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恋愛体質:date

『桃子と重音』


2.girls talk

珍しく3人の休みが重なった祝日の前の晩、久しぶりにゆっくり話そうといちばん片付いている桃子とうこのアパートに集まった。

「連絡先教えろって言われたの? 元カレに」
すかさず自分の背中側に位置するキッチンで、世話しなく手を動かしている桃子を振り返る。
「そう。だから一応桃子に確認した」
来る途中唐揚げ専門店で買ってきた手羽先を、わざとガサガサ音を立てて広げる砂羽さわ
「桃子はなんて?」
至近距離で砂羽の顔を凝視する。
「別にいいよ、って」
こちらは意図的に小声で答えた。
「へぇ」
それは理解、というより半ば信じがたいといった様子で再度桃子を見かえす。
「すぐできるから」
気づいて微笑む桃子の耳にこちらの会話は届いていない。

「へぇ、だよね」
大袈裟にならないようついでのように話したつもりの砂羽だったが、どう話したところで雅水まさみ相手ではなんでも一大事になってしまう。居酒屋でまた注目を浴びるより、個人の部屋なら多少の大きい声は軽減されるかと、数週間前に鷺沢さぎさわ呼び出待ち伏せされた旨を告げた。

「連絡先が知りたいってことは」
しばしの沈黙のあと耳打ちする雅水のその表情は既に興味津々。おかわりを待ちきれない子どものようななんとも言えない高揚感が見て取れる。
「その顔、桃子の前ではやめてよ。詳しく話してないんだから」
言い終えて待ちきれず、鶏手羽の塩焼きにかぶりつく砂羽。
「だから小声で言ってるじゃない。どういうこと?」
「そういうことみたいよ。ひとめぼれなんだってさ」
こちらも小声でもごもご、さもあらんと答える。
「ひとめぼれ!? 今どきそんなことあるの」
「しっ! 今どきもなにも、街コンでマッチングするのだってそんなようなもんじゃん」
あくまでもなんでもないことのように流したい砂羽だが、
「そうだけど」
雅水は騒ぎたい衝動を抑えきれないのか、眉間のあたりの動きがおかしい。
「なんか意外」
「なにが?」
「だってあんたの元カレでしょー。まるでタイプが違うじゃない、あんたと桃子じゃ」
「そっち? まぁそれが本命だと思うよ、あいつの好みを考えれば」
「桃子は知ってるの? ひとめぼれだって」
「言ったら構えるじゃないっ。ただ連絡先知りたいってだけ伝えた」
「ふぅん」
頷き、まじまじと桃子に熱い視線を送る雅水に「おい」と小さく突っ込みを入れる。

「はい、お待たせ」
キレイに盛られたサラダを手にテーブルに着く桃子。
ベビーリーフの上に無花果とモッツァレラチーズのマリネ、ドライフルーツとナッツのコンフィが添えられたサラダ。
「うわぁ美味しそう。無花果のサラダって初めて」
即座に態度を翻す雅美に目を見張るも、
「あたしもケーキとかでしか食べたことなかったよ」
つられて目を奪われる砂羽。
「夏の無花果より、今の時期の方が甘いらしいよ」
取り皿を手渡しながら「あたしも生はあまり食べたことがないんだ」と嬉しそうにする桃子。

「どうしたの、これ」
「いつも来てくれる常連さんがね、戴き物だけど出掛けるのに荷物になるから~って、くれたんだ」
「へぇ。常連さんなんているんだね」
「いつも違う女の子と来るおじいちゃんなんだけどね」
「なにそれ。あやしい~」
「なにしてるひとか知らないんだけど。いつも若い子と一緒に来てアクセサリーとか買っていってくれるんだよね。たまに差し入れを持ってきてくれるの」
「へぇ」




1.trauma  3.fixed format

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