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【開催報告】「北村紗衣先生と考える、これからの舞台の楽しみ方 ―フェミニスト批評というまなざし―」 (2022/12/20)

こんにちは。舞台鑑賞が生きがいのGSセンター学生スタッフ、はーちゃんです。
この記事では、2022年12月20日(火)に行われたイベント、「北村紗衣先生と考える、これからの舞台の楽しみ方 ―フェミニスト批評というまなざし―」の開催報告をいたします。
参加してくださった皆様、質問や感想を寄せてくださった皆様、ありがとうございました!今回参加できなかった…という方も、この記事を読んで、イベントの追体験をして頂けたら幸いです。

イベント概要

本イベントでは、「フェミニスト批評というまなざしで舞台を観ること」について焦点を当て、
「舞台上の人々の美しさを楽しむ自分」
「純粋に物語を楽しむ自分」
「批判的な観点を持つ自分」
これらをどのように共存させていきながら舞台鑑賞を楽しんでいけるのかを、ゲストの北村先生の講義+質疑応答での2本立てで一緒に考えていきました。

北村先生のプロフィールは以下の通りです!

北村紗衣(きたむら・さえ) さん
武蔵大学人文学部英語英米文化学科准教授。専門はシェイクスピア、舞台芸術史、フェミニスト批評。著書に『シェイクスピア劇を楽しんだ女性たち』 (白水社、2018)、『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』(書肆侃侃房、2019)、『批評の教室――チョウのように読み、ハチのように書く』(ちくま書房、2021)、『お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード』(文藝春秋、2022)など。

ちなみに、フェミニズム批評とは、これまでの批評が男子文化だったことに立脚し、ジェンダーやセクシュアリティに関することを深読みしていく批評のことだ、と北村先生は仰っています。
「フェミニスト批評についてもっと知りたいぞ~!」という方は、北村先生の著書『お砂糖とスパイスと爆発的な何か』を要チェック!

フェミニスト批評って何?

この講義パートでは、「フェミニスト批評」と「ノントラディショナル・キャスティング」について説明していただいたあと、舞台作品の内容・批評・制作環境について、フェミニスト批評の観点から具体例を用いながらお話を伺いました。
役柄のもともとの設定と一致しないジェンダーの役者をキャスティングする、「クロスジェンダー・キャスティング」についてのお話が興味深かったです。また、男優が女装して出てくるとそれだけで「かわいくない」とされ、ブスネタで笑いをとろうとする傾向が日本にあるという指摘にも頷けました。このいわゆる「ブスネタ」の切り口から、いろんなコンテンツを批評してみるのも面白そうですよね。

質疑応答①

当日北村先生にお答えして頂いた質問の中からいくつかピックアップしてご紹介します!

Q. 舞台を鑑賞するときに、現代とのジェンダー観や価値観の違いにモヤモヤして楽しめないときがあります。すっきりする見方があれば教えてください。
A. すっきりする必要はないと思う。モダンな演出ですっきりできるものに仕上がっているときもある。すっきりする必要はない反面、いつかすっきりする演出に出会えるときがあって、それは嬉しいと思える。

Q. どうすれば自分でフェミニズム批評やクィア批評を実践できるでしょうか。
A. まずはお芝居をしっかり見て、何が楽しかったか、などを突き詰めると良い。その中でフェミニストやクィア批評の観点で見たいものが出てきたら批評する。「フェミニスト批評をやろう!」と思って観るより、「とにかくなんでもいいから批評しよう!」とする方が間口が広い。

司会進行をしながら思わず何度も頷いてしまうほど、「わかる~!なるほど、そうだよね~!!」の連続でした。

これからの舞台の楽しみ方についての模索

「これから私たちはどのように舞台を楽しんでいけるのか」について先生にお聞きしたところ、ズバリ、「感想戦」「批評を書いてみる」「配信の活用」の3つを挙げて頂きました。

感想戦

同じ舞台を観た人たちなどと、互いに感想を言い合ってみることで、他の人がどのようにその舞台を観たか知ることができる。見逃した小道具について話したりするのは楽しいはず。観客のジェンダー、セクシュアリティ、住んでいる地域によってもその人の解釈が違うのが面白い。

批評を書いてみる

人類が文字を書く前からあった芸術がお芝居であり、いろいろなことを考えながら観ることが重要。まずはお芝居をしっかり見て、何が楽しかったか、などを突き詰めて批評をし、その後でフェミニスト批評やクィア批評をしてみると良いかも。

批評の書き方については、北村先生の『批評の教室』を要チェックです!

配信の活用

コロナ禍になってから、配信という選択肢が増えてきたことで、めったに日本で観られないようなものが観られるようになってきた。
どこでなにを配信しているかの情報が一元化されていないのでなかなか難しいが、YouTubeなどでも見られるので、活用してみては?

質疑応答②

当日北村先生にお答えして頂いた質問の中からいくつかピックアップしてご紹介します!

Q. さえぼう先生がご覧になったお芝居で顔塗りせずにキャラクターの人種をうまく伝えていたお芝居はありますか?(特に日本での海外ミュージカル上演の場合)。
A. カンパニーの中に一人だけ違う劇団で違う芝居をする人を連れてくることで、人種の違いをうまく伝えられることもある(ストレートプレイに歌舞伎役者を入れる、など)。
また、黒人役を黒人の役者が演じた場合、白人役を日本の東アジア系の役者が演じていいのかという疑問も出てくる。少数派の民族の役者が黒人役を演じることも可能だが、その場合その役者のアウティングにつながったりもするという課題も浮き彫りになる。単にキャストをいじっただけでは、(例えばアメリカの作品の場合)アメリカのコンテクストが伝わらないため、難しい問題である。

Q. 私は宝塚歌劇が好きなのですが、バイナリーな異性愛規範やジェンダー規範でガチガチな話に魅力を感じてしまう自分に罪悪感を感じます。その罪悪感とどのように向き合えば良いでしょうか?
A. そんなに罪悪感を感じる必要はない。というのも、宝塚歌劇にそのような規範があることにすでに気付いており、それについて話す機会を持っているから。規範を問い直すような新たな作品が生まれることを望んで、ファンとして感想を言ったり批評をしたりすることで、宝塚が変わっていく可能性があるのでは。

感想

最後に、参加者の方の感想を一部ご紹介します。

舞台を観て「べつにスッキリする必要はない」ということを意識として持っておくと今後よりいろいろな舞台を楽しめる気がしました。また、「楽しんで観ていた舞台の制作環境に問題があったことが発覚した場合どうするか」のお話にたいへん励まされました。

いろいろ具体的な芝居のお話を伺ったので、観たい気持ちが盛り上がりました。感想戦や、批評(すぐには難しいかもしれないですが)によって、より楽しめる方向性を示していただいたと思います。ありがとうございます。

終わりに

このイベント、企画して本当に良かったです!
今まで舞台を観る中で何となく抱いていたモヤモヤについて、このイベントを通して言語化されることにより解像度が上がったような気がしています。モヤモヤをすっきりさせる必要は無いという先生のお話にもエンパワーメントされました。これからの観劇人生の中でモヤモヤに出会ったときは、「ふーん、おもしれーモヤモヤ」のような感じで受け止め、批評を書いてみたり、仲間と感想や考えを話し合ってみたりして楽しんでいきたいです。

快くご登壇をお引き受けくださった北村先生、一緒に準備をしてくれたGSセンターの学スタや職員さん、イベントに参加してくださった皆様すべてに感謝をこめて、ありがとうございました!