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恋愛体質:BBQ

『友也と砂羽』


4.truth

「なんであたしに連絡なんかよこしたの?」
砂羽さわにはずっと気になっていたことがある。
和音かずねの様子を見ても、元ホストだという上石あげいしが女の子に不自由している様子は感じられない。なのにわざわざ連絡をしてまで自分たちとコンタクトを取ろうとしたのには、なにか別な含みがあるのではないかと考えたのだ。

「へぇ…やっぱただのお飾りじゃなかったんだ」
その言葉には聞き覚えがあった。
「お飾りって、あんた!」
はじめて会った街コンの日も同じセリフを言われたことを思い出したのだ。
(やっぱり失礼な奴…!)

「あの子たちはユウヤって呼んでるし、鷺沢さぎさわと寺井さんはトモって呼んでる。トモヤなの、ユウヤなの、それとも…?」
「ユウヤでもトモヤでもない」
「 え、本当はなんなの?」
「トモナリだ。仕事柄、名前にはこだわらない」
「ぁ、そ。それでいいわけ?」
「別に問題ないだろ、呼び名なんて」
「あぁ、そ」
「でも、本名を知ってるやつは少ない」
「あ。…え」
それはどういう意味なのか。

「街コンはタカのために参加したんだ」
「寺井さんの?」
「あいつ。あぁ見えて、彼女いない歴イコール年齢。だから」
「えっ!?」
高学歴、高収入、ゆくゆくは社長だという境遇からは想像のつかない人物像だ。
「じゃぁ」
女を知らない…のか、と尋ねようとして辞めた。
「初体験の相手は世話してやった。でも、そのあとは自分次第だろ」
まるでこちらの胸の内は「お見通し」だとばかりに、上石はイケメンをフルに活用した笑みを浮かべた。
「あぁ、そう」
(やっぱ、ムカつく)

「あいつ。子どもの頃から体弱くて、あんま学校行ってねーんだ。まぁ学校なんか行かなくても家庭教師がいたから大学まで出てるけど」
「へぇ…筋金入りのおぼっちゃんなんだ」
「そういう言い方やめろよ。環境なんて人それぞれだ。望んだわけじゃない」
上石はなかなか情に厚い男らしい。
「ふ~ん。で、お友だちのためにひと肌脱いだってわけ」
「そういうこと」
それで、どこがどうなって自分に「連絡をくれたのか」というところが追及できない。

「…で。タカは、古河こがさんが気に入ったらしい」
「え、雅水まさみ? じゃぁなんで直接雅水に連絡しないのよ」
それは当然の疑問だった。
「奥手だから」
「それでなんで、あたしよ!?」
「オレが直接連絡したら、彼女勘違いするだろ」
「随分な自信だこと」
とはいえ確かに、雅水に連絡が行っていたならすぐさま飛びついただろうし、当然「自分に気がある」と受け取るかもしれない。
(こいつ、)
顔だけのホストではなかったか…と改めて感心する。だが、
「見直した?」
イケメンの笑顔にはいささか抵抗がある砂羽。
「そういうところがムカつく」
女心が解り過ぎるというのも考え物だ。

「でも、この先はどうするのよ。雅水、全然気づいてないわよ」
「段取りはしてやるさ。でもその先までお膳立てしてやるには、男としてどうなのよ」
「あぁ。まぁ…」
「あとは自力で」
「そうだろうけど」
そう言って焼き物に集中する寺井に目を向けた。
「でも。あれじゃぁ、手も握れないわよ。あたしが言おうか?」
「それじゃぁ今までと同じだろ?」
「まぁ。そう、ね」
手は貸してやるが、肝心なところは…
「さっき女の子たちが寺井さんのこと、お父さんって言ってたけど。あんたはまるでお母さんだわね」
「かもな。子育てもイケると思うぜ」
「は。自信過剰もそこまでいくと厭味。じゃぁあんたにはこれもただのつきあいなわけでしょ。ならあたしとなんか喋ってないで、和音ちゃんたち送って行けばよかったじゃない」
「あの子は友だちの妹」
それだけ?
「へぇ…」
てっきりふたりはそういうものだと思っていた。

「それよりちょっと、聞いたわよ。シートベルトの話」
それは和音の意味深な返事の理由。
「あぁ。別に」
「別にじゃないわよ。それって鷺沢も知ってるの? トーコになんかあったらどうしてくれんのよ」
大人数で楽しくBBQのはずが、あちこちに火種していることを砂羽は申し訳なく思っていた。
「なんかあったの?」
「知らないわよ。トーコはなにも言わなかったけど」
「別になにかあってもおまえに関係なくないか。それともなに? サギに未練とか」
「まさか。…ねぇその含み笑い、やめてくれない?」
見透かされているようでイライラする。
「いい男だろ?」
「ばかじゃないの!」

「なにも言ってなかったんだろ、彼女」
「そうだけど。 トーコはそういうことに慣れてないから」
「慣れてるとか慣れてないとかの問題か?」
お互いに「オトナだ」と言いたいのだろう。だが、
「たいていの女は不意打ちに弱いけど…おまえには通用しないな」
「なにが」
「殴られそうだ」
「ぁ当たり前よ。誰だってそうするわよ」
「じゃぁ、試しに乗ってみる? オレの車」
「は。乗らないわよ」
「あ、そ」
「なに」
「ざ~ん、ねん」
膝に肘をつき、口元を抑えた友也の表情が解らない。
この展開は、どういうことだろう。しばらくなかったときめきに、砂羽は心揺さぶられていた。


3.uneasiness   1.trigger



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