見出し画像

他人の痛みや苦しみを知るためにこそ映画を観る価値がある

一度しか生きれない人間の人生の中で、映画を見ることは他人の人生を疑似体験することに等しい。というより、他人の痛みや苦しみなどを知るためにこそ映画を観る価値はあると思います。

その中でも特に「ヒューマン系」と呼ばれる作品は、ある人物の視点を通した物事の考え方や生き方を題材とするので、人間そのものへの多様な理解を育んでくれます。

その多くは、登場人物たちの人間関係の発展、ドラマティックなテーマ、心の葛藤などを扱うものが多く、雰囲気がユーモラスよりはシリアス寄りなものを指します。

扱うテーマは人間の数だけあるのでとても幅広いですが、「人間とは何か」「人生において大切なものとは」など生きる上での根本について考える機会を与えてくれます。

そんなヒューマン作品の中で、わたしがとても感じ入るところが多く、深い示唆を与えていただいた作品を紹介したいと思います。

①セント・オブ・ウーマン/夢の香り(1992年アメリカ:157分)

盲目の退役軍人と、その道案内役の青年が共に旅をするうちに心を通わせていく姿を描く人間ドラマ。92年度アカデミー賞最優秀主演男優賞、ゴールデン・グローブ賞作品賞〈ドラマ部門〉、最優秀主演男優賞〈同〉、最優秀脚本賞を受賞。(参照:映画.com

盲目で、頑固で口うるさく近所からも厄介者扱いされている退役軍人の老人と、そのお世話のアルバイトをすることになった高校生。道中に起こる様々な出来事を通して、次第にお互いの心を通わせていく様を描いています。

この作品で主演のアル・パチーノは悲願のアカデミー賞主演男優賞を受賞。

最後の証言台のシーンは本当に感動ものです。生きることの誇りと尊厳と美しさとを描く今作は、観終わった後には必ず「フーアーーーー!!」がしばらく口癖になってしまうほど、素晴らしく爽やかな余韻を味わうことができます。

30年近く前の映画ですが、わたしの中ではこちらが堂々の一位です。

②息もできない(2008年韓国:130分)

父への激しい怒りと憎しみを抱き、社会の底辺で生きるサンフンはある日、心の傷を隠しながら生きる勝気な女子高生ヨニと出会う。理由もなく強く惹かれ合う2人だったが、徐々に彼らの運命の歯車が狂いだす……。(参照:映画.com

原題は「ドンパリ」、韓国語で「糞にたかる蝿」という意味だそう。

借金取りとして生きる暴力的な男と、複雑な家庭環境をかかえる女子高生がふとしたことをきっかけに出会い、次第にお互いのことを認め合っていく。

そしてやっとこれから、という時に迎える悲しい結末に、観終わってからいつまでも胸が締め付けられるような感覚になります。

この作品が素晴らしすぎて、ここからしばらく韓国映画の名作を追いかけた記憶があります。ちなみに主人公を演じたヤン・イクチュンは今作でなんと監督、製作、脚本、主演、編集のすべてを手がけています。韓国映画もまだまだ奥が深いです。

③フォレスト・ガンプ(1994年アメリカ:144分)

頭は少し弱いが、誰にも負けない俊足と清らかな心をもった男フォレスト・ガンプの数奇な人生を、アメリカ現代史と重ねて描き出していくヒューマンドラマ。知能指数が人よりも劣っていたが、母親に普通の子どもと同じように育てられたフォレスト・ガンプは、小学校で優しく美しい少女ジェニーと運命的な出会いを果たす。俊足を買われてアメフト選手として入学した大学ではスター選手として活躍。卒業後は軍隊に入り、ベトナム戦争で仲間を救って勲章をもらい、除隊後はエビ漁を始めて大成功を収める。しかし、幼い頃から思い続けているジェニーとは再会と別れを繰り返し……。(参照:映画.com

知能は低いがまっすぐな心の持ち主が、そのまっすぐさで周囲を巻き込んで幸せを生み出していく様を、なかば冗談のようなコメディも含めて描いた作品。

「人生はチョコレートの箱。食べてみるまで中身はわからない」。

ハンデなどものともせず、やってみなければどうなるかわからない、案外うまくいくもんだ。そんなことを教えてくれるこの作品は、見る人の人生の肩の力をそっと抜いてくれるような優しさがあります。

④遠い空の向こうに(1999年アメリカ:108分)

米ソ冷戦時代のアメリカ、コールウッド。ここに生まれた男は誰もが将来炭坑夫になると約束されたこの町で、高校生ホーマーは自分の将来に不安を感じていた。そんな1957年10月4日。ホーマーは星空を美しい軌跡を描いて飛んでいくソ連の人工衛星スプートニクを見る。宇宙の夢に魅せられたホーマーは悪友たちと「ロケット・ボーイズ」を結成、ロケット製作に夢中になるが、父はそんなホーマーを理解できず、二人は衝突する。(参照:映画.com

原作は元NASA技術者ホーマー・H・ヒッカムJrの著書『ロケットボーイズ』で、実話に基づいているそうです。

平凡な高校生4人組が、歴史背景や自然災害や親子の絆などなど様々な紆余曲折を経ながら、ロケットコンテスト優勝を目指して奮闘する青春ストーリーです。

ロケット制作そのものの苦労より、そもそもロケット制作をするために周囲の理解を得られない1950年代という古い設定ながら、若者が数々の苦難に立ち向かい乗り越えていく様はいつまでも色あせない普遍的な感動があります。

ちなみに映画の原題「October Sky」は、原作の題名「Rocket Boys」のアナグラムになっているという憎い演出もあります。

⑤リアル・スティール(2011年アメリカ:127分)

2020年、リモコンで遠隔操作されたロボット同士が戦う“ロボット格闘技”が大流行。プロボクサーからロボット格闘技の世界に身を転じたチャーリーは、スクラップ寸前のロボットを闇試合に出場させて一攫千金を夢見ていた。そんなある日、離婚のため離れて暮らしていた11歳の息子マックスを預かることになり、慣れない父子の共同生活が始まるが、廃工場で旧式ロボット「ATOM」を発見したことから2人の運命が大きく変わっていく。(参照:映画.com

元プロボクサーの父親と、離婚したために離れて暮らす息子が、「ロボットバトル」を通してお互いの絆をもう一度築いていくストーリー。

「ロボットもの」というパッケージのせいで一瞬B級映画のような印象を受けますが、蓋を開けてみればロボットうんぬんは今作の1要素に過ぎないことがわかります。

それよりも、親子の絆、成長、努力、愛などの少年ジャンプがテーマにしているようなことが中心に描かれています。もはや映画版ジャンプです。

「ヒューマン映画」の王道の要素を描いた、本当に爽快な感動ストーリー。何も考えずにただ感動したいときはこれを見ることをオススメします。

⑥グッド・ウィル・ハンティング〜旅立ち〜(1997年アメリカ:127分)

天才並みの頭脳を持ちながら、幼児期のトラウマが原因で周囲に心を閉ざし非行に走る青年と、妻に先立たれ人生を見失った精神分析医との心の交流を描いた感動作。本作で脚本家デビューを飾ったマット・デイモンとベン・アフレックが見事にアカデミー脚本賞を獲得したことで話題に。(参照:映画.com

数学の天才的な頭脳を持ちながら周囲に心を閉ざしている青年と、妻の病死が原因で自分の殻に閉じこもっている心理学者が、お互いの心の傷を打ち上げながら次第に心を通わせていく。

ときに傷つけあい、ときに励まし合い、ときに理解し合い、ときに涙を流しながら成長していく、ある意味でロードムービーのような作品です。サブタイトルに付けられている「旅立ち」からも、成長が旅のように描かれていることが伺えます。

最後のベン・アフレックの表情が何よりも優しい。

⑦最強のふたり(2011年フランス:113分)

パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった富豪の男と、介護役として男に雇われた刑務所を出たばかりの黒人青年の交流を、笑いと涙を交えて描く実話がもとのドラマ。まったく共通点のない2人は衝突しあいながらも、やがて互いを受け入れ、友情を育んでいく。(参照:映画.com

大富豪の老人と、出所したばかりの黒人青年。何もかも対象的な人生を歩んできた2人が織りなす、「友情」の素晴らしさを教えてくれる物語。

共通点がなにもないからこそ、変な看板や不要な肩書きの一切を脱ぎ捨てた上で、純粋に「ひとりの人として」お互いを認め合い、ともに歩んでいく様子は、人間関係において根本的に大切な姿勢を教えてくれます。

こちらも実話に基づくらしく、エンドロールに少し本人が登場するあたりがさらに感動を誘います。

⑧グラン・トリノ(2008年アメリカ:117分)

朝鮮戦争の従軍経験を持つ元自動車工ウォルト・コワルスキーは、妻に先立たれ、愛車“グラン・トリノ”や愛犬と孤独に暮らすだけの日々を送っていた。そんな彼の隣家にモン族の少年タオの一家が越してくる。ある事件をきっかけにして心を通わせ始めたウォルトとタオだったが、タオを仲間に引き入れようとする不良グループが2人の関係を脅かし始め……。(参照:映画.com)

妻を亡くし孤独で頑固な老人と、その隣に越してきたアジア系少年の一家との、ふとしたきっかけから始まる交流を描くお話。

だんだんと息子や父親のような関係を築いていく隣に忍び寄る、不穏な影。

「正義とは何か?」と哲学的に問いかけるような切ないラストに、観終わった後はなんとも言えない後味が残る余韻深い作品です。

さいごに|映画っておもしろい

8作を選んでみて、わたしの好きなヒューマン映画は「相容れない2人が、付き合ううちに次第に心を通わせていく」というものが多いことに気づきました。

「人生におけて大切なもの」ということもそうですが、「人が、人と関わることでなにか精神的に変化・成長していく」という部分がヒューマン映画の大切な感動ポイントなのかもしれません。

他にもヒューマン作品にはたくさん好きな作品があります。今回の8作品にピンと来た方には、是非下記作品にも手を伸ばすことをオススメします。

わたしもまだまだ映画初心者なので、オススメがあれば是非教えてください。

「マイフレンドフォーエバー」
「ショーシャンクの空に」
「クレイマー、クレイマー」
「ディアハンター」
「クラッシュ」
「GATTACA」
「サイダーハウスルール」
「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ」

また、他にもマガジン内で下記ジャンル毎などで紹介しています。

「vol.01:どんでん返し系編」

「vol.03:恋愛映画編」

「vol.04:邦画編」(後日公開)
「vol.05:ロードムービー編」(後日公開)

もし他にも紹介して欲しいジャンルがあれば、リストの中からオススメをピックアップしてみます。

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

私のイチオシ

よろしければサポートいただけると嬉しいです。いただいたサポートは、大切な人のために大切に使わせていただきます。