女性研究者個人論 ―雇われる側と雇う側― 後半

雇う側でやらかした話。
教えて!リンさん 研究者になりたいの!~女性研究概論~」というエッセイ漫画を発表しているリンです。2018年から連載を開始し、2020年年末をもって最終回を迎えました。全30話の中で多くのトピックを取り上げ、さまざまな反響や新しい人との繋がりを持つことができました。


特殊な例に注目するのではなく、できるだけ一般的な現象を取り上げ(概論)、それに対して現行の制度の紹介や自身の意見を述べるというスタイルでエッセイ漫画を発表しました。

前回から女性研究者個人論としまして、私自身(リンさんの中の人)が経験した実際のエピソードを紹介しています。前半は雇用される側で経験した何とも言えない出来事のお話をしました。今回は雇う側からやってしまった意思疎通の難しさの話をしたいと思います。


後半は雇う側のお話です。

以前、発表したレビュー(総説)の最後を以下のような文章で締めました。

こうあるべきと決めないこと、幅広い選択肢を持つこと、そして、それは自身だけでなく、他の人のこともそう思って対応できるようになりたいな、と。

自分のことだけではなく、他の人の自由な発想をサポートできるようになりたいという一文です。今回はこの文章を書くに至ったエピソードを紹介します。


私は実験系の研究者です。ある時期、研究室において器具の洗浄や機器のメンテナンス、私が実験を行う際のアシスタンスをしてくれる実験補助員を探していました。

たまたま、隣の研究室で週2回、1日5時間(週10時間)で雇用されていた実験補助の人の仕事が終わるという話を聞いたので、ウチで働きませんか?とお誘いしました。

子育てが落ち着いた女性で、文系の大学卒(学士)、約20年の専業主婦を経て、1年ほど前にハローワークで見つけた大学の実験補助員に応募して採用されたという経緯の方でした。

週20~30時間ぐらい勤務してくれる人が理想だったのですが、当時、地方大学に所属していたこともあって、簡単に人材は見つからず、近くの縁を頼ることにしました。

*地方で実験補助員を見つけるのって本当に大変なんです。洗い物など研究経験がなくてもできることはたくさんあるのですが、大学にそういうパートタイムの仕事があることはあまり知られておらず、こちらも募集の仕方がわからずで、マッチングがうまく行かないのです(5話)。

これまでと同じ条件で。ということで1年契約を結びました(基本的に契約は1年ごとで、その後更新更新という形になります)。

お話好きな方だったので、たくさんおしゃべりもしました。趣味がたくさんあって、大学のパート以外の時間はほぼ習い事で埋まっているようでした。

本人は、「楽しいし、良い経験になってるから、お給料なくていいから来たいです」と言っていて、こちらとしては、週2回大学に来て時間が潰れてしまうのを申し訳ないぐらいに感じていました。

もっと時間数働いて貰えると助かるのになーと思いながら1年来ていただき、次の契約を考える時期になった時のことです。

「別の場所で週30時間の仕事を見つけた」という理由で契約更新には至りませんでした。

驚きました。どうやら彼女はたくさん働きたかったようなのです。私は1年間一緒にいてそれに気がつきませんでした。

彼女は有名企業にお勤めの夫がいて高級住宅地に住んでいました。度々「お給料はいらない・・」と発言していたので、私は本当に「良い経験」のために大学に来ているのだと思いこんでいました。

実際は自立するためにフルタイムで仕事をすることを望んでいたことを後々になって知りました。

私は普段から、女性研究者が、夫がいるからという理由で微妙な仕事に誘われたり、給与をセーブされている実態を良く思っていなかったし、そういう問題を何とかできないか?と考えている側の人だと思っていました(17話22話総説)。

違いました。私も女性を不当に扱う側の人間だったのです。ショックでした。

私は表面的なところを鵜呑みにしていました。また「給与が欲しい」と発言することは良くないこと、はしたない事、という文化があることにも鈍感でした。こういう文化的、世代的な背景を考慮し、勤務時間の相談や提案を行うべきだったと深く反省しました。

この経験があってから、実験補助員を雇用する際にはいくつか時間数のパターンを挙げて、相手に選んでもらうようにしています。

この件に関して、相手の本心を汲み取れなかった私にも問題はありましたが、希望することは主張しないと伝わらないとも思いました(22話)。

前々回のレビュー(総説)でも述べましたが、女性が結婚している、子供がいる、夫と同居している、パートタイムで働いている、このよう環境が揃うとパートタイムが良いと思われる傾向にあります。

そんな発想はおかしい!と訴えている私自身もそう思っていたということです。

繰り返しになりますが、フルタイムで働きたのであれば、そう主張することは大事です。博士の研究者で教員を目指しているのであれば積極的にそう言いうことは重要かもしれません。


さいごに


2018年からエッセイ漫画を30本。文章を3本発表しました。これでオリジナルの連載はすべて終了です。今後はこれらをまとめたものを作ろうと思っています。

ありがとうございました。


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