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恋愛体質:date

『桃子と重音』


1.trauma


はじめて「彼」と呼べる相手ができたのは高3の秋のことだった。バイト先の後輩の紹介で出会った、ひとつ下の車好きの少年。4月生まれの彼は、春休みには教習所に通い「車の免許を取得する」と言っていて、卒業を控えた桃子とうこが免許証を持っていないことをひどく残念がっていた。
今思えばあれは「免許を持っている人」ならだれでもよかったんじゃないかと思う。結局彼は、教習所で知り合った年上の女性といい仲になり、その後できちゃった結婚をしたと聞いた。

中等部からずっと女子高だった桃子には、記憶にある「男の子」は小学生で止まっていて、はじめての彼が「年下」ということもあり、妙に力が入っていたのかもしれない。ファーストキスも初体験も「知らない」と言えないまま流され応じた。自分にはそれが精一杯で、だいぶ頑張っていたつもりだったのだ。でも結果は「なにを考えているか解らない」と言われて振られてしまった。

最初が悪いとあとはもう楽しむことができない。女子高の友人は耳年増ばかりで、知ったかぶりと見栄にまみれていて、なにひとつ大切な情報は入ってこなかった。
結局自分は結果的に「捨てられるん通り道なのだ」と感じながら始める恋に、なにひとついい思い出など残りはしなかった。

大学に進学してすぐ、慢性の怪我がもとでクラッシックバレエができなくなり、そんな時に雅水まさみと出会った。雅水はいつもなにかに夢中でキラキラとしていた。自分もそんな風になにかに「夢中になりたい」と思った。

「桃子。鷺沢さぎさわが桃子のLINE連絡先知りたいっていうんだけど、教えてもいい?」
「え、なんで?」
「あたしと雅水まさみは街コンでLINEの交換してるけどさ、桃子はだれともしてないじゃない? ムリに繋がることもないと思うけど、知りたいって言われたから一応『確認してから』って答えたんだけど」
「そう」

鷺沢さぎさわ重音かさねは友人である砂羽さわの同級生であり元カレだ。街コンで知り合ったふたりとも偶然知り合いだったらしく、つい1ヶ月ほど前に一緒にバーベキューをした。ただそれだけの間柄ではあるが、結果的に唇を許すことになった彼は気になる存在ではある。
砂羽の元カレではあるが、今はまったく係わりはないらしい。が、ひょっとしたら先日のバーベキューの時のように会うこともあるかもしれない。

「ムリしなくてもいいよ」と砂羽は言う。だが、まったく知らないというわけでもなければ、間には砂羽がいる。
「別にいいよ」
「ホント?」
どうやら砂羽には意外だったようだ。その様子を見る限り、ひょっとして断った方がよかったのだろうか、とも思った。
「うん。連絡先くらいなら」
本当に連絡が来るとも限らないし、という言葉は飲み込んだ。




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