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43歳、逃げ傷なし・2

果樹園に就職したときの話

前段

大学卒業後は東京芸大の院に行きたかったが、落ちた。
ややあってミッドセンチュリー家具輸入の会社に就職したが、エゴ・ツヨ子な女性店長との折り合いがつかず、つまらなくなって辞めた。
今思えば、必要なツールについてその重要度を説明し、購入の必要がある旨を上手に伝えられなかった自分も良くなかったかもしれない。意見するのが苦手だったのだ。
当時は「あなたのセンスに任せる」という態度が、丸投げのサインである事も知らなかった。

無職ではいけないと思い、転職サイトに登録した。と言っても20年前なので、今ほどシステマチックではなかったように思う。(リクナビやen転職はあったかもしれない)
色々なキーワードでサーチしていると、社名は伏せられているが、何をどう見たってサンフランシスコベースのあの会社やん。私も学生時代からノート使ってますよ。しかも近所なので歩いて通勤出来るやん。というオープンポジションを見つけた。
日本語の職務経歴書を登録していたので、そのまま応募ボタンを押した。

翌日エージェントから連絡あり、がんばってバックアップしますね!!との事。おう、がんばれよ。

当時、展示会のアルバイトを入れていたのだが、会期3日目にエージェントから「近日中にインタビューに来れますか、と言っている」旨の連絡が入った。
これから始まる俺様の華々しい人生と、ブースに来る汗臭いおっさん達をあしらうキャンギャルと比べたら、断然前者だぜという事で、正直に状況を伝え、展示会を離脱。そんな急に面接指定してくる非常識な会社はきっとろくなことがない云々と嫌味を言われる。自分はそうは思いません。でもごめんね。

面接で啖呵を切る

〜一次面接〜

おお、入り口超おしゃれ。51階。全体的に白い。受付2名。あ、外国の人がいる。

「アグレッシブな人が好きな会社だから、ガンガン言うといいですよ」と、エージェントのおじさんが教えてくれた。
「先方は、あなたの学生時代のアルバイトに大変興味を持たれています」

面接の部屋に入って、勧められるまま上座に着席。
眺望が素晴らしい。あれに見えるは、富士山?

ややあって、すっごい強烈な香水の嵐と共に、俺超ボンボンでおしゃれです、頭脳明晰でおなじみ、偏差値高男と申します、な感じの人が入ってきた。もう一人はHR(人事)。濃紺のポロシャツにチノパンで多毛オールバック。コージー冨田さんみたいな風貌の人だった。

これまで何をやってきましたか?
 元々ユーザーで、御社の製品を愛用してます。学生時代のアルバイトで、電気屋さんでパソコン売ってました。リピーターもいるし、首都圏で売上トップになって表彰されました。大学卒業したらうち(CMJ)に入社しないかと誘われましたがちょっと違うと思ったので行きませんでした。
土日も仕事になる事あるけど大丈夫?
 全然大丈夫です。
休みの日は何してる?
 ジョギングしたりフェスに行ったりしています。
英語は話せる?
 バンドをやっていたので歌詞を書く為に勉強しています。今後も研鑽します
あなたを採用する事によって、我々が得られるメリットはあるか?
 対面ですが販売の経験と実績もあり、元々ユーザーで、製品の基本的な使い方も熟知しています。楽しんで使っています。お客様へライフスタイルの提案をする事は、今持っている知識で既に可能であり、アクセサリー類は自分も好きでよく使っています。このように、ポテンシャルは十分だし、馬力もある。私を取らない理由は無いのでは?

