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恋愛体質:BBQ

『重音と桃子』


1.trigger

「おーいぃ。焼きそば買ってねーじゃん」
材料の仕分けをしながらそう言ったのは、遅れてやってきた挙句に焼きそば担当を命じられた上石あげいし友也ともなりだった。

「え、買ったよー。焼きそば」
ソファにもたれ込み、キッチンに頭をもたげる古河こが雅水まさみは自信満々に答えた。

「具はな。でも麺そのもの忘れてるわ」
そう言って空になった袋を振って見せる。

「うっそ。もう一回いくのー?」
遅れて入ってきた小柴こしば砂羽さわは、リビング入り口で大げさにバッグを落とした。

「ひとまず火おこし済んだから、オレ行ってくるわ」
ちょうどリビングの広い窓から室内に上がり込んだ鷺沢さぎさわ重音かさねは、出口に近いのは「だれの車?」と続けた。
「オレ~」
そう言って友也は鍵をソファの上に放った。

「他に買い忘れねーの?」
「ないと思うけど、確認してみて」
バッグを拾い上げ、レシートを取り出す砂羽。

「あ~。ついでだからステーキたのむ」
焼肉用の肉の束を確認しながら、友也は自分の財布からカードを取り出した。

「さすがセレブ」
皮肉にも似た言葉を吐き、レシートを受け取る重音は、エプロンを首にかけ準備をしていた錫原すずはら桃子とうこに目を向けた。

「おい」
ふいに声を掛けられ、自分だと気づくまでに数秒、桃子には意外なご指名だった。
「ぇ、わたし?」
てっきり砂羽といくものと思い込んだのだ。
「そう。わたし。カード貰ってきて」
ソファから鍵を取り上げ出口に向かう。

「わたし?」
再確認をしている間に重音の姿は玄関に向かっており、急ぎカードを受け取って、
「じゃぁ行ってきます」
と、半信半疑な顔であとを追う。
「あ、トーコ」
すれ違いざま、なんとなく声を掛けなければという気にかられた砂羽。自分が行くべきか本音は別な言葉が頭をよぎったが、出てきた言葉は「…さけるチーズ買ってきて」だった。
「ぁ、うん。わかった。ごめんこれ」
エプロンを外し、砂羽に手渡す。

「お兄ちゃん、どこ行くの?」
玄関先でちょうど出くわしたのは重音の妹、和音かずねだった。
「おまえほんとに来たのかよ」
「いいじゃ~ん。ぁ、こんにちは」
さっさと家を出る重音に変わり、
「こんにちは。買い忘れがあって」
そう答える桃子を、品定めでもするような目つきで見据える。
「いって、らっしゃ~い」
気のない返事で、気持ちがすでに別のところにある和音は、急き立てられるようにリビングに滑り込んだ。
「砂羽さ~ん、おひさしぶりでーす」
なにごともなかったように両手を広げて入っていくその声に「勘違いかな」と、首をかしげながら桃子はパンプスに足を通した。


4.truth   2.tactics



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