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春期限定いちごタルト事件 - 米澤穂信|再読感想文・要約(ネタバレあり)

最新刊かつ最終刊の読書前・アニメ放送前に読み直し。
感想と自分なりの要約を書いていきます。
初読は2011年頃だったようで、ほとんど忘れていた。

羊の着ぐるみ

連作短編における伏線・情報

・主人公二人が”小市民”になることを目指しているということ
理由はまだ示されず、性格が普通(小市民的)でないことの匂わせ
・小佐内さんが春期限定いちごタルトを毎年楽しみにしていること

短編のしかけ・トリック

①ポシェット盗難と隠し場所の理由
高田が吉口のポシェットの中にラブレターを入れた
後に紳士的でないと考えて、ポシェットからラブレターを取り出そうとした
ポシェット内が雑然としていて、取り出すのに手間取ってしまった
焦った結果、ポシェットごと盗む形になった
最初は校舎内に隠したが、そのままだと捜索隊に見つけられてしまう
捜索に乗じて校舎外の小屋に移した
ポシェットを自分で見つけたものとして返すのは、白々しくてできなかった

②なかなか落ち合えない謎
外は昼までの雨でぬかるんでいた
ポシェットを隠すために外に出たとき、ズボンの裾が濡れてしまった
外に出た他の理由を作る必要があった
捜索終了後、堂島との待ち合わせがすれ違っているかのように電話で誘導
待ち合わせがうまくいかないので仕方なく校舎外にでた、という体で
校舎の窓から見える位置に姿を現した

感想

①の謎は、「思春期男子が恋心のせいで、あまり合理的とはいえない行動をとっている」という印象で、わりと納得できた。ラブレターをなかなかとりだせないポシェットとはどれだけ雑然としているのか、アニメでどう描写されるだろう。
②の謎は、ズボンの裾が濡れたからといってそうはならんやろ、とは感じた(なっとるやろがいといわれたらそれまで)。ただ作品のコメディとシリアスのバランス次第かなという印象。ハードなミステリー中だとやや納得いかないかもしれないが、アニメでコメディ的に描写してくれたらうまくいくかもしれない。

For your eyes only

短編のハイライト・伏線情報など

・小佐内さんのセリフ「……わたし、気にしないよ」
・小佐内さんの自転車が、春季限定いちごタルトとともに目の前で盗まれる

・盗人の名前はサカガミ

短編のしかけ・トリック

2枚の絵『三つの君に』と『六つの謎を』の謎
美術展奨励賞をとる実力のある美術部の卒業生 大浜先輩
描いた絵を喜んでくれる甥(歳の離れた兄の子供)がいる
甥っ子が間違い探しにはまっていたため、間違い探しを手書きで作った
三つの君=3歳の甥っ子、六つの謎=間違いが6つある

普段は油絵を描いているが、間違い探しなのでパステルカラーを使用
濃淡強弱による間違いがでないように、輪郭線・塗りつぶすような描き方
普段の絵柄とは全く違う絵になり、美術部後輩が謎に感じた
絵のサイズも郵送できるようにB5サイズで普段とは違うサイズ

大浜先輩はこの絵を「高尚な絵」と表現した
低俗=理解できる人が多い / 高尚=理解できる人が少ない
という風に、高尚かどうかは理解者の多寡の問題ととらえていた
甥っ子しか良さを理解できない絵=世界で一番高尚な絵

プレゼントのときまで甥っ子にみつからないように、学校の部室に保管
そのまま忘れ去られて、謎の絵となった

感想

文章なのですぐにわからなかったが、アニメだと2枚の絵がでた時点で間違い探しだとピンと来る人が多い気がする。たぶん甥はサイゼリヤが好き。

「実は間違い探しでした」だけだとつまらないが、「高尚」の解釈部分が文章家ならではだなと感じた。むしろ「高尚」の方から謎作りが始まった可能性もあるかもしれない。

連絡もなく忘れ去られた絵、その程度のものならゴミと破り捨てられる最後の後味は米澤先生らしい。ただ、絵が部室に残っていることにもう少し理由付けがほしかったとも感じた。破り捨てENDにするために、単に忘れられたという形にしたのかなと感じてしまった。

おいしいココアの作り方

連作短編における伏線・情報

・小佐内さんがケータイを買い直した、カメラ付き
・小鳩くんのケータイはかなり古い機種である
・小佐内さんの盗まれた自転車が泥棒・空き巣の現場で目撃された
・被害者は五百旗頭という名前の学生で、印鑑が盗まれた、通帳などは無事
・小鳩くんの過去の探偵行為・知恵働きでのトラウマの示唆
・堂島に姉がいる

短編のしかけ・トリック

堂島のおいしいココアの作り方
おいしいココアはホットミルクで二度に分けてココアを溶く
手順的には4つの容器(コーヒーカップ3つを含む)が必要なはず
飲むのに使用したコーヒーカップ以外に使用の形跡はない
他の容器を洗った様子もない(シンクが濡れていない)

堂島は牛乳パックごとレンジで温めてホットミルクを作っていた(ズボラ)
証拠は冷蔵庫内でまだ冷めきっていない、温かさが残った牛乳パック

感想など

ズボラ行為から発生した日常の謎
ささやかな謎・違和感を推理合戦で深める話、ズボラ度で難易度が変わる謎謎のインパクトは強くはなく、会話劇なためアニメでの描写が難しそう

20年前の作品のため、カメラ付きケータイが新機種みたいな扱い
アニメの舞台は20年前でやるのかスマホの普及した現代でやるのか
現代なら、ケータイ周りの話をどう修正するのかは期待所

はらふくるるわざ

連作短編における伏線・情報

・小佐内さんと小鳩くんがサカガミを目撃、追跡は断念
・サカガミが盗んだ自転車で道の先に見えなくなった

短編のしかけ・トリック

テスト中のカンニング手口

机の前面、天板の下で立った目線からは隠れる位置に
暗記項目を書いたテープを貼った
前の席から振り向いたら見られるように仕掛けた

割れやすいように細工したドリンク瓶を教室後方の棚の上に仕掛けた
ケータイの振動を利用して、瓶を落として割った
割れた物音に振り向いたと見せかけ、カンニングテープを確認した

おぼしき事言はぬは腹ふくるゝわざ

徒然草からの引用
言いたいことを言わないで我慢していると、何か腹に物がつかえているようで気持ちが悪い、というような解釈

感想など

かなり短いお話、短編のメイントリックもシンプルである
小佐内さんのストレス発散暴食シーンに期待

サカガミ目撃のシーンの方が重要度が高い
最終話の前日譚的な意味合いが強い話という印象

孤狼の心

短編のしかけ・トリック

限られた情報から自転車盗難犯のサカガミの行動とその理由を推理していく

盗難自転車は前話でサカガミを見失った道の少し先に乗り捨てられていた
道の先は徒歩で行けるような目的地は特にないような場所
バス停などもないが、自動車学校の送迎車が巡回するルートだった
サカガミが通った時間に送迎車が通ることを確認

サカガミは免許を取ろうとしている蓋然性が高い

過去の会話から、サカガミは高校1年生である
免許を取れる年齢でない可能性が高いと推理
最終的には堂島姉からの情報でサカガミが15歳であることが確定した

自動車学校への入学には年齢を偽る必要がある
五百旗頭宅から盗んだ印鑑を使用した
五百旗頭である理由は町に住んでおり20歳以上だが免許を持っていないこと

免許取得の目的は消費者金融などからお金を得ることと推測

小佐内さんはこの偽造の証拠をつかむべく、自動車学校へ潜入
カメラ付きケータイで自動車学校で学科を受けているサカガミを撮影した
各消費者金融に忠告を行った
後日、偽造に関与した学生5人が逮捕された

小鳩くんは知恵働きの狐、
小佐内さんは復讐の狼だった
今は小市民を目指して修行中

感想など

同作者の『遠回りする雛』内の短編『心当たりのある者は』などもそうだが
限られた情報から推理を連鎖していてく話はとても好み。
米澤先生の作品から『9マイルは遠すぎる』を知って、
逆輸入的に読んだりもした

ただ、こういう話はアニメ化が大変そうだなあとは感じる
男子高校生二人の会話がメインなので、あまり画が映えないし
演出に期待します

小鳩くんのケータイが古いため、JPEG画像が白紙で表示される
というところから、最後の動きが始まるが
現代のスマホでやるならどう改変するのだろうか
いわゆるガラケーだとしても、今ならJPEGくらい表示できるだろうし
通信障害、セキュリティでの閲覧制限、iPhoneの.HEICが悪さするとか

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