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ショート「組織の星物」

 ついに地球への調査は明日に迫った。緊張はしていない。
むしろ、ついにあの星に行くことができるというワクワクで胸がいっぱいだ。上のヤツらは地球を侵略し、我がモノにしようと考えているようだが、私としてはそんな手荒なことはしたくない。良い関係を築いて、オトモダチになりたい。
互いの星の文化を交換しよう。それはきっと互いの星のためになるだろう…。
まあ、組織に生きる者としてはお上の命令は絶対なのだが。今日は早めに眠るとしよう、明日の任務に支障をきたしてはならない。…zzz


調査初日、私は「ウミ」と呼ばれる塩水の中に宇宙船ごと突っ込んだ。わりかしド派手に突っ込んだので地球人に怪しまれなければいいが。
そんなことよりも驚いたことがある。その宇宙船を置き去りにして、ウミを徘徊していた私はとんでもないものを見つけた。長い八本の足、そしてその吸盤。間違いない。「同士」だ。若干、身体の色が地味な気がするがそんなことは問題ではない。まさか私以外にも地球に派遣されたソケ星人がいるとは。私はすかさず声をかけた。
「おーい!そこの御仁!」
彼は無視を決め込んでいる。なぜ返事をしない?自らの星を離れ、調査に来ている身のはずだろう?心細くはないのだろうか。
するとその人は何かツボのようなものに身を隠した。しかもそのツボは複数あるではないか。そこで私はハッとした。これはきっと彼が用意した簡易のソケ星人居住用スペースに違いない。幸い、ツボには彼しか入っていない。
私は隣のツボへぬるりと入った。今日はここで泊めさせてもらおう。
「明日の日の出とともに調査再開だ」
そう、調査再開…できると思っていたのだが。思いもよらないハプニングにより私は任務続行不可能な状況に陥った。

私は今、船に揺られて太陽を見つめている。

「船長、タコ壷の中にヘンテコな獲物が!」
「…本当だな、ずいぶん色がカラフルだ。とりあえず逃さずに取っとけ」
「へい!」


某回らない寿司屋にて。僕は仕事がひと段落したので、後輩と一緒に晩飯を食べに来ていた。
「すいませんね、こんな高そうなお店」
「気にしないでくれ。今回の仕事は君無しでは成し得なかったんだ。」
この店は僕が以前先輩に連れてきてもらって以来、とても気に入っている。珍しいネタの寿司を食べられるのがこの店の醍醐味だ。
「仕事といえばあれってどうなったんですかね?」
「?あれって?」
「ほら、あれですよ。生物が生活できそうな星にロケットでタコやらなにやら、いろんな動物を送り込んだ仕事ですよ。地球外生命体を生み出せるかもって上の人間が大騒ぎしてた」
「ああ、そのことか。企画立案者の話を初めて聞いた時は仰天したよ」
第一、地球生まれの生物が異星で繁殖したところで、それを地球外生命体と呼べるのかは疑問だけど。
「もう結果を知りたいっていうのは早すぎるんじゃないか?その仕事ってまだ最近の話だし。そりゃあ地球の動物が宇宙でなんらかの進化をしているとしたら楽しみではあるけど…。」
後輩は明らかに残念そうな顔をした。
「現実主義ですね先輩は。ほら、タコきましたよタコ」
そこには待ちわびた僕の大好物のタコ…と思ったがなんだか様子がおかしい。

「店主、なんだかこのタコ、蛍光色が強過ぎやしませんか?」

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