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連載『オスカルな女たち』

《 打ち明け話 》・・・19

「あ、織瀬(おりせ)…」
 幸(ゆき)の表情がみるみる強張っていく。
「ごめ…ん…」
 結局、それだけを発し口をつぐんだ。

・・・・ナニニアヤマッテイルノ?
・・・・ナニヲアヤマッテイルノ?
・・・・あたし? それともこの10年?

 言葉を発したくても胸につかえてなにも出てこなかった。

・・・・ナンダッタノ…
・・・・ナンナノ、コレ

・・・・あたしの10年は、いったいなんだったの?

 すべてが嘘に変わった瞬間だった。
 幸はもう、なにも言わなかった。
 なにも言えるはずがなかった。

 もう、幸の言葉では涙は止まらない。
 「オレに任せろ」なんて言葉も「大丈夫だよ」なんて言葉も、決して織瀬の涙を止めることなどできやしないのだ。
 そして電話のベルが、織瀬を現実に引き戻す。

「…はい。樋渡(ひわたり)です」
 電話に応答する幸の声が、知らない人のように感じる。
(あたしも『樋渡』だけど…?)
 電話を切り、
「…織瀬。やっぱり、オレがちょきを迎えに行こうか?」
 優しく問いかける声。すべてが嘘だった…少なくとも今の織瀬にはそう感じた。


「行かなくていい!」

 嗚咽を伴う咳を押さえ、やっと発した言葉だった。

いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです