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Sの存在

まず、何がそんなに面白かったのか。

それは、同中学から同じ高校に来た友人Sである。

Sは、見た目とは異なり、かなり話術に長けていたのだ。それも、こてこての漫才師のような話の上手さではなく、4000等身の後藤のように話すのだ。

当時、4000等身は存在していなかったが、今風に言えば、Sの特徴を説明するのにもってこいの例えだ。

 Sと話すのは昼飯時で、弁当を一緒に食べることが多かった。

お互いに笑わせようとするトピックもないまま、弁当を食べ始めるのだが、どのトピックとっても笑いをこらえることができない。

それは、トピックが面白いのではなく、Sの話し方自体が面白いのだ。

そもそも本人は、笑わせようという気が全くない。

その状況で淡々と話をするのだが、全てに綺麗に落ちがある。

昼飯時で、飯を口に運んだ瞬間から、Sの淡々とした一定なトーンの話は尽きない。

私も笑いが止まらなくて、口に入れた食べ物が外に飛び散らないように堪えるのが精一杯の状態。

こんなに面白いなら、中学の時にもっと一緒に遊んでおけばよかったと後悔したほどだ。

Sの話に出てくるお父さんは、かなりのツワモノだった。

子供の頃、どんな子供も虫が怖くなく、バッタ取りを楽しむなど普通だった。

私もよくバッタをとったものだったし、手づかみで取ることができた。

しかし、大人になるにつれて、昆虫が苦手になり、手づかみなどできなくなる。

これと言って昆虫との嫌な思い出ができたわけでもないのに、長年昆虫から離れると触れなくなっている。

Sのお父さんは、大人になっても昆虫を平気で手づかみする人だという話をしていた。

それは、凄いと。

私の父も、兄も、私ももはや手づかみで虫を取ることはできなくなっていたからだ。

しかも、Sのお父さんは、ゴキブリを手で摑まえるというのだ。

そういうツワモノは、歴史的にはSのお父さん以外では、未だ聞いたことがなかった。

もちろん、昆虫大好きっこや研究家の方が手掴みできるのは分かっているが、そうでない人が手掴みする話は聞いたことがなかった。

Sは、野球部に入部した。

中学の頃も確か野球部だった。

髪の毛も坊主だったし、初見野球部の身なりをしていたが、期待を裏切ることもなく野球部へ進んだ。

私は、軽音楽部に入部したが、中学ではバスケ部だったので、体力には自信があった。

だから、体育の時間や休み時間は、サッカー部やラグビー部と一緒にサッカーをして遊んでいた。

Sは、お父さんがマラソンをする人だった。

そういう側面もあり、Sも走ることは得意で、Sも私もサッカー部やラグビー部がサッカーをして遊ぶときは、必ず参加をしていた。

サッカーで遊ぶグループは、基本的に運動神経がいい人が集まっていたものの、殆どがサッカー部とラグビー部だった。

それ以外の部活に所属している人は少なく、私とSはいつも同じチームでプレーをしていた。

そのうち、Sとは連携が取れたプレーへと上達していき、キャプテン翼に出てくる立花兄弟のようになった。

私もSも「マサゴ」という地域から来ていたため、「まさごコンビ」と呼ばれるようになり、重宝してもらえるようになった。

 Sといるのが何故心地よいかと言うと、彼には、人間の汚い部分が表に出ていないからだ。

人間であれば、「嫉妬」「偏見」「キャラ付け」「あだ名付け」など、本人たちは悪気なくやっていることで、相手は密かに嫌がっていることをするものである。

私の代の中心的なグループは、そういう人達で構成されていた。

 Sは、「妬まない」「長いものに巻かれない」「偏見を持たない」「キャラ付けもしない」とにかく、マイペースで、そのペースで人が嫌がる要素がない。

そういう人は、一緒にいて楽である。

 Sとは、最初のうち、電車の時間も同じになり、よく一緒に通学していたが、野球部のため、朝練があることで、叶わなくなった。

以来、一人で通学するようになり、後に、定期代をバンドの機材・練習代・ライブ代に使ってしまったことで、学校まで自転車で1時間かけて通学するようになった。

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