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「子育ての大誤解(下)」J・R・ハリス著 書評

<概要>
子供への影響は遺伝と非共有環境(仲間集団)という上巻の仮説だが、それでは、どのような非共有環境がどのように子供に影響を及ぼすか、そして非共有環境に対して親や大人はどのように対処すべきか、を解説したのが下巻。

<コメント>
下巻で面白かったのは、
①どのような仲間集団に子供たちを所属させるのか。
そして
②どのような仲間集団が社会的能力や知力向上に効果があるのか。

①どのような仲間集団に子供たちを所属させるのか。
自分がどのように子供を育てたいかによって、これは変わりますが、一般には自制心や相手を思いやる気持ち、集団行動ができるなどの「社会的能力」や「創造力含めた知力」の向上が親の望むところではないかと思います。

そしてその答えは、双方とも、そのような環境を提供している地域と学校を探して、その地域に引っ越し、その学校に通わせることです。

本書はアメリカの本なので、具体的地域や学校の事例なども掲載されていますが、日本でも、例えば進学率が高い子供がたくさんいる地域、治安が良い地域、富裕層(社会化能力&知力と高収入家庭は比例している)の多い地域、に引っ越すことです。

ネットやSNSが普及している現代社会においては、すぐにどこが治安が良くて悪いのか、どの学校に賢い子が多いのか、などはカンタンに検索絞り込みできそうです。

ただし、同じような境遇の仲間がクラスにいると、その仲間でつるんでしまうので、例えば高校進学時は、できるだけ同じ中学校の生徒が行かない(良い仲間同士だったら別)、賢い学校に通わせるなどに効果がありそうです。

著者ハリス曰く

親は住む地域を選ぶことによって、子供たちが犯罪を犯したり、学校を中退したり、麻薬に手を出したり、妊娠したりする可能性を、高めることも低減する事もできるのだ。
黒人青年と白人青年をそれぞれの居住地域を考慮せずに比較した場合、黒人青年は白人青年よりも非行に走ることが多く、非行の程度も重い。しかし、もし黒人青年が下層階級地域に居住していなければ、彼らの非行傾向は白人青年のそれと大差ない(一部編集)。


②どのような仲間集団が社会的能力や知力向上に効果があるのか。
これは一言でいうと、ラグビーで有名になった「ワンチーム」仲間集団にワンチームとしての一体感がメンバー内に醸成されているかどうか、が重要らしい。

ワンチームであれば、子育てに影響がないと著者自身が強調している「家族」であっても例外ではないと言っています。

そしてワンチームであるためにはできるだけ小集団である必要があるとも。なぜ小集団がいいかといえば「ワンチームを維持するため」と言う理由。見た目は同じ集団でも集団内で分裂してしまって「ツーチーム」になったり「スリーチーム」になるような集団では効果がないらしい。

異なる社会経済的地位、異なる民族集団、もしくは異なる国からの生徒がそれぞれ数人ずつしかいなければ、彼らは多数派に同化することになるが、もし独自の集団を形成するだけの人数が揃っていれば、そのまま違いを維持し、また対比効果によりその違いが増す事もある。

学校でも少人数クラスを導入しようとしていますが、少人数になればなるほどワンチームになりやすいので、教育上の成果もその分上がってくる可能性が高いといえます。

実際ワンチームのクラスは、強き者が弱き者を助けるので、強き者はより強く、弱き者はより強くなる。これは勉強でもスポーツでも音楽でも同じらしい。

一見時代遅れにみえる「学校制服」「校則」なんかも実は、ワンチームとしての一体感を生むと言う意味では効果がある。

子供達を可能な限り均質にすること。学校制服、男女別、人種別など、均質な小集団にすることで一体感が生まれ、教育効果が高くなる。

これはスポーツチームをみれば、なるほどとも思います。同じユニフォームを着て同じルール(戦術などのチーム内の決まり事)でプレーすれば組織としての一体感が強くなり、勝率も上がってきます。これらは、いい意味での行動経済学における「内集団バイアス」のよう。

以上、行動遺伝学から進化論、はたまた進化心理学など、啓蒙主義の精神に基づく人間の叡智は明るい未来をみせてくれる素晴らしい知見です。

*2019年:千葉県 フクダ電子アリーナにて 

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