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恋愛体質:date

『和音と友也』


2.misunderstand

「わたしたち、てっきり付き合ってるものと思ってたよ」
「て~んで相手にされてなかったじゃない」
先日のBBQでの居心地の悪さを訴えるのは、同じ大学の親友である三浦藍禾あいかと蓮見結子ゆうこ

「つきあってるとは言ってない」
少々分が悪い和音かずねは唇を尖らせて答えた。

そんな今日の3人は、大学構内にあるカフェテリアでの近況報告。つまりは座談会。各々目の前のプレートに栄養過多な食材を並べ、だらだらと話し込んでいた。

「しかもみんな大人な感じだったし」
話についていけなかった、と不貞腐れる藍禾に、
「そうそう。ひとり怖いおねぇさんいたよね」
緊張で顔が強張ったせいであごが痛い、と訴える結子。
「その割に結構遠慮なく食べてたじゃない」
そんなふたりを細めで見据える和音は、とにかく目的は果たしたのだからと窘める。

「そりゃ、食べるしかないでしょーあの状況じゃ」
「そうそう、食べ物に集中してれば考えなくても済むし」
「みんな兄貴の同級生。そんなに歳違わないし、なに怖がることがあるのよ」
いちばん自分が浮いていたとは自覚のない和音に、
ちがうって
ふたりの二重奏。

「あんたたち『お父さん』とか言ってはしゃいでたじゃん」
チキンサラダを頬張りながら、反省の色もない。
そうなのだ。友也ともなりにべったりで気を遣わなかったわりに、最初からずっと焼き方担当の寺井から離れなかったふたりを、和音は見逃していなかった。
「だって、あんた。ずっとユウヤ、、、にべったりだったし」
「呼び捨てにしないで」
軽く藍禾に睨みを利かす。
「とにかく。いちばん安全パイだったから”お父さん”は」
名前すら覚えていない。

「そうそう。和音の兄さん、ホント怖そうだったし」
和音の顔色を窺う結子に「でも学生時代より丸くなった感じよ」と、パンケーキを口に運ぶ藍禾。
「そう? 大人になったのねぇ」
身内には解らないけど、としみじみ答えたのは実妹の和音であった。
「でも初見のあたしには充分怖かったよ~。聞いてた以上だった。別に怒られたわけでもないけどさ。帰りの車の中でも全然喋んないし、逆に機嫌悪いのかと思ったよ」
「いるよね、そういうひと。でも話してみるとそうでもないよ」
「藍禾はだれでも平気じゃない」
「あ~あれは仕方ない。兄貴、意外と人見知りするんだよね。あれで」
「あれで? あ、じゃぁ。一緒に買い物に出かけてたひとが元カノ?」
結子に問われ、はたと気づく。
「いや。彼女は多分砂羽さんの友だち」
人見知りは治ったのかと疑う和音だったが、あの時玄関先で会った女性は「どんな顔だった?」と記憶を辿る。
(砂羽さんとは、真逆のタイプ…)

「あぁ、そうか。元カノはちょっとカッコいい感じのひとだったかも。ショートカットの看護師さん」
「でしょ? 憧れなんだ~」
自分のことのようにはしゃぐ和音。
「よく覚えてるね、藍禾」
「結子は本当にお肉しか見てなかったのね」
「そんなことないよ。でも看護師って言ったら、あのお買い物のお姉さんの方がぽいよね」
「でもあのひとじゃ、血見ただけで卒倒しそうじゃない?」
好き勝手に言い合う藍禾と結子を横目に、
「言えてる~。じゃんけんで負けたかなんかじゃない? そもそも兄貴は自分から買い物に行くようなタイプじゃないし」
少しの違和感が「女の勘」なのだと気づくのはもう少し後になってからのことだ。

「ユウヤ!」
その日の帰り、和音は友也のバイト先であるBARを訪れた。
「うわっ出た。ガミガミお兄さんに叱られるぞ」
カウンターの中でぎょっとする友也を受け、返事をしたのは既に彼の前に陣取っていた仕事仲間の荻野おぎの唯十ゆいとだった。
「なによー。あんたもこんなとこに居座ってないで仕事すればぁ」
そんな彼を冷ややかな目で煽り、当然のことのように隣に座り込む。

「サギには連絡したのか」
仕事中は基本大きな動作を取らない友也は、手元の作業をしながら小さくつぶやいた。和音には、自分に会いに来るときは必ず「兄の了承を得るように」と固い約束をさせていた。
「今日はその兄貴と待ち合わせなんだ~」
ふふんと得意げに微笑む和音は、そのそっけない態度さえ自分に会えたことを「喜んで照れている」と解釈する。
そんな様子を見て失笑する唯十は、解っていながら放っておく友也をもどかしく思っていた。

「あ、お兄ちゃん。早かったね」
入り口に重音かさねの姿を見つけた和音は笑顔で手を振る。
「帰るぞ」
着くなりそう告げ、軽く友也に手をかざす。
「え~今日は奢ってくれるって言ったじゃない。嘘つきー」
「これから現場なんだ。早くしろ」
「じゃーあたしのことおいてってよ、ユウヤに送ってもらうから。ねーユウヤいいでしょう」
甘えた目で友也を見上げるが「今日はラストまでだから無理」と、軽くあしらわれてしまう。ラストとは、閉店である翌朝午前5時までということだ。
「全然いいよ。あたしは…」
むしろ和音は目を輝かせるが、
「いい加減にしろ。明日も学校あんだろうが」
「もう~無粋だなぁお兄ちゃん。そんなの平気」
「ふざけるな」
声音は静かではあったが、その目は有無を言わさなかった。
和音は大きく鼻で息を吐き、しぶしぶ自分の荷物を抱えた。
「じゃぁね、ユウヤ。また来るから」
返事がないのはいつものことだが、その落胆ぶりは相当のものだ。
「じゃぁね~」
代わりに笑顔で答える唯十に「い~っだ」としかめ面して見せる。
「いつもわりぃな」
それでも微動だにしない友也にアイコンタクトで返す重音に、ふたこと三言らしからぬ言葉を発したが、不貞腐れる和音には聞こえてこなかった。






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