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どんでん返し系 J POP 3選

小説、特に推理小説の世界においては、もはや一ジャンルとして確立した感すらある「どんでん返し」作品。

帯の「最後の1行であなたは必ず騙される」「仕掛けはタイトルから始まっている」みたいな惹句に、心ときめく人もいれば、「先言わんといてよー」と嘆く人もいることでしょう。僕はどちらかと言えば前者。どんでん返しとわかっていようといまいと、たいてい騙されるから。

最近では、どんでん返し作品のみをまとめた短編集なども続々発刊されています。が、実際それらを読んでみると、よほど優れた書き手でない限り、短いお話のなかで切れ味するどい仕掛けを披露するのは難しいのだな、と感じたりもします。

かたや広大なJPOPの世界に目を向けると、短編小説と同じく制約の厳しい歌詞の中で、あっと驚くどんでん返しを描き切っている楽曲が多数あることに気付きます。

この記事では、なかでも個人的にお気に入りの、どんでん返し系JPOP3曲をご紹介します。各曲ともMVと歌詞紹介ページへのリンクを貼っていますので、照らし合わせながらお読みください。

「SPY」 槇原敬之

JPOPの歌詞に潜むどんでん返しに着目するきっかけとなったのが、この「SPY」です。彼の全盛期の楽曲なので、ご存知の方も多いでしょう。

デートをすっぽかされた主人公が、街でたまたま見かけたその彼女をストーキングしてたら、浮気現場を目撃してしまって慌てふためく、というまとめてしまえば身も蓋もないというか身から出た錆というか、なストーリー。

【ひょっとしたら別のやつと 会ってたりして
 跡をつけてみよう イタズラ心に火がついた】

【僕の胸が 急スピードで高なる
 君はまわりを気にしながらヤツと キスをした】

「SPY /槇原敬之」歌詞より引用

非常にオーソドックスなどんでん返しっぷりを見せてくれるこのナンバー。1番ではいたずらっぽくテンション高めな主人公が、2番メロの最後で奈落の底に叩き落とされる、というコントラストが非常に鮮やかです。

(どんでん返しとは関係ないけれど)注目いただきたいのは、Bサビの

【嘘をついてまでほしい幸せが僕だったのかい? 】

「SPY /槇原敬之」歌詞より引用

というレトリック。これぞking of サレ男、マッキーの真骨頂ですね。めっちゃ落ち込んでるのにもかかわらず、この自己肯定感の高さ。そのあと

【今僕を笑うやつはきっとケガをする】

「SPY /槇原敬之」歌詞より引用

突如第三者に牙を剥く感じもヤバい。が、この情緒不安定さこそが、サレ男のリアル、なのでしょう。


「二時頃」aiko

何かと話題のaikoですが、これは渦中の相手とまだまだ二人三脚で頑張っていたであろう、デビューまもない頃の楽曲。

ざっくりいうと「SPY」の男女逆転Ver.なのですが、「SPY」がストーリーテリングの基本である「起承転結」の「転」の衝撃に注力した作品だとすれば、こちらはもう少し技巧的な、ミステリで言うところの「叙述トリック」を感じさせる作品。

【恋をすると声を聞くだけで幸せなのね
 真夜中に始まる電話 足の指少し冷たい】

「二時頃/aiko」より引用

1番メロでは、主人公の女性が、想いを寄せる男性との電話にときめく様子が描かれています。まだ恋人と呼ぶには早いような、片思いの延長のような、そんな関係性も読み取れます。

続く1番サビでは

【ひとつだけ思ったのはあたしのこと少しだけでも好きだって愛しいなって思ってくれたかな?】

「二時頃/aiko」より引用


というフレーズ。ちょっとつかみにくい文章ですが、「この電話の前日あたりに2人は直接会っており、そこで起こった、彼の気を引いたかもしれない出来事を思い返している様子」といった解釈なら成り立ちそうです。

ところが、2番のサビ前でストーリーがひっくり返ります。

【本当は受話器の隣 深い寝息をたててる
 バニラのにおいがするtinyな女の子がいたなんて】

「二時頃/aiko」より引用

1番で描かれていた幸せいっぱいの会話の最中、電話向こうの想い人の傍らで「別の女性が寝ていた」という衝撃の事実。

さらにこのワンフレーズによって、それまでやや曖昧だった作品の全体構造がくっきりと姿を現します。そう、この物語は「全てを知ってしまった主人公の回想」として後追いで書かれた文章だったんですね。

その上で、1番メロの段階では、主人公=書き手のいる時間軸を読み手に”極力”意識させないよう、あたかも現在進行形で起きている事柄・心境のように描いているのが、この作品の最大のポイントです。

”極力”と書いたように、読み手に対して嘘をつくようなアンフェアな記述は一切なく、それどころか、たくさんのヒントをちりばめてくれています。例えば1番の電話シーンですでに

【何も知らず】

「二時頃/aiko」より引用

と書かれていて、「何も知らなかった当時の私を、知っている今の私」の存在を匂わせていますし、前述の

【ひとつだけ思ったのはあたしのこと少しだけでも好きだって愛しいなって思ってくれたかな?】

「二時頃/aiko」より引用

に関しても、全ての歌詞を読んだ後なら、とてもシンプルな意味だったとわかります。先ほどの不安定な解釈は、完全にミスリードだったわけです。

「歌詞中の時間は1番から2番へと順を追うように流れ、その流れの中に主人公も存在する」という読者の先入観を利用した、まさに「叙述トリック」の手法ですね。

余談をもうひとつ。2番サビにある

【言ってくれなかったのはあたしのこと少しだけでも好きだって愛しいなって思ってくれたから?】

「二時頃/aiko」より引用

と言う歌詞は、「SPY」の

【嘘をついてまで欲しい幸せが僕だったのかい?】

「SPY/槇原敬之」より引用

と偶然にも全く同じ論法。ですが、味わいはかなり違うのもおもしろいところです。


「One Man Live」RADWINPS

最後にご紹介するこの作品は、上記2作品とは全く毛色が異なります。人によってはどこが「どんでん返しなの?」と感じるかもしれません。

「SPY」「二時頃」はラブソングですが、この「One man live」は、歌について歌う歌、とでもいいましょうか。斉藤和義の「歌うたいのバラッド」やミスチルの「名もなき詩」など、同カテゴリには名作も多数ありますね。

勘の良い方はこの説明だけでお気づきになるかもしれませんが、この歌詞は「(不完全で複雑な)メタ構造」になっています(あくまで個人的な解釈です)。

冒頭から順番に歌詞を追っていくと、サビに差し掛かるあたりで歌詞中の「君」が、この曲を聴いている「あなた自身」を指しているような感覚に陥いることでしょう。そしてその「君(あなた)」はいつの間にか、この「One man live」の中で「One man live」を歌っている、という奇妙な入子構造に巻き込まれていきます。そして迎えるエンディング…

「最後の1行であなたは必ず騙される」「仕掛けはタイトルから始まっている」系のどんでん返しなので、これ以上は語りません。

ぜひ、想像力をふくらませ、RADWINPSのライブに参加した一観客の気持ちになって、“最後まで”お聞き(お読み)ください!


ご紹介は以上となります。世代も世代なのでJPOP全盛期!と言った感じのプレイリストになってしまいましたが、以降の作品にも、もちろんまだまだ優れた「どんでん返し系J POP」はあるはず。見つけ次第またご紹介できれば、と思います。




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