見出し画像

恋愛体質:BBQ

『友也と砂羽』


3.uneasiness

「え、お兄ちゃん。ユウヤの車で行ったの?」
買い物から帰った鷺沢さぎさわの運転する車のエンジン音を耳にし、とっさに和音かずねはそう言った。
「オレがいちばん最後だったからな」
いちばん出口に近い車だったというだけだ。しかし、
「…へぇ」
意味深な和音の言葉に、砂羽さわは一抹の不安を覚えた。

あとから合流してきた女の子たちは、和音の音楽大学の同級生ということだった。
藍禾あいかです」
結子ゆうこで~す。わたしたちは、ユウヤさんの顔を見に来ただけなのでお気になさらないでくださ~い」
どうやら和音のこれまでの様子から、和音と上石ユウヤは顔見知り以上の間柄で、そのふたりの様子を見にやってきた…ということらしいのだ。

そしてもうひとり、上石あげいしの仕事仲間だという、
荻野おぎの唯十ゆいとです」
そう自己紹介した彼は線の細い華奢な肢体で綺麗な顔立ちをしていた。
「あなたもホスト?」
その見た目に、この疑問は否めない。
「ちょっと雅水まさみ、失礼よ」
「だぁって、仕事仲間って。今の仕事知らないし」
「今は、起業して移動販売…やってます」
言いながら荻野は、はっとして上石を見た。

「え? なになに、ユウヤも?」
和音の興味はあからさまに上石にしか向いていない。荻野の行動からして、知られたくはなかったのだろうと推察するが、もう遅い。
「どこで? なにやってるの?」
「おまえには教えない」
「なんでよ~。上客なのにぃ」
「入り浸られては困る」
そう言って上石は、チラ…と和音の兄である鷺沢を窺う。微妙な関係なのが見て取れる。
「ひど~い」

「いい加減にしろ、和音」
「お兄ちゃんは黙ってて」
「ここでする話じゃないだろ」
「ぶ~」
兄妹ケンカはいい加減にしてほしい。それも砂羽にとっては見慣れた光景ではあった。

「まぁいいじゃない。せっかくなんだから、楽しんで食べよう」
なんだこの茶番…そう思っても今は、こう言うしかない。
和音を頭数に入れたのが上石にしろ、鷺沢にしろ、人選ミスは否めないのだ。台無しになるより今を乗り切りたい。だが、まったく楽しめる気がしない。

「なんだか複雑になってきたね」
雅水が砂羽に耳打ちする。
「複雑に考えなけりゃいいのよ。とりあえず、飲も!」
砂羽は自分に言い聞かせるように唱えた。
「…うん。そうだね」
あたりは日も暮れて、BBQには絶好のロケーションなのだ。

「こっちの肉焼けました~?」
「もうちょっとだね」
火の番をするのは性格がおとなしい寺井だった。独り勝ちのように女子大生に囲まれながらも困った顔をしながら、ひたすら肉を焼いていた。
「なんか寺井さん、お父さんみた~い」
「ぉ、お父さん!? せめてお兄さんって言ってよ」
「え~その手つきはお父さんだよ、絶対」
「はは…絶対なの?」
本人によれば「ソロキャンプが趣味」というだけあって、なかなかに手際がいい。

「ソロキャンて、さみしくないです?」
「熊とか、狼とか、出ないんですか?」
「そんなところばかりじゃないよ」
「お肉くださ~い」
女子大生には物静かな寺井が安全パイと感じたのか、すっかり懐いて焼きあがった肉や野菜を片っ端から食べ潰していた。

「こっちも出来上がったぞ~」
テーブルを境に、鉄板で焼きそばを焼いていた上石がそういうと、
「うあぉ焼きそば~」
あっさりと女子大生は寺井のもとから掃けた。
「変わるわ。あんま食ってねーだろ」
それまで炭酸水を片手に座っていた鷺沢が立ち上がり、寺井からトングを受け取る。

「おなかいっぱいだけど、焼きそばは入るね~」
もはやだれのためのBBQなのか解らなくなりかけた頃、
「おまえら、それ食ったら帰れよ。送ってくから」
寺井と火の番をバトンタッチした鷺沢が、更なる父親発言。
「は~い」
手伝いと称してやってきた女子大生ふたりは、さすがに空気を読んだのか素直に応じた。が、
「え~なんで~」
案の定和音は駄々をこねた。
「明日授業あるんだろうが」
「なんで今そんなこと言うのー。空気読んでよ」
「空気読めねーのはおまえだ…!」
さすがに責任を感じているらしい。


2.reminiscence   4.truth



いつもお読みいただきありがとうございます とにかく今は、やり遂げることを目標にしています ご意見、ご感想などいただけましたら幸いです