ、自分がそう見えることも知ってる。(中略)でも守屋君、あなたちょっと、わたしを冷たく見積もりすぎじゃないの!


守屋視点だとひたすらクールに見える万智ですが、『王とサーカス』『真実の10メートル手前』では、無愛想ながらもよく気がつく真摯な人という印象でした。守屋に打ち明けるまでひとりで抱え、そしてこの経験によって記者の道を選んだ万智。10年以上経ても、彼女の根本は変わらないのだと感じます。


余談ですが、なんとなく守屋を好きになれませんでした。webサイトで古典部シリーズの折木が元となっていると見ましたが、彼とは違うな、と。守屋がそつのない性格であろうことはわかります。ただし、折木が持っている他者へのさりげない気遣いというか、優しさのようなものを、守屋からはあまり感じ取れませんでした。ただ単に私が折木贔屓だからというのもあるのでしょうが。


ユーゴスラヴィアの歴史を詳しく知りたいと思いました。世界史選択だったはずですが、文中で語られた地理や歴史上の出来事がほとんど抜け落ちていました。


そしてやっぱり、更に米澤作品が読みたくなりました。
実家の本棚に眠っているであろう『儚い羊たちの祝宴』と『満願』を今すぐ取りに行きたいような気持ちです。図書館にあった古典部シリーズも一通り借りてこればよかったなぁ。高校で止まっていた小市民シリーズも続きを読まなくちゃ。
読みたくてたまらない本があるって幸せなことですね。

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