見出し画像

【書籍】ぼくがぼくであること 山中恒著

夏休みといえばこの本だ。

台風一過、慌てて晴れだした暑い晴天につい読みたくなって本棚に手を伸ばした。


夏のお手軽本

小学六年生の平田秀一が夏休みに家出し、農村でのちょっとした冒険を通じて親や家族の在り方を考えるというものだ。NHKのドラマで印象に残っている。調べると1973年の放映なので自分が四年生の時に見たことになる。「夏代ちゃん」がとても魅力的だったのを覚えている。

書籍は後から思い出して買ったのだろう。本に挟まったレシートは文字が消えかかっているが、福家書店銀座店1999年6月2日(水)12時47分とある。昼休みにでも行ったのだろう。

自分に家出経験はないし、秀一のお母さんのような「教育ママ」がいたわけでもない。ストーリーのドタバタを純粋にテレビで楽しんでいたのだが、本は本でおもしろい。自分の中で空想の「夏休み家出疑似体験」もできる。「田舎」を持たない自分にはそんな夏休みの情景が羨ましくもあった。

作者の山中恒サンは、終戦当時14歳で北海道庁立小樽中学の二年生、農家へ泊り込みの勤労奉仕に行っていた。彼は戦争中、軍国主義教育を強いた教師たちが、敗戦によって自決するのではないかと、ひそかに様子をうかがったが、教師たちはいささかも腹を切る気配は見せず、むしろ安易な居直りを見せる者が多かったことから、おとな一般に敵意を抱くようになったという。(尾崎秀樹、解説より)

作品の元は1967年(昭和42年)というから学生運動の盛り上がりもあった時期で、権力や親に対する反感、「押しつけ」への抵抗も半ば身近な体験だったのかもしれない。それを児童文学の中で、家庭教育の在り方みたいなものを問うている。

ドラマを見ていた当時はもちろん、今日もそんなことは考えずに、ただ入道雲がぼっかりあるような「夏休みの憧憬」を求めて読み返したに過ぎない。

窓の外では、木の幹をきっと駆け足で登って羽化したに違いないセミが騒いでいる。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?