月樹 憬

北欧・アイルランド・欧州などの神話・民話・伝説が好きです。世界は知らないことで溢れてい…

月樹 憬

北欧・アイルランド・欧州などの神話・民話・伝説が好きです。世界は知らないことで溢れている。時々落書きをしたり、文章を書きます。 不思議なものやこと、美しいものやことが好き。 20代はハードロッカーで、ファンジンのゲストライターをしていました。

最近の記事

 梅雨明け前だと言うのに、真夏日が続く。  額からつたい落ちた汗が、アスファルトを黒く染めた。   「こんなに暑いと焼け焦げちまうぜ。まるで地獄の釜の蓋が開いたみたいじゃねーかよ!」  苛立ちが、口をついた時。  ふわり、浮遊感にとらわれた。いきおい、足元が崩れ去る。    ドンっ!  着地したかと思う間もなく、息も出来ない熱さに包まれる。 「もー、また間違ってるよ。地獄の釜の蓋が開くってのはね、俺たちの休みの日のことなんよ。君で何人目かねぇ。飽きちゃった」 「暑さって罪

    • 駆け抜ける

       突然、走れなくなった。  足がつったとか、怪我をしていた訳ではない。  あの日、スターターピストルの音が響いても、ピクリとも動かなかったのだ。  気付いてしまった。  ゴールラインの向こう側には、何もないことを。  子供の頃から、走るのが好きだった。  誰よりも速くグラウンドを駆け、テープを切る快感を知ってからは、毎日ひたすら走り続けた。  栄冠を手にする度、羨望と嫉妬の眼差しを浴びる度、己は走る為に生まれたのだと実感した。  そうであったはずなのに。  歓声も、輝かし

      • 決して

        「見てはならぬ」 「開けてはいけないよ」 「尋ねるな」 「あっそ、ならいいや」 「人の嫌がることはしてはいけませんね」 「さわらぬ何とかに、って言うしな」 「「「なぜ無視する!!!」」」 「「「いや、むしろなんで⁈⁈⁈」」」  いやはや、結果は……

        • 生きているだけ無駄な者

           彼女は不器用だった。  何事に対しても一歩引いてしまい、出遅れる。かと思えば、気を回しすぎて空回る。  タイミングが悪すぎて、何をやっても上手くいかないのだ。記憶が曖昧な頃からそうだった。    ハイハイをし始めると皿をひっくり返し、歩き始めたと思えば水桶を倒す。ようやく手伝いが出来る頃合いには、火の番をさせれば食べ物をこがし、水汲みをやらせると途中でこぼす。洗濯物を任せれば風に飛ばされる、と言った具合に。  今日食べるのが精一杯の大家族。十二人兄弟の三女として生まれた彼

          白百合

           深い森の近くで、語り伝えられた話です。    村境のゆるやかな丘に、それは青々とした野原が広がっておりました。その一角には、姫君の冠のように清らかで、凛とした白百合が咲き揃っています。  いつ、誰が植えたかも分からない、けれどもこの季節には必ず咲くのでした。その芳しい香りは、柔らかく吹く風に乗り、道の端に、森に、川に、村の家々の窓辺に届くのです。長い間続いたからでしょうか。いつしか誰もが、その香りを当たり前の様に思っていたのでした。  この頃、街との商いに精を出していた村

          薄紅の風

           道の側に名も分からぬ草花が、朝露を纏ってさんざめいている。柔らかな春がようやく訪れ、そちこちに芽吹の喜びが広がりつつある。    まだ日が昇って浅い時刻、河原の道を歩く男の姿があった。齢の頃はそう、三十路手前と言ったところか。綻びを丁寧に繕った羽織、きっちりと揃えた襟が生真面目な性質を垣間見せている。  この男、お家お取り潰しの憂き目に遭い、先頃ようやく有志の夜間見回りの職に着いたところであった。 「さすがに夜通しの警備はきついものだなぁ。せっかくお天道様が拝めると言うに、

          金の髪 金の波

           今よりずいぶん昔のことです。    とある森の近くに、幸せな家族が住んでいました。  父親は毎日、畑の世話をしています。母親は毎日、乳牛の世話をしています。その恵みで、一家は裕福ではないけれど、貧しくもなく、穏やかに暮らしていました。  二人の間には、もうすぐ四歳になる、それは愛らしい娘がおりました。  豊かに実った麦の穂のように輝く金の髪、夏の晴れた空を映したように透き通った青い瞳、冬の雪のように白い肌、その笑い声は小川のせせらぎのように、きらきらと響くのでした。  二人

          金の髪 金の波

          二つの香り

          そこはちょっと路地裏の小さな喫茶店。 木目調のシンプルなテーブルと椅子、窓際に置かれた装飾品。まるで海外のお店に来たような不思議な雰囲気に包まれて、 私たちはただ静かにお茶を飲む。 なんだか言葉を発してこの空気を壊すのが惜しいから。 色違いのカップから、それぞれが頼んだそれぞれの香りが立ち上る。 そうしてそっと混ざり合う。 柔らかい湯気の向こうに微笑みかけると、同じように微笑みが浮かんでいる。 いつか、こんな風に。 あの憧れた空の下に行けたらいいね。 あの空の下で

          二つの香り

          去りゆくものへ

          秋はどこにいったのでしょう。 私は秋が好きなのです。 高い空に柔らかな日差し。 乾いた風に揺れる秋の花。 そんな秋はどこへいったのでしょう。 ここにはもうない秋の中に 私も消えてしまおうか。

          去りゆくものへ

          もしも扉を開いたら

          noteとは何ぞやと思いつつ幾星霜。 とっくに干からびた脳みそには、遠い昔の残骸しか残っておらぬと言うのに。 これからこちらでこそこそと、日々の呟きやオリジナルのショートストーリー、もしかしたら落書き絵などもアップする予定です。予定は未定なり。 子供の頃、本を読むことが大好きでした。 本の表紙、つまり扉を開くたび、新しい世界が待っていました。その楽しさからチラシの裏に絵を描いて文章をつけて『絵本』を作っていました。その頃の気持ちでゆっくり好き勝手に綴ってゆきます。 よろ

          もしも扉を開いたら