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恋愛体質:date

『和音と友也』


3.position

「ねぇ、さっきユウヤとなに話してたの?」
車に乗り込むなり和音かずねは食い気味で兄を見据えた。
「別に大したことじゃねぇよ」
「うそ。なにか言ってたじゃない」
こういう時の和音の勘働きはたいてい良からぬことを的中させる。

「ちょっとオレを見かけたってだけの話だよ」
「どこで?」
「しらねーよ。どこだっていいだろ、仕事であちこち歩いてんだ」
「その程度でユウヤがいちいちお兄ちゃんに報告するわけない」
「その程度だよ。ただ。あいつの仕事終わりで、朝だったってだけの話」
「ふ~ん」
そこでようやく和音はシートに躰を預けた。
決してその答えに納得したというわけではない。疑いがどの程度の危険を孕んでいるのか、恋する脳みそは計算高くいろんなものをはじき出そうとしていた。

そのうち沈黙に耐えられなくなったのか、
「今日はたまたま近くにいたからあそこにしただけで、あんまりあそこには行くなよ」
急に兄貴面を吹かせてくる重音かさねに「そういうのいらないから」と、憮然と答える和音。
「そもそも、あたしの恋愛事情にいちいち口出ししてこないでって言ってんの!」
バッグを抱え前を向いたまま答える。

「つきあってるわけでもないくせに」
そうボヤく兄に、
「じゃぁつきあってもいいわけ?」
途端に明るい顔で兄の横我をを見据える。
「あいつはダメだ」
「なにがダメなのか解んない」
やっぱり、とシートに強くもたれかかる。
「そもそも相手にされてない」
「そんなことない。少なからず想ってる」
はっ
呆れて物も言えないといった様子で、バカにしたように首をかしげる重音。

「何度も言ってるけど。そもそも兄貴が悪いんだからね、あたしに彼が出来ないのは。あたしとユウヤがつきあえないのだって」
「ひとのせいかよ」
「そんな厳めしい顔して出てきたら、だれだって委縮しちゃうよ」
「オレの顔に耐えられる男を連れてくればいい」
「そんなひといるわけないじゃない!」
「おまえは平気じゃないか」
「それは兄妹だから!」
「おまえの友だちだって、平気そうだったろ」
「それはあたしがちゃんと教えてるからじゃん」
「じゃぁ、今までの男どもにも教えてやりゃよかっただろ」
「言ったよ」
「なら。タダの根性なしだ」
「そうじゃないって解ってるでしょ。女の子の前じゃデレデレするくせに」
「おまえの友だちに睨み利かせてどうするよ。いずれオレの女になるかもしれない候補に」
「ばっかじゃないの?」

「勘違いするなと言ってる」
「なにがよ!?」
「おまえは本気で、あいつがおまえに本気で惚れてると思ってるのか。それがおまえのいう恋愛か」
一瞬喉に引っかかりつつ、
「…思ってるよ。だって」
威勢よく言葉の続きを答えようとして、
「キスされたから」
先を越される。
(憎たらしい!)
「そうよっ」
「そんなのあいつにとっちゃ挨拶みてぇなもんだろーが。おまえだってわかってんだろ、そこまでバカじゃ」
「可愛いって言われたもん」
「そりゃ、かわいいさ」
それは兄の贔屓目なのか一般論か。
「そういうことじゃなくて」
言葉に詰まる。

「あきらめろ」
「あきらめない!」
諦められるわけがない。
「あたしは本気なの!」
「その本気がどれだけのもんか知らねぇが、ただ泣くだけだ」
「それでもいい」
「なら派手に失恋だな」
「うるさい! そうならないよう頑張ってんじゃない。お兄ちゃんなら協力してくれてもいいじゃん」
「協力したところで一緒だ。オレは無駄なことはしない」
「ムダかどうかなんて、やってみなきゃ」
「オレはおまえのことを考えて言ってる」
「あたしのこと考えるならほっといて!」
「最悪の状況が目に見えてるのにか?」
「見えてない! 見えてないの、お兄ちゃんには! ユウヤのこと知らないくせに」
堂々巡りだ。
「いい加減に…」
続けざまなにか言いたげな重音だったが、和音の目に涙が滲んでいるのを確認し、舌打ちで言葉を飲み込んだ。



2.misunderstand  4.unfulfilled love



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