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コロナウイルス連作短編

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2021年3月の記事一覧

コロナウイルス連作短編その72「死んだ名前で呼びつづける」

 グラウンドでは女子生徒たちが持久走をしている。赤楚眞理はそれを早々と終え、休憩しながら…

コロナウイルス連作短編その71「ああ、マジで売れてえ」

「俺らもさ、何か差別発言すれば売れんじゃねえの」  舞台でのネタ見せを終えた後、行きつけ…

コロナウイルス連作短編その70「もし私も自閉症の子を産んだら」

 御影結の長女である御影由良は自閉症スペクトラム障害(ASD)を患っていた。夕食後、それが原…

コロナウイルス連作短編その69「残念なハーフ」

 渋谷駅前で日本に住むミャンマー人たちがデモを行っている。ビルマ語と英語、そして日本語。…

コロナウイルス連作短編その68「わきまえる男たち」

 『目前』という題名の新しい短編映画がロッテルダム映画祭で上映されるという名誉に、男鹿轍…

コロナウイルス連作短編その67「つまんねーこと書くな」

 大島虹は午後9時32分に自宅へと帰ってくる。いつもより早く帰ることができていた。右腰に低…

コロナウイルス連作短編その66「今日は帰るよ」

 間宮城星は日比谷公園の入り口に立っている。ポケットのなかに突っこんだ両手は凍てつきに苦しみ、孤独な氷柱と化している。そこにルース・レオポルドがやってきた。日本の灰色の冬で、短い髪が黄金の輝きを放っている。星の姿を認めると、彼女はマスクを外して手を振ってくる。クリームつきのプリンさながら柔らかな笑顔は無邪気で、とても可愛いと思える。 「はじめまして」  覚束ない日本語でそう言った。オランダ人は背が高いと聞いていたが、事前に言っていた通り彼女は150cmしかなく頗る小さい。むし

コロナウイルス連作短編その65「安倍晋三」

 桝川容は親友である有沢重春と牛角に行き、2560円の食べ放題を頼む。久しぶりの贅沢だった。…