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小説「オーストラリアの青い空」

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娘のお祝いごとがあってオーストラリアに渡航したシニア夫婦のヨシオとキョウコだが、新型コロナウイルスのパンデミックによって、帰国できなくなってしまった。秋が深まろうとする南半球から…
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#小説

小説「オーストラリアの青い空」11

 オーストラリアのドライバーライセンスは、宝石のように美しい。  自身の顔写真を除き、こ…

小説「オーストラリアの青い空」10

 7月中旬の土曜日、クイーンズランド州のガソリンスタンドは朝からキャンピングカーが押し寄…

小説「オーストラリアの青い空」9

 目の前を、羽をスキッと伸ばしたカモメが浮かんでいる。  風上を向いて飛んでいるのだが、…

小説「オーストラリアの青い空」8

 ウイルスは半月ごとに遺伝子変異を繰り返し、5月中旬までには世界で17種類に分化していた。 …

小説「オーストラリアの青い空」6

 アクリル板の向こうで、スーツ姿の領事館職員がヒロコとユウジを迎えた。エアカーテンが作動…

小説「オーストラリアの青い空」5

 もし、このコロナ危機が昨年だったら――、とヨシオはしばしば考える。  というのも、昨年…

小説「オーストラリアの青い空」4

 そのころ、日本では時の首相の名字を冠した奇妙なマスクが物議を醸していた。感染が中国から世界に広がろうとしていた2月末から、全国的にマスク不足が一向に解消されず、医療機関や介護施設では業務に支障を来す事態になっていた。  世界一豊かといわれる東洋の先進国は、基本的な医療物資の多くを海外生産に依存していたため、マスクや消毒液、使い捨て手袋、防護服などの世界的な争奪競争が始まると、あっという間に取り残された。  台湾や韓国ではマスク支給やウイルス検査など、初期の防疫対応が行き届

小説「オーストラリアの青い空」3

 コシグロペリカンのサダオは、きょうも浜から20メートルほどの海上に浮かんでいた。毎日、た…

小説「オーストラリアの青い空」2

 その医師は、鮮やかなブルーのスクラブスーツを着て、診察室で立ったままヨシオとキョウコを…