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恋愛体質:date

『和音と友也』


5.waiting for departure

「ぁ。またおまえっ!」
店から少し離れた場所で出口を見張るようにちょこんと座り込んでいる和音かずねを目に止め声を張り上げる唯十ゆいと
「あ、あんたユウヤと一緒にいたひとー」
立ち上がり、背後にユウヤの姿が現れやしないかと背伸びする。
「腰ぎんちゃくみたいな言い方すんな!」
「だって名前知らないし」
「ユートだ。そこの写真に書いてあんだろ」
そう言って店の壁に貼り付けてあるキラキラした額縁を指す。
「あーほんとだ。ユウヤの隣にいたわー」
「このっ」

「ユウヤ呼んできて。お礼がしたいの」
「呼べるわけないだろ、バカか」
「あんたは出て来たじゃない」
「お客さんを見送りに出ただけだ。そんなことより! こんなところにいると警察に通報されるぞ。店に入らないなら帰れよ」
「なによー。別に悪いことしてないじゃなーい」
「営業妨害なんだよ。子どもがうろついてるって、お客さんに言われたよ」
「子ども~!?」

「あらユート、今日は同伴?」
道行くキレイどころが声を掛けてくる。
「やだなぁ、違いますよぉ。お店寄ってってくれないんですかー」
打って変わった営業スマイル。
「今日はご出勤~。また今度ねー」
「行ってらっしゃい。またよろしくお願いしまーす」

「やーだ、あんた。どっから声出してんの、それ」
「うるさいなぁ。こっちは仕事してんだよ。ガミガミお兄さんに電話するぞ」
「やめてよ。あんたにカンケーないじゃん」
そう言ってまた座り込む。
「帰れよ。警察の前に、ユウヤさんの取り巻きにしめられんぞ」
「そんなの怖くないし、そうなったら逆にこっちが警察呼ぶわ」
「そういう問題じゃないんだよ」
腕を掴み上げる。
「や~だ~」
梃子でも動かない、とはこのことか。

「おまえ未成年だろ。よく補導されないな」
呆れたように周りを見回す。
「失礼ね、成人してるわよ」
「それで!? おまえ、ホントにユウヤさんに相手にされるとでも思ってんのか」
「相手にされてるモーン」
しれっと膝の上で頬杖を突く。
「おまえなんかが簡単に会えるひとじゃないんだよ」
「うるさいなぁ。さっさと仕事に行きなよ、じゃなきゃユウヤ呼んできて」
しっしっと追い払うように掌を返す。
「ふざけるな…っ」

「ユート。なにやってんだ」
「ユウヤさ…」
「ユウヤ!」
ふりかえる唯十を押しのけ駆け寄っていく和音。
「なんだおまえ、また。いい加減にしないとまた兄貴にどやされんぞ」
「平気だもーん」
「とにかく、家に帰れ。じゃないとサギに」
「サギに電話する? すればいいじゃん。どうせ忙しくて電話になんか出ない」
言っているそばから携帯を取り出す仕草を認め、
「わかった、解った。帰るから」
「本当に危ないんだ。そこまで面倒見切れない」
「だって。こうでもしなきゃ会えないじゃん!」
「そんなことしてたってもう会えない。オレ、今月いっぱいで仕事辞めるから」
「え、なんで。じゃぁどうしたらいいの。どうしたら会えるの!」
「それは兄貴に聞け。兄貴に許可なく出掛けてくるな」
「そんなのっ! ユウヤ、ねぇユウヤ!」

くすくす…
「なぁに、あれ」
恋する乙女に周りのことなど目に入りはしない。

「あきらめないんだから!」
そう言い残して踵を返す和音であった。



4.unfulfilled love  1.outfield




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