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恋愛体質:date

『和音と友也』


4.unfulfilled love

「次の講義休校になった」
携帯電話を操作しながら和音かずねが言った。その後ろからに小走りに、隣に並ぶ、
「あたし3時限も空いてんだよな~。このままさぼりたいけど、コンクール近いしな」
ヴィオラのケースを抱え上げながら藍禾あいかが続いた。
「練習室行く?」
本音は面倒くさい和音。
「今日は雨だからいっぱいでしょ」
「じゃぁカラオケ?」
練習室が空いていない時の最終手段は、少々の音では苦情の出ないカラオケボックスが最適の練習場所だ。
「雨なのに楽器抱えていくのはめんどい、楽器が命」
ケースを抱くような仕草を取る藍禾。
「ランチルームにいるって、結子」
言いながら携帯をバッグにしまう和音に、
「カフェも混んでるだろうしねぇ」
当然のことのようにランチルームに続く階段に向きを変えた。

「あたしたち次休講~。結子は?」
重しでものせるようにして目の前の席にどっかと座る藍禾。
「あたしはこのあと個人指導入れてたんだけど。音割れるからやってもな~って感じ」
「そっか。雨の日はダメだよね」
「どうしようか」
ちらと和音を見やる結子。
「なに? ご機嫌ななめね」
藍禾の隣に座る和音を目で追う。
「あぁ、いつものやつよ」
気にしないでと、目線だけで結子に答える藍禾。
その言葉で察した結子は、もう慣れた様子。
「なに、またケンカ?」
「なんでそうなる?」
憮然と答える和音だが「図星のくせに」と、藍禾に失笑される。

「どうせあんたたちも思ってんでしょ。ムダだって」
「なにが?」
すっかりあきらめモードの和音に、あえて問いかける結子。
「ユウヤのこと!」
「和音自身はどう思うわけ?」
「それ聞く?」
「なら、とことんまでやるしかない。でしょ?」
だれにともなく同意を求める結子。

「実際のところどうなの?」
「なにが?」
力なく机に突っ伏する和音の頭に、
「あんたの気持ちは解った。けどそれって、ユウヤも周知の事実なの? それともただ単にお兄さんに反対されてるだけなわけ? いまいちそこのところがはっきりしない。告白とかしての今の状況なの」
根本的なことを聞かされてはいないのだと、疑問を投げかける藍禾。
「そもそもあたしたちは、ホストクラブの前で会ったことしか聞いてない」
「確かに! ただ見に来てッて言われてBBQについて行っただけだわ」
今更ながらに気づいたと、結子が続く。
それをただ「つきあっている」と勘違いしていただけなのだと、先日知ったばかりだ。

「だから言ったじゃない。兄貴の友だちは、それだけであたしと付き合うことはしないって」
「だからそれは、告白してそうユウヤに言われたのかって聞いてるのよ、あたしは」
再度畳みかける藍禾に、返す言葉は無言だった。
「好きだって伝えてもいないの?」
「そんなの恥ずかしいよ」
「馬鹿じゃないの、みんな同じよ。そこを乗り越えてこその恋愛でしょうが」

「ねぇ」
いつまでも顔を上げられずにいる和音に、
「それって、はじまってもいないってことじゃないの?」
結子は冷たく言い放ち、うすうす気づいていた藍禾は大きくため息をついた。

「あたし、時間だから行くね」
これ以上は長丁場になると思った結子は、さっさとその場を後にした。

藍禾はそっと和音の肩に手をのせ、
「そもそもユウヤはフリーなの?」
「知らない」
「そこからかー」
こと、恋愛に関しては、自分の尺度と他人の尺度が同じだとは限らないということだ。





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