矢壁 四漁

ヤカベシリョウ

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ヤカベシリョウ

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    サムネが描けて楽しいです。

  • ときどき通信

    ときどき投稿される小言のようなもの。商品の紹介をしがちかもしれない。

最近の記事

ショート「無慈悲な大食漢」

 博士の発明家としての才能はまさしく天才と呼ぶべきそれだったが、非常に残念なことに、怠惰を極めた人でもあった。  例を挙げるなら家事、仕事などの生活する上で欠かせないことを自身の作ったロボットに任せっきりにしている。以前、友人との飲み会に自分そっくりのアンドロイドを出席させたこともあるらしい。  人と連絡先を交換するのもすごく嫌がる。もし博士からメールアドレスが聞き出せたとしても、それは人工知能が最適な答えを返答するだけの偽物である場合が多い。博士と本当の意味で繋がっている人

    • 短編「造船所の総統さん」

       人骨を材料に船を作るという話を聞いたことがある。  骨組みに文字通り白骨を使い、皮膚を剥いで帆に……。まったく、恐ろしい話だ。なぜ俺は不意にこんなこと思い出したんだろう。  本当はオメデタイはずの誕生日も、祝ってくれる家族や友達がいないといつもとなにも変わらない。しけた生活を送っているからこんな不気味なことを考えてしまうのだろうか? 窓からの月光でぼんやりと照らされる中、昨日と同じように薄く硬いベッドの上で目を閉じる。  二十歳になった日の深夜のことだった。  俺の住むこ

      • 「正義とは?」仮面ライダーアマゾンズシリーズを観てみた。

         ふと思い立って、仮面ライダーアマゾンズシリーズをAmazonプライムビデオで観てみた。  仮面ライダーアマゾンのリブート作品であり、Amazonオリジナル作品ということで、「Amazonの作り出す新しいアマゾン」それが仮面ライダーアマゾンズ。なんだか頭がおかしくなりそうなくらいのアマゾン尽くし。  これを書いているのはシーズン1、2と劇場版「最後の審判」を観終えた直後だ。映画の熱が冷めないうちに感想を書きたいと思った。僕にとってそう思わせるほどにこの映像作品は面白かった

        • ショート「かぎじえ」

           ああ、どうしてこんなことになったのだろうと私は考える。今回のことで私を突き動かしたのはなんてことない、ただの好奇心であったし、それは少なからず私自身の精神に潤いを与えた。謎を追い求めることに子供のようにワクワクした。まさか「いきすぎた好奇心は身を滅ぼす」ということを死に際になってようやく理解することになるとは……。    数ヶ月前、私は親の稼ぎで飯を食い、寝るだけの不労の者だった。くだらない生活を送る私のもとに一つの茶封筒が届いた。そこにはどこかの駅の名前とBの一と書いてあ

        ショート「無慈悲な大食漢」

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          9本

        記事

          ショート「彼ラハ猫デアル」

           「ももちゃーん、おやすみなさーい」  夜も更けて、皆が寝静まった頃。仕事着を脱ぎながらモモコ・ヤマモトは現状を憂いていた。 「どうしたんだ、しけた顔して」  こいつは同居人のミミスケ・ヤマモトである。 「私はあんたみたいに能天気じゃないのよ」  二人はなんてことないリビングの床に座り込んだ。 「人間を騙して生き続けることについて、考えてた」 「また、その話かい。考え過ぎなんだよ」  彼女はきっと解決しないことについて長ったらしく思考を巡らせるのが好きなのだ。  そして彼女は

          ショート「彼ラハ猫デアル」

          ショート「撃墜する男」

           「娘さん、いくつになったんだっけ?」  農家の老人は野原にそびえる高台に座る男に声をかけた。 「んん、5歳ですけど」  男はこれから行う仕事の準備に余念がない。相棒である巨大な筒を少しづつ組み立てていく。 「あんたも大変だね、こんな汚い仕事で食いつなぐのも」 「仕事には困らないですよ、ひっきりなしです」 「人気者だな」  老人は笑った。男は集中したいのに話しかけられて迷惑そうだ。望遠鏡のようなスコープを磨いた後、背のバックパックからあるものを取り出した。 「危ないどんぐり」

          ショート「撃墜する男」

          ショート「タイム・パイロット」

           「お待たせいたしました」  その一言で今までざわついていた会場は、一気に静まり返った。  科学者による研究発表会。そこには日本が総力をかけて作り上げたものを一目見ようと、全国の学者たちが集まった。壇上の科学者は会場の様子をチラチラと気にしながら、喋り始める。 「皆さまはタイムマシンをご存じですね?」  高い声が広い会場によく響く。もちろんタイムマシンは知っている。今の時代一家に一台は当たり前で、小一時間ぐらいのタイムトラベルなら日常的にいろいろな場所で行われている。でもタイ

          ショート「タイム・パイロット」

          ショート「競走戦略」

           「......これに乗れと?」  私の目の前にはレトロなライト、深いブラウンのカラーリング、そして小さくて丸みをおびたバイクがでんと屹立していた。 「原動機付自転車だよね、こいつ。この時代にまさか実物をお目にかかれるとは」  祖父が自身のガレージから引っ張り出してきたのだ。ただ、長年放置されてきたとは思えないほどにそれはピカピカに輝いている。 「当時は原付って呼ばれていた代物だ。新品同様きれいにしてやったんだから感謝しろよ、名はビフテキ号だ」  皮肉を言ったつもりだったが、

          ショート「競走戦略」

          MOTHER3、クリア。

          テレッテッテー テレッテッテー テーテレッテッテッテッテー テーテレッテッテーっとお。 「あのお方のテーマ」ね。 先日、MOTHER3をクリアいたしました。前に真っ赤で見づれえMOTHER2の感想記事を上げましたが、今回はキーボードで打つことにしました。見づれえので。  2同様、やはり良い。ザ名作RPGという感じで「こういうゲームしたかったんだよね」という欲望を満たしてくれます。クリアした後の読後感ならぬ、クリア後感もとても心地いい。同時に自分は今まですごい濃密な時間

          MOTHER3、クリア。

          ショート「記憶の留め具」

           「覚えたいことに集中してピンで留めておくようなイメージです」  目の前の男は簡単に言ってみせました。雑誌の記者をしている私は驚異的な記憶力を持つことで一時期世間を騒がせた戸部という人に喫茶店で取材をしていました。覚えたいことをすぐ覚えられるというのは、うらやましがる人も多いでしょう。かくいう私もその一人でした。 「こんなの大したことじゃないですよ」 「何をおっしゃいます、すごいことじゃないですか!」  心からの発言でした。物忘れには一生困らないし、学生の頃はテストの点数もよ

          ショート「記憶の留め具」

          ショート「山の峡」

           仕事終わりの七時過ぎ、奇妙な光景が目に入ったので立ち止まった。建物の壁に無理やり入り口を作り、瓦の庇に暖簾をかけたような見た目をしている。 「Bar山峡か」  両脇にそびえたつ門松に一瞬ひるんだが、仕事で貯めに貯めたストレスを発散するのにアルコール以外の方法が私には思いつかなかった。  暖簾をくぐると闇へと下る階段が螺旋形に続いている。私が階段を下るのに合わせてレトロな灯篭に明かりが燈されていく。 「大丈夫かよここ……」  肌寒くなる空気。本当に営業しているのか不安になって

          ショート「山の峡」

          ショート「小さな豆の派閥」

           「先生、約束の物買ってきましたよお」  そこは探偵事務所。だが、仕事とはあまり関係がなさそうな楽器やらフィギュアなどで散らかっている。奥には座り心地の良さそうな椅子にふてぶてしくかけて、新聞を読む男が一人。 「ここ最近、芸能人の不祥事が立て続けに...事件の香りがするね」 「先生。片付けるの私なんですから事務所散らかさんでくださいよ、めんどくさいなあ。あと...これ」  ぞんざいにデスクの上にそれを置いた。 「こしあん派でしたよね、たしか」 「おお、サンクスサンクス。あそこ

          ショート「小さな豆の派閥」

          ショート「怪傑のルーツ」

           「母さんに会いに行くよ、兄ちゃん」  突拍子もなく彼は言う。 「弟よ、無茶を言ってはいけない。それを人は机上の空論というのだ」  彼らの母親は亡くなっている。数年前、弟を産んですぐに。重い病気だった。 「兄ちゃんは母さんに会いたくないの?それに空論なんかじゃあない。今から会いに行こうよ」  弟は兄の手を引き、自分の部屋へ向かう。部屋のドアをがちゃりと開けるとそこには異質な光景が広がっていた。 「これは…?」  なんてことはない。これは「蚊取り豚」だ。ようするに蚊取り線香を入

          ショート「怪傑のルーツ」

          ショート「組織の星物」

           ついに地球への調査は明日に迫った。緊張はしていない。 むしろ、ついにあの星に行くことができるというワクワクで胸がいっぱいだ。上のヤツらは地球を侵略し、我がモノにしようと考えているようだが、私としてはそんな手荒なことはしたくない。良い関係を築いて、オトモダチになりたい。 互いの星の文化を交換しよう。それはきっと互いの星のためになるだろう…。 まあ、組織に生きる者としてはお上の命令は絶対なのだが。今日は早めに眠るとしよう、明日の任務に支障をきたしてはならない。…zzz 調査初

          ショート「組織の星物」

          ショート「ミス・オビラプター」

           僕は物心ついた時から、ここにいた。 周りのやつに聞いてもみんなそういう。 親に捨てられたとか、親が亡くなったとかいろいろ理由はあるみたいだけど、僕らみたいな孤児はあの「恐竜先生」と暮らしている。 「はい!皆さん席に座って。新しいお友達を紹介するわよ」 来た、先生だ。みんな急いで自分の席へと向かう。新しい友達というワードに居ても立っても居られないという様子だ。先生は一歳にも満たないような赤ちゃんを抱えていた。 「女の子よ。仲良くしてあげてね」 その子の名前やどこから来たのか

          ショート「ミス・オビラプター」

          ショート「ワレワレハウチュウジンダ」

          「毎年飽きずによくやるね、それ」 もうすぐ八歳になる娘はオンボロ扇風機を前にして、楽しそうに話しかけている。 「ワ・レ・ワ・レ・ワ・ウ・チュ・ウ・ジ・ン・ダ」 響いて聞こえる自分の声にとても満足げな顔をしている。 田舎の夏っていうのは風鈴の音とか、セミの声とか、そういう風情があるものだが… この宇宙人のせいで台無しだ。 「なんでこんな風に聞こえるの?不思議!」 扇風機の前でしゃべり続けているから、ずっと声も響いたままだ。 「感謝しないとな」 「え?」 「こんなに暑い中、働いて

          ショート「ワレワレハウチュウジンダ」