割と、何を答えても「ふ〜ん」という反応しか得られなかった。
やっぱり場違いだったか。すんません平民がこんな所きて。早よ去(い)なしてもらいまっさ。

そんな感じだった。心臓は常時早鐘。喉がからからになった。
退出。ありがとうございましたー。

あーーすげー香水の匂い強かったなぁ、でもノーブルな雰囲気で、物言いがジェントルで素敵だった。これが大人の男か。マジ天空。名をAさんと言った。

記念受験だし、まあいっか。
大学同期で電通のクリエイティブやフリーランスデザイナーをしている友人たちと会って、こんなんだったよ!とネタにして盛り上がる。

翌々週、最終面接に進みますとエージェントから連絡が入る。

〜二次面接〜(これがファイナル)

先日も来た場所なので、もう勝手分かってるもん♪とばかりにエレベーターに乗る。おお、今回も高速上昇で耳が詰まる。
その日は、革のミニスカートに網タイツを履いていった。60sファッションな感じ。

こんにちは!と元気に挨拶。
前回と違う部屋に案内され、待つ。「お母さん、今日も富士山が綺麗です。」

ややあって本日のインタビューの相手が入ってきた。
おお・・・この人も香水すごい。シャネルのエゴイストかな。
「気をつけ」をしても両腕が体側に付かないレベルのゴリゴリマッチョ。ゴールドジム通ってんだろうな。短髪で髪にジェル。
肩甲骨の開いた白いランニングと、ハーフパンツでビーチサンダルだった。
マッチョイズムとフォービズム。んでエゴイスト。名前をBさんと言った。

えらいすきっ歯やな…と思いながら、話に応じる。
同席したHRの女性もビーチサンダルを履いていた気がする。柔和な笑みをたたえつつ、でも眉毛ガリッと描いてあって、髪の色が明るい。サーファーなのかな。ビバ!外資の香り。

「我々はぁセールス部隊なんでねぇ」口臭がミントの香り。
社内の反逆児。俺こそが勢い猛の者。って感じだった。アイオブザタイガー。
「営業はぁ、製品知らなくっても売れるんですよ。そういう世界。」
目新しくてかっこいいな、みたいな事も考えたりしていた。

双方熱っぽく話した後、急に冷静な顔をして、「わかりました。後日エージェントから結果ご連絡しますんで。」と言われる。

面接終わり。

記念受験だけど、面白い経験だった!
2回面接したので、今後別の会社を受ける時の練習にもなったと感じる。

いっちょマーキングして帰ったろと思い、1Fまで降りてファミレスで遅めのランチをとる。
途中、社会見学の帰りなのか?養護学校の先生と子どもたちが沢山入ってきた。にぎやかな感じで、皆が自由に発声している。こちらも楽しい気分になってくる。ありがとう、緊張がほぐれて素敵な気分になった。

その1週間後、オファーレターを貰った。
インセンティブというのがあるらしい。
100%達成したら月収48〜60万円になるそうで。まあそんな物か、と思った。



会社のロゴは元々レインボーカラーだった。同僚にも何人かLGBTQの人がいた。総じて大変優秀、おしゃれ、身のこなしと仕事ぶりがエレガントで美しかった。
私は元々博愛主義であるが、この[最初に勤務した会社]の環境のお陰もあってか、なにか摩擦が生じるような思想はまったくないし、例えばカレーライスよりハヤシライスが好きな人、何かあかん事ある?無いやろ?という認識でいる。(ちょっと極端な表現になってしまったが、それぐらい自然な事であると伝えたかった。悩みを抱える人もいる中において、安易とも取れる表現については何卒ご容赦願いたい)

ニュースに取り上げられるような海外の超過激なアクティビストは別として、自分の方向について、例えば恥ずかしいとか、自分は変なんじゃないかとか、あるいはその事が原因でいじめられるような思いをしている人がいるかも知れない。しかし、是非インに入ってしまうのではなく、胸を張って自信を持ってほしい。
この[最初に勤務した会社]にしてもそうである。今の社長だってそうだし、何より社会通念や常識は、時代と場所で随分変わる。
あなたが間違っているという事は無い。
自分を愛するとはそういう事だと思う。あなた自身が思ったこと、それが全て。誰に否定される事でもない。
攻撃や非難をしてくる人がいたとしても、「あなたは一体、他者にそこまで介入出来る存在なのか?他人の勝手では?」と突き放して良いのではないかと思う。
必要以上にウエットに考える必要も無く、親や兄弟に申し訳ないと思う必要も一切ない。

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