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連載『オスカルな女たち』

《 エピローグ 》・・・5

「〈弥生すみれ〉って言われてるそいつはだれだ? わざわざ空港に役者を仕込んだのか?」
 その様子を腕組して突っ立ったまま眺めていた真実(まこと)が「さすがだな」と、半ば呆れた口調で返す。
「わたしの代わりに〈語学留学〉に行ってた…女優の卵? 背格好が似てる子探すの大変だったのよ」
 画面から目を離さず応える弥生子(やえこ)に、
「えぇ? わざわざ留学させたの?」
 驚きを隠さない織瀬(おりせ)。
「こういう時のためにね。影武者は必要でしょうよ」
 当然…と答える弥生子に、
「さすがというべきなのか…やり過ぎなのか、念がいり過ぎてる気もしないでもない」
 なにが正しいということはない。ただなにが起こるか解らない世の中で、まして些細なミスや見えない綻びがスキャンダルになりかねない弥生子のような職業は、準備が良すぎるということはない…と改めて認識させられた。
「自分は大丈夫なのかよ? 仮にも語学留学だろ? 突っ込まれたらどうすんのよ」
 弥生子の語学力を問う真実に、
「I am an actress once every 100 years.」
 なにやらぺらぺらと日本語ではない言葉を発したかと思うと、
「あなたたちお忘れかもしれないけど、わたしの祖母は国際結婚をしたバイリンガルよ。当然わたしも、幼いころから英語はネイティブだわ。これからの女優は英語くらい話せないとね」
 そう、得意顔で答えた。
「あぁ、そう言えば…」
 すっかりとその境遇を忘れていた織瀬も、すべてに抜かりがない…と自信満々の弥生子がたくましく思え「ここは『さすが』というべきね」と、真実と顔を合わせた。 
「あら、今さら? この業界、したたかでなければやっていけないのよ。さぁ…これから忙しくなるわ」
 目を輝かせる弥生子の顔はまさに女優だった。

*初めから読み返したい方はこちらからどうぞ( *´艸`)

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