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【雑記】珈琲と神保町とあの娘

 珈琲といえばなぜか神保町を思い出す。昔あったレトロな佇まいの「茶房 李白」を思い出すのだ。古い民家の緩い日差しが差し込む部屋の片隅にいるかのような落ち着く喫茶店だった。そこで静かに珈琲を啜っているのが心地良かった。
 通っていた大学からすぐのところにあった。神保町界隈は今でも偶に東京に出掛けた時などはつい足が向いてしまう。本が好きなこともあるし(神保町と言えばやっぱり古本屋街である)長年通学した懐かしい場所でもある。

 随分昔になるが社会人になりたての頃に、やっぱり懐かしくなって当時の彼女を誘って「李白」に行ったのを思い出す。デートはいつも流行に敏感な彼女がセレクトした店を訪ねるのが定番だった。都会の片隅感満載でひっそり夜の絶景が拝めるけれどお手軽なレストランとか。繁華街を少し外れた料理の旨い居酒屋とか、どこで調べたのかといつも感心したものだった。

 その日は、そんな彼女にも気に入ってもらえるかも知れないと思い、かつてのホームである神保町に連れ出したのだった。「李白」は古本屋が並ぶ通りから一本裏に入った人通りの少ない路地にあった。
 彼女はとても気に入ってくれて、僕の株も少し上がった気がした。「また来ようね」って言い合った。お気に入りの店を見つけると、「また来ようね」がお決まりだった。

 だけど、「また来たね」って場所はそんなに多くはなかった。「李白」に行ったのも、結局それが最初で最後だった。程なくして彼女とは恋人ではなくなったからだ。そして、「李白」は別の場所に移転したと聞いたがそちらも、もう閉店したらしい。

 彼女をモデルに当時の出来事を幾つか掌編にして書いた。これとか、『ある日の神保町で』。これとか、『レイバン』。

 今はもう無くなった「李白」のあった場所には、その後足を向けられていない。けれど、レトロな喫茶店なら神保町にはいくつかまだ健在だ。近いうちにまた古本屋巡りに行こう。歩き疲れて懐かしい喫茶店のどこかで珈琲を啜るを楽しみに。

  


こちらからお題をいただきました。
久しぶりに思い浮かんだそのままを書いてみました。

 
 

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