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英国・・・イングランド・スコットランド・アイルランド・ウェールズのロックシーンについて The 1975 前編 Part4

第4回です。

これまでの記事はこの3つ

で、今回からはThe 1975編に入ります。前編ということでちょっと長くやります。

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The 1975について

2002年にチェシャー州ウィルムスローで結成された、ヴォーカリストのマシュー・ヒーリー、ギタリストのアダム・ハン、ベーシストのロス・マックドナルド、そしてドラマーのジョージ・ダニエルの幼馴染による4人組バンド。隣州のグレーターマンチェスター州のマンチェスターを拠点としている4人組ロッ・・・・・・・・・・・いや、4人組バンドである。

僕が最初に彼らを聴いたのは、デビューアルバム前のEP『Music For Cars』だ。

2013年3月にリリース。ちょっと懐かしい。

2010年初頭、車、モノクロのイメージコントロールからは深夜を思い浮かべられるし、とてもシネマティックな印象を覚えた。

柔らかなシンセ、バンドアンサンブル、緩やかなビート&グルーヴ、効果的なギターカッティングがある「Head.Cars.Bending」と「Me」。時折挟まるシューゲイザー系アンビエントソング「Anobrain」「HNSCC」の2曲。名曲の「Chocolate」。

というところまで聞いたとき、ぼくは最初に「80年代UKロック(ポストパンクやシューゲイザー)とドリームポップやシンセポップが混ざり合ったインディバンド」だと思った。もっと言ってしまえば、世界的な人気を博すならまだしも、まさかスタジアムをうめるようなライブアクトを行なえるとは全く思っていなかった。

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The 1975『The 1975』

Go down, soft sound
Midnight, car lights
Playing with the air
Breathing in your hair
Go down, go down
Soft sound
Step into your skin, I'd rather jump in your bones
Taking up your mouth so you'll breathe through your nose

これは1作目から3作目まで1曲目に添えられた「THE 1975」で共通の歌詞だ。その時々で歌詞の内容はすこし変えてきたが、彼らが狙ってきた世界観を表した言葉だともいえよう。

デビューアルバム『THE 1975』を聴いてみて、先ほどのファーストインプレッションは一気に覆される。例えば上記のようなサウンドというと、どこか垢ぬけていなくて、ちょっとダサいな・・・と思えるものになることもあるだろう。

このデビュー作はそういったインディめいたサウンドを、むちゃくちゃメジャー&マスを狙ったサウンドスケープで整えられている。精巧かつ丁寧なミキシングだ。

The 1975とともに、今作のプロデュースとミキシングを担当したのはマイク・クロッシーだ。2012年以前にはアークティック・モンキーズ『Favourite Worst Nightmare』やFoals『Antidotes』『Total Life Forever』を始めに、The Enemy、The View、Two Door Cinema Club、Blood Red Shoes、Jake BuggといったUKロックのアルバムでミキシングやプロデューサーを務めてきた名手だ。

ちなみに今作後には、Wolf Alice、Twenty One Pilots、Nothing but Thieves、Yungbludの作品でプロデューサーやミキシング、コンポーザーとしても参加している。端的にいえば、イギリス出身の音楽プロデューサーでもかなり注目されていいかただろう。

彼の名を一躍有名にしたのは、The 1975でのプロデューシング・ミキシングに他ならない。The 1975のほぼすべての作品に彼は参加している。

マシューのボーカルやメロディラインをちゃんと引き立てているし、アンサンブルやバックトラックを聴かせるときはそちらがしっかりと聴けるようにもなっている。

ギターはかなりパキっとした音にし、シンセは少しだけ遠鳴りで浮遊感を持たせている。ドラムスとベースの音が重なり過ぎないようにし、グルーヴィさを常に感じられるようにしているので、ビートが「立って」聞こえる。

あまりこういってはいけないかもしれないが、あまりにキレイにリズムが鳴っているのでクオンタイズが過ぎるくらいだろうと思えるほどだ。

ここまで整った質感は80'sのMTV系なポップやエレ・ポップのようでもある。当時の荒い質感ではなく、2010年代的なキレイなリバーブと質感となって立ちあらわれていて、それはギターにしてもそうだし、ドラムサウンドでも同じくそうだ。

この意味において、彼らは荒々しいロックバンドというよりも、ポップスを奏でるバンドなのだと強く印象付けられる。

The 1975が所属するDirty Recordからはその後いくつかのバンドがデビューしていったわけだが、今作でのサウンドスケープは共通言語のように施されている。「ああこの音、The 1975っぽいね」と思ったことが何度あったか。

ちなみに、The 1975後継筆頭ともいえようPale WavesやThe 1975のライブを見たことがあるが、ドラムスにドラムトリガーをガッチガチに使っているのを見た。もちろん音源通りの音になっていた。思い出すなぁ、ものすっごくガッチガチに機材をつけてたの。

80年代におけるゲートリバーブがかかったドラムスと同様に、2010年代はドラムトリガーシステムによって整えられたドラムサウンドが一世を風靡した!!なんて言ってもいいのかもしれない。いやごめんなさいそれは言い過ぎですかね・・・

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The 1975『I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful yet So Unaware of It』

2枚目『I Like It When You Sleep, for You Are So Beautiful yet So Unaware of It』はデビュー作の延長上にある作品だろう。「Love Me」「UGH!」「She's American」 で立て続けに並べられた楽曲は、あまりにも華々しいリフがバッチリと立ったファンキーな3曲だ。Michael Jackson『Thriller』、David Bowie『Let's Dance』、Gang Of Four『Entertaiment!』といった前半に怒涛のリフ押しをしてくる名作アルバムがチラつく。

で、ここで重要なことがある。

じつは彼らの諸作品群は、EPやファーストアルバムで示した音楽的な広がりから大きな変化や拡張をしていない。むしろ作品ごと・曲ごとによってサウンドのグラデーションや色合いが少しずつ変わっているだけなのだ。この点はとても重要なのではないかと思う。

例えばこのセカンドアルバムにおいては、先ほどの「She's Amrican」からあとの「If I Believe You」から「I like it~」までの7曲はシューゲイザーのようにエコーが強くかかったアンビエントから緩いグルーヴのエレクトロポップへと渡っていく。

確かにリズムセクションはかなりパキっと聴こえているが、楽曲がもつサウンドスケープは、晴れやかというよりは曇ったムード、後ろ向きなムードをもたらすものばかりなのだ。

「The Sound」は序盤に戻るかのようなファンキーなエレポップだが、その後は元に戻るように緩やかなグルーヴ、エレクトロニカ、ドリームポップ、フォーク・サウンドが続き、どこか尻切れトンボのように19曲のアルバムは締めくくられる。

本作は彼らの飛躍作として賞賛されることも多いだろうが、その実「まどろみと幻惑」のチルなムードがある。先に書いたように、それはファーストアルバムでも確認できる彼らの一部分であり、今作では19曲中の半分近くで大きく幅を取ったととらえていいだろう。

もっと言ってしまえば、「Love Me」「UGH!」「She's American」「The Sound」の4曲以外は、彼らのイメージにあるような「踊れるポップスバンド」という華やかで煌びやかなスターの姿からは、随分と離れているといえよう。

いったん目先を最初に戻してみよう。

「Love Me」はファーストアルバムの大成功によって得てきた名声や注目を、あえてそのまま曲にしてみせて、皮肉めいた言葉を残している。

君は飛行機の中で 自分についての記事を読んでいる。
息抜きとしての名声。
ファッションにのめりこみ。“カークラシアン”(直訳はこれだけど、おそらくカニエウェストの奥さまカーダシアンのこと)らしく堂々と

という歌詞。サビでは「君がそうしたいなら、僕を愛して」と告げるわけだ。そしてこう歌う

君、有名だよね 友達になろうよ
何か一緒にすごいものを作るんだ
やりたいことをやってみようよ
僕らは、今まで許容してきた世界を否定するためにここにいる

次に「UGH!」だ。端的にいうとこの曲はヒットソング「Chocolate」と同じで、薬物にまつわる歌だ。

肺を満たさなきゃいけないんだろ。
ガムの効き目が切れてきたから。けどもうやめるなんて言い出すなよ。

君だけだ。今の頭の中は。
僕の人生を2度も征服しようとしてる性欲がなくなって、
君は決まりごとみたいに僕を手伝う

下世話すぎるけども書こう。肺を満たすのは大麻の煙、ガムの効き目はモロに考えると覚せい剤。君とは薬物による中毒作用で、性欲がなくなるのは薬物服用時の副作用によるものだ。キメセクという言葉が流行っているからそれはウソだろと思われそうだが、じつは一例としてありえるそうだ。

4曲目「A Change Of Heart」はまるで「UGH!」の続きのように読めるかもしれない。

もうハイになってるような歳じゃないって?
最初は体目当てだったか?確かに理由のひとつではあったよ

こういう出だしだ。しかも曲中では、相手からは病気なんじゃない?とかへんなニオイがするとか言われていて、失恋というには傷は深々としている。

5曲目にくるのが「She's American」だ。

イギリス出身ながら、ファーストアルバムで果たした世界的なブレイクはアメリカのマーケットによるものだ、世界中の国々をまわるツアーのなかにはもちろんアメリカもあったろう。

大きな名声、経済的な成功、薬物中毒、そして歌ったのがこのフレーズ。

もし彼女が好きだと言っても 自分たちは食べないよ。
社会的的な意味で、彼女はアメリカの子なんだ。
もし彼女が歯を治したって言ってきた、
そう、彼女はアメリカの子だから
彼女は、痛みから逃げるために寝ようとしてくる。
きっとこの子も法で守られたお守りみたいに銃を隠してるんだろう、自分でカスタムしたやつさ。
彼女は昔の時代のように電話をかけてるんだ、世界に希望を抱きながら。
その場に流された恋はしないで、きみはあの子に恋をするんだよ

この言葉は、明らかにSNS上におけるフィルターバブルやファンダムにむけているし、彼らにむけて「君たちはアメリカ人のようだ」と切って伏せる。それも怒りではなく、諦めや悲しみのニュアンスが混じったアイロニカルな目線だ

と同時に、そういった目線を抜きにして、「イギリス人のボクとアメリカ人の彼女」という失恋ソングのようにも読み解ける余地もあるわけだ。

ここまでの歌詞を読んでみればわかるように、マシューはとても素直に言葉を述べているように見える。富と名声に対する自信とちょっとした否定、SNS上でのフィルターバブルやファンダム的な在り方への警句、そして薬物中毒、それらをあくまでファンキーな楽曲群に認める。

マシューがインタビューで答えていたように、この当時に彼が薬物中毒になり、かなり厳しい状況におかれていたのは本当のようだ。チルいムードの楽曲が多いのは間違いなくその影響にある。それらがティーンエイジャーに刺さって、大きなファンダムを形成した。

今作は、現在まで発売された4枚のアルバムのなかでも、もっとも売れたアルバムとなり、The 1975は、2010年代のバンドシーンで唯一生まれた新たな大衆的なヒーローへと祭り上げられる。いまにつながるこの視座は、間違いなく今作によって生まれたものだろう。

ロックバンドが不在だ!と声高に叫ばれていた音楽メディアや音楽ファンの声なぞウソかのように、古典的過ぎるほどにロックスターな生活を送りつつ、非ロック的なサウンドスケープで成り上がって見せる。これほどに皮肉なことはないだろう。


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