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薬との邂逅、劇的に強迫症、双極症が改善したお話 闘病記【42】

アナフラニールとの出会い

前回は精神科電気けいれん法(ECT)を受けたことを述べました。今回はその後の治療経過について述べたいと思います。

ECTで症状が改善されなかったことをかかりつけの医者に申し出ました。そうすると医者は困り果てていました。

その時に私は「強迫症と不安がひどくてつらいのです」と訴えました。
そうすると医者は「これを試してみますか?」と言って、ある薬を出してくれました。それはアナフラニールです。

今まで聞いたことがない薬の名前でした。アナフラニールは主にうつ病に使われる薬であり、三環系抗うつ剤に分類されます。

効果としてはうつ状態の改善であり、強迫症にも使われることがあります。日本で発売が開始されたのが1973年ということなので比較的古い薬です。

躁うつ病(双極症)の人に対しては慎重に使用すべきとされている薬です。

最近知ったのですが、自分が双極症だとカミングアウトしている作家の絲山秋子さんも一時期アナフラニールを飲んでいたことがあると本に書かれていました。

ごくまれかもしれませんが、アナフラニールは双極症にも使われることがあるようです。

アナフラニールを飲んでみた

まず最小量である10mgから始めました。躁転することを恐れていたからです。私は今度の薬も今までと同じように効かないだろうと思っていました。

寝る前に10mgを飲みました。その時は期待もしていませんでした。
ところが次の日(忘れもしない2021年3月23日)の朝、いつもより早く目覚めました。久しぶりに気持ちのいい朝でした。

そしてすぐに思ったことは「バイトが出来るようになるかもしれない」ということでした。病気が治るということよりも働きたいという欲が勝って出てきたのでした。

そして2階から降りて母親に報告しました。「少し楽になったよ」と言いました。あくまで慎重な物言いでした。

それは躁転の可能性を否定できないという慎重な考えと、一時的な効果に対して糠喜びをしたくないという気持ちからでした。

母親は「それはよかった」と喜んでくれました。それでも私は慎重でした。前にも述べたように大学生の時、パキシルで躁転したことがあり、服用を始めた次の日に調子が良くなることは危険だと思ったからです。

そうは言うものの体が軽いことを感じました。また心の大半を占めていた不安が軽くなっていました。

一人で散歩に行く

体も心も軽くなった私は驚くべきことに一人で散歩に出ました。

母親の心配をよそに一人で外に出たのです。もう何ヶ月ぶりのことだったでしょうか。私にとっては大きな一歩でした。

医者にて

それから数日して病院へ行きました。
医者にどうですかと聞かれました。私は「少し楽になりました」と答えました。医者は驚いていました。

それでも正気を保つように「薬の効果が出てくるのはこれからです」と言いました。私は「もう効果を感じています」と答えると、「そんなはずはない。この薬は作用が出るまで時間がかかる薬です」と言いました。

私は医者がなんと言おうとうれしかったです。医者も本当はすごく喜んでいたのですが、糠喜びにならぬように慎重な物言いをしていることが伝わってきました。

元パートナーの下仕事

私の人生はアナフラニールで変わったのです。しかし調子が良くなったことにはすぐには慣れませんでした。一人で散歩に行けることの喜びをかみしめていました。

そしてすることがないという状況になりました。今まで寝ていた時間が急に余ったのでどうしたものかと思いました。

そこで考えたのは躁にもうつにもなりそうにないことをするということでした。具体的には元パートナーの、創作の下仕事を引き受けました。

下仕事は単純作業で気分に関係ないと思ったからです。どんなに小さなことでも活動するということは非常に楽しいと思いました。

寝てばかりいた自分が嘘みたいでした。毎朝すんなり起きられることに感謝していました。

それに伴って、頭がおかしくなっていたことも改善してきました。妄想などに耽る時間がなくなりました。やることがあるので当然と言えば当然ですが。

そして元パートナーの下仕事が終わったので家の草むしりをすることにしました。我が家は狭いのですが、庭がとても広いのです。

カウンセラーの教え

土を触ることは精神衛生に良いと大学生の時カウンセラーに言われたことがあったのを思い出したのです。

歩くこと、土を触ること、この二つは大学時代に精神衛生に良いとカウンセラーから言われたものです。

それらは何よりも気分が上がったり下がったりする可能性が低いということがありました。

そうして日々を丁寧に過ごしていました。

アナフラニールの効果

医者では毎回アナフラニールの量が増えました。本当に慎重に微量ずつ増量していきました。

医者は「強迫症には150mgが規定量です」と言って150mgまで増やし続けました。

さてこの間ですが何年ぶりかに一週間続けてうつ状態になりませんでした。

正確な数字は分かりませんが少なくとも7年間は一週間調子が良かったことはありませんでした。

アナフラニールは私にとってすごいパワーを持っていたのです。

飲み始めてから二週間ぐらいうつ状態にはなりませんでした。逆に言うと完全に治ったわけではないのです。

アナフラニールを増量しても一定期間するとうつ状態になりました。それでもうつ状態の質が変わりました。

以前と違い激しい気分の落ち込みではなく、疲れて何もしたくないという程度になったのです。これは大きなことでした。

それまではうつ状態というと死にたくなるくらいつらかったからです。

読書にチャレンジ、思わぬ副産物

しばらくして元々の趣味である読書にチャレンジしてみることにしました。前に述べたように大学病院では本をまともに読むことが出来ませんでした。

だいぶ状態が良くなったのを感じていたので思い切ってやってみたのです。そうすると読めるのです。頭に本の内容が入ってくるのです。

これは感動しました。出来なかったことが出来るようになるということは素晴らしい体験でした。

この時期私は感謝の気持ちに満ちあふれていました。

それと思わぬ副産物がありました。それは本を読むときに出る強迫症が少しましになっていたのです。

治ったわけではないので強迫行為は出るのですが、強迫観念の出る回数とその質が変化しました。これは大きなことでした。前にも述べているように読書の時の強迫症は中学生以来続いていました。

そして強迫行為が一番ひどい出方をするのが読書でした。

これで強迫症とさよならしたいところでしたが、そううまくはいきません。それでも強迫観念は小さくなりました。今までは耳に拡声器を使って叫ばれていたものが、鳥のさえずり程度になったのです。

強迫症の薬物治療

強迫観念は薬で減る可能性があります。薬ではどうにもならないとか、薬はやめたら再発するだとか、薬物治療に否定的なことを言う人がいますが、様々な療法、薬を試してみて一向によくならなかった私の強迫観念が一つの薬で減少したのです。

私が断言できることは、強迫症という病気は薬で楽になる可能性があるということです。

薬をいくら試しても効果がなかった人も、まだ試していない薬があるかもしれません。その薬があなたの体に合っている可能性があります。私にとってはアナフラニールが自分に合った薬だったのです。

最後まで薬物治療を諦めないでください。

前にも述べたように私はありとあらゆる薬を試しました。また医者から自分で薬を選ぶように言われていた時期もあります。

その時の症状やその人の体調、他の薬との兼ね合いがあるとは思いますが、いつでも薬が効く可能性はゼロではないのです。そもそも薬という漢字には、楽という漢字が入っているではないですか。

名脇役のジプレキサ

ところで専門的な話になりますが、アメリカでは抗うつ薬のブロザックとジプレキサを合剤にしたシンビアックスという薬があります。

私の場合はアナフラニールという抗うつ薬とジプレキサのコンビが効いたのです。

ここでジプレキサの重要性を指摘しなければいけません。

ジプレキサで躁を止めてこそのアナフラニールなのです。ジプレキサなしでは躁転した可能性もあると思います。

アナフラニールの思わぬ効果

アナフラニールで双極症も強迫症も劇的に軽くなりました。それよりも大きいのはアナフラニールで冷静になったことです。

物事を客観視出来るようになったのです。今までの自分が恥ずかしくなるほど客観的に物事を見ることが出来るようになりました。

こうして自分の人生を冷静に振り返ることが出来るようになったのはアナフラニールを飲み始めて冷静になったからです。アナフラニールの宣伝はこれぐらいにしなければなりません。

アナフラニールの副作用

アナフラニールの悪いところは便秘になるということと口が渇くということです。

それも普通の便秘とはわけが違います。私は自分なりの対処法を見つけましたけれど、覚悟しておくべきだと思います。

脳の病気として

さて一つの薬で双極性障害Ⅱ型と強迫症が改善されました。ここから言えることは、どちらの病気も脳内物質の異常が起きていたということです。

病気を普段の心の持ちようや考え方、精神論だけでは説明が出来ないということではないでしょうか。

確かに病気の原因としては、心の持ちようなどが影響してくると考えられますが、脳内物質が異常を起こしている段階では薬が有効に働くのだと思います。

未だに心の病気は精神的に弱いからだと考える風潮がありあますが、私の例からはそれだけではないと言えるのではないでしょうか。

注意

以上はあくまでも一個人の感想にすぎません。

薬の効果を保証するものではありませんし、他人にアナフラニールをすすめることはありません。

ただ、双極症にしても強迫症にしても薬物療法で良くなる可能性があるということです。

ここから私は社会復帰するためにリハビリを行っていきます。本当に少しずつ歩みを進めていきます。その詳細は次回以降のお楽しみです。

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