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【オリジナル童話】漫画家と評論家

むかしむかしあるところに、漫画家がおりました。

漫画家は『2つの部族が争う』という内容の漫画を描いておりました。
最初は片方の部族がもう片方を一方的に虐殺するという内容でした。 
グロテスクな描写と悲壮感のある物語がウケて、大人気とはいかないまでも、そこそこの売上でした。

そこに評論家がやって来ました。

「この漫画は人権を侵害している。子供にも悪影響だ。こんな漫画を描いてはいけない」

そう言われた漫画家は反省し、グロテスクな描写を控えました。
すると、グロテスクな描写を期待していたファンが離れて、売上が下がってしまいました。

困った漫画家は物語を工夫する事にしました。
劣勢だった部族が知恵を絞って作戦を立て、形勢逆転するという話を描きました。
物語が痛快だと評判になり、売上が伸びました。

そこにまた評論家がやって来ました。

「この話はマイノリティをエンパワーメントしていて素晴らしい。もっともっとこういう話を描きなさい」

気を良くした漫画家は同じ様な話を何度も何度も描きました。
ところが同じ展開ばかりの漫画に飽きてファンが離れてしまいました。売上も下がりました。

再び漫画家は考えました。
戦いの勝利に貢献した戦士が女性にモテモテになるという話を描きました。エロティックな描写も増やしました。
セクシーシーンがウケて売上が伸びました。

またまた評論家がやって来ました。

「この漫画は女性をトロフィーワイフにしているし、古くさいジェンダーロールを読者に押し付けている。実にけしからん」

漫画家は本当に困ってしまいました。
グロテスクな描写もエロティックな描写もダメ。物語もマイノリティをエンパワーメントするものでないといけない。
こんなにがんじがらめではこれ以上描けないと思いました。

しかし、漫画家はある事に気付きました。

「もしかして評論家の言ってる事は全くアテにならないのでは?」

よくよく考えてみたら評論家のおかげで売上が伸びた事はありませんでした。
評論家が現れるのは、いつも売上が伸びた『後』だったのです。

漫画家は評論家に従うのをやめました。
一番得意なグロテスク描写を復活させ、
読者を飽きさせない物語を一生懸命考え、
ところどころにエロティックなサービスシーンを入れました。

漫画は評論家達からは酷評されましたが、売上は今までで一番伸びました。
そしていつしか、漫画家は有名漫画家の一員になりました。
漫画家を支えてくれたのは、口うるさいだけの評論家ではなく、ただただ面白い漫画を求めるファンのみんなでした。

有名漫画家になってしばらくすると、不思議な事が起こりました。
評論家が漫画家を高く評価しだしたのです。
漫画家はかつて評論家から受けたアドバイスとは全く逆の事をしていたにも関わらずです。

悪影響だと言われたグロテスク描写は「リアリティーがある」と誉められました。

トロフィーワイフだと言われた部分も「戦乱の中を逞しく生きる女性を描いている」と評価されました。

漫画家は呆れてしまいました。評論家はただその場その場で調子の良い事を言っていただけだったのです。

しかし漫画家は大人だったので、あえて評論家のメンツを潰すような事は言いませんでした。
表面上、仲良く付き合い続けました。
評論家をやっつける事に時間を使うくらいなら、もっと面白い漫画のアイデアを練るべきだと思ったのです。

こうして漫画家はさらに有名になり、評論家は自分の滑稽さに気付く事ができないまま、末長く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。




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