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授業の様子㉑:グローバルスタディーズ学科

今回は、「授業の様子⑫」(2022年11月22日更新)の続きとして、応用演習の様子を紹介します。2022年10月17日から10月24日の京都新聞の記事を読んで関心をもったテーマについて調べ、発表しました。

まず、Hinaさんは、保育士の待遇が重労働の割に低く抑えられていることや、待遇が悪いことで心に余裕が生まれず園児に冷たく当たってしまう保育士の実態について紹介しました。そのうえで、保育士にまわるべきお金がどこに消えているのかとの問題提起をしました。

発表するHinaさんに注目する皆と、発表の要点を書き示すRyutoさん(2022年12月撮影)

保育士の待遇が悪いのは、実はこの仕事の生い立ちに一因があります。保育士は、貧しい共働き家庭の子供の面倒を見ることを目的に1948年に誕生した「保母資格」を前身としています。名前に「母」が入るとおり、かつては女性の仕事とされていましたし、厚生労働省の統計によると、今でも保育士の96%が女性です。日本は男性優位の社会なので、保育士の仕事もまた、女性が引き受ける低待遇の仕事と位置づけられ、今日に至るまで大きな改善が見られませんでした。

一方、Sayaさんは、働き口が少ないなど立場が弱いことで過重労働を強いられ易い、在日外国人の実態について発表しました。これを受けて、Hanさんが、ゴミが落ちていることを外国人観光客のせいにされてしまうことを、またRyutoさんが、かつて勤務したバイト先で、パワハラを受けて自国に帰りたいと嘆いていた外国人アルバイトスタッフがいたことを話してくれました。Sayaさんの「日本人の英語に対するコンプレックスが外国人への冷たさになっているのかも知れない」との見解には、皆が共感していました。

Sayaさんの発表中はReiさんが要点を板書しました(2022年12月撮影)

また、Yunoさんは、同性同士の婚姻が法的に認められていない日本で、LGBTQカップルが様々なサービスや社会的配慮を受けやすくなる「パートナーシップ制度」の取り組みを紹介しつつ、それでも税制や相続などで様々な不利を被ってしまう性的マイノリティの実態について発表しました。続けて、世界の33の国・地域で同性婚が認められるなか、日本は自治体任せにして国として取り入れようとしないこと、つまり、たとえ良いことと分かっていても変わることに後ろ向きの国なのではないかという問題提起をし、皆が熱心に聞き入っていました。

Yunoさんの発表中はKnuckleさんが要点を板書しました(2022年12月撮影)

日本は男性優位の社会であると先ほど書きましたが、正確に言えば、日本は「日本人男性優位」の社会です。3人がテーマに選んだ女性や在日外国人、LGBTQに対する差別には、「日本人男性優位」が通底しています。このことを象徴するのが、メンバーシップ型雇用と呼ばれる日本の雇用制度です。この制度は、新卒一斉採用で集めた人材が終身雇用制度のもとで、ジェネラリスト(つまり「何でも屋」)として定年まで同じ職場に働き続けることを前提としています。何でも屋が多いと、個々人の専門性に即して役割を明確にしようなどという意識が育つはずはありません。社内には社内の人間だけが分かる阿吽 あうんの呼吸がはびこり、外から来る人にとってはおおよそ解読不能な複雑な仕組みで物事が動くことが常態化されます。

すなわち、途中で組織を出たり入ったりする必要のある人や、人と異なる考え方をするような敏感で個性の強い人、或いは、何か特定の専門性を持つスペシャリストにとって、日本の組織はとても働き難いのです。このことは、企業が、妊娠・出産や育児、介護などで長期休暇や時短労働の必要な女性を採用しようとする時や、LGBTQのような多様な人材を採用しようとする時、さらには、語学力などに優れる外国人を採用しようとする時に足枷あしかせになります。このように日本の雇用制度に馴染なじみ難いことも、多くの組織でこうした人材が正当な評価を受けられず、待遇が改善されないことの一因になっているのです。

最後に皆で(2022年12月撮影)

日本は今後どのように変わっていくのでしょうか。また、その時、女性や外国人、性的マイノリティの生き方や働き方はどうなるのでしょうか。激動する社会の中で、学生の皆さんが、柔軟な思考で、困っている人を助け、力強く生きてくれることを祈っています。

p.s. 演習では、その他、Ryutoさんはウクライナ危機について、Reiさんは自殺ほう助問題について、Hanさんは韓国アイドルの徴兵回避問題について、Cogoさんは児童の給食持ち帰り問題について、Knuckleさんは日本のプロ野球の歴史について、報告しました。それぞれ、リーダーの役割や人間関係、公平性などについて深く考えさせられる内容で、とても面白い授業になりました。

2023年3月13日
國分 圭介(グローバルスタディーズ学科教員)
緒方しらべ(グローバルスタディーズ学科教員)

